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敵情を知らざるは不仁の至りなり(サーチデッキ最強説)

※途中の文は孫子の兵法に出てくる用間篇の一文です。時代劇等の寺子屋などでよく子役が朗読している「のたまわく」風に朗読したらこんな感じかな、と。たぶん言い方も主人公の解釈も間違っているので本気にしないでください(白目)


注意分の後にしてしまいましたが、誤字脱字のご指摘ありがとうございます。過去文見直すとまた出てきて辛い。

※途中の文は孫子の兵法に出てくる用間篇の一文です。時代劇等の寺子屋などでよく子役が朗読している「のたまわく」風に朗読したらこんな感じかな、と。たぶん言い方も主人公の解釈も間違っているので本気にしないでください(白目)




 城門の前にて返答を待つ。


 場には前にも後ろにも殺気立った城詰めの守衛たちの妖怪垣(人垣)。今は国の有事と持ち出された槍が突き出されれば、たちまち槍玉の語源と同じ目にあうだろう。

 何本もの槍に突き刺され、上に下に何度も跳ね上げられるのだ。犠牲者が生きていようと死んでいようと、その動作を止めよと命じられるまで。


 自動防御の効果中とはいえ、こうも大人数から睨まれては平静ではいられない。有能な自動防御先生でも殺気を受けて委縮する内面まではケアしてくれないようだ。


 行きはいってらっしゃいと挨拶をしてくれた兵士たちも、戻りはまるで敵を見るような目つきなのだから屏風覗きの立場は激動が過ぎる。身から出た錆ではありますが。


 せめて胴丸さんあたりの部隊がいればもう少し話の通りが良かったろうに。残念ながら彼女の復帰は明日以降であり、配置換えがあったのか鎧っ子の部隊所属らしき妖怪員じんいんは一人として見えない。


 夜鳥ちゃんが『他の雀』に伝えてくれる前に、まあ大丈夫だろうと甘く考えて正面から入城手続きをしようとしたのは大失敗だった。あっと言う間に取り囲まれて『罪人を引き渡せ』の一点張りである。いや、守衛のみなさんは悪くない。これが仕事なのだから。


 どちらも不法入国という死罪相当の罪人で、その上に片方は『戦争中?』の敵国の『お偉いさん?』。操られた味方が暗殺者を引き入れてしまった記憶も新しい状況で警戒しないほうがおかしいというもの。


 どうも屏風覗きの中で、反則(チート)二妖怪(ふたり)を強奪してきた粗暴な態度が残っていたようだ。小物が根回しを怠れば失敗して当たり前である。

 借り物の力はどこまでも借り物、足りない腕力で大剣を雑に振るえば怪我をするという事実をいい加減に自覚すべきなのに。何度失敗しても懲りない。


 きゅっと、手の平を掴む力が増してたのを感じて我に返る。何か問題が起こると関係無い事や余計な事を考えてしまうのも悪い癖だ。逃避癖というヤツだろう。


 御裁可は立花様に仰ぐ、二妖怪(ふたり)を引き渡す気はない。これが一貫した屏風覗きの回答だ。何を言われようと引き渡す気は無いし、抵抗せず身を晒した者に縄をかけさせる気も無い。

 現にこうして正式な手続きを取っているし、入城はあくまで立花様の許可を待つつもりだ。取り囲むのは役目柄しょうがないだろうが、だからと言って物を知らない小さい子を威圧するのは止めてほしい。


「この者たちはなんで怒ってるの?」


 その言葉にガチャと鎧の鳴る音がした。怒りを纏った空気がより重くなったのを感じる。立場が違えば屏風覗きも腹が立ったかもしれない。しかし、今は守衛の彼女たちと対峙する側だ。ホント、何でこんなことになったのやら。


 それと茜丸氏への回答だが、だいたい金毛様が悪いから君は気にしなくていい。


「それはあんまりです、屏風殿」


 関わった時点で取れる行動は初めから限られていて、その中で貴方なりに最良を選んだのでしょうね。それでも自分から関わったら責任が付きまとうというものです。

 そういう訳で『だいたい』の残りは根回し下手の屏風覗きの責任だ。だから諦めてこっち側でいますので、失敗を悔やんで消沈するのは後にして頂きたい。


 誰だって泥船には乗りたくない。けれど、その泥船をこさえたのが自分なら嫌でも乗るしかないし、やむにやまれぬ事情から危険負債すべて承知の上であえて乗るヤツもいるだろう。これは仁とか義とか立派な事じゃない、単なる意地だ。

 一度張ったら張り倒すしかないという賭博で一番陥ってはいけない状態である。人は頭で分かっていてもこうなっちゃうのだ。大負けするアホが後を絶たない訳だチクショウ。


 取り囲んでいる者たちの中に、先ほどより目の据わった兵がじわじわ現れ出している。危険な気配だ。血の気の多い輩が事後承諾を期待して、強引に取り押さえようと考えている気がする。非常に不味い状況。


 屏風覗きに安全に手加減できるほどの手腕はない。下界でやったキューブによる疑似尿道結石もどきは決して安全とは言い難いし、目の前の兵たちはガチケモと顔だけケモと人の女性型の混合部隊。人型の男がいない。


 誓って下世話な話じゃなくあくまで医学的な話で、『どのあたり』にキューブ突っ込んでいいのかわからん。ケモはもちろんさっぱりだし、人の女性って内臓の『どのあたり』まで男と同じ構造なんだろうか?


 キューブは個人の捕獲は得意な方だが、一か所に何人も固まられると切断してしまう箇所が出る危険性が高い。ひとつのキューブの最大面積は3メートルの立体正方形。これ以上大きく作れない。はみ出たらその場所は問答無用で真っ二つなのだ。連結しても同じ事、内部の壁は無くならないのでやはり切断してしまう。


 先に周囲に設置して壁にするか? それが撃発を招く合図になるかもしれないのが恐い。明確に敵味方を『別けた』光景になる、それもこちらが国の敵側で。

 屏風覗きは白ノ国で過ごしたいのに、その暮らしに言い逃れのできない真っ黒い点が落とされようとしている。それが何より恐い。


 秋雨氏の姉妹たち、あんたらよくこんな気分でいられたものだ。住んでいる土地を裏切るって辛い事だろうに。何がそうまでさせたのか聞いてみたくなったよ。


 やがて黒頭巾の猫たちの集団が現れて、道を阻む槍林を割るまで睨み合いは続いた。


 守衛と一口に言っても部隊は何隊もある。とばり殿や胴丸さんのような知り合いもいれば、今日この場を守っていた誰の名も知らない隊もいる。あの二妖怪(ふたり)に手間をかけずに、なんとか独力でこの部隊と関係を修復できる機会が訪れることを祈るばかりだ。


 城から生きて出られればの話だが。





 お目通りまで時間が長く感じられる。今回通されたのは以前入った金魚の皿が飾られた一室。金毛様と茜丸氏も揃って通されている。残念ながら夜鳥ちゃんはダメらしく、途中で別にされた。


「もしも命が危ういと感じましたら、金毛茜丸(それら)は捨ててどうにかして逃げてくださいませ。こちらは何とか人を集めます」


 彼女は物騒な事になりそうと感じたようで、耳元にそっとそう呟いて見送ってくれた。妖怪(ひと)は集めなくていいと断ったけど。何をするつもりだったのやら。

 そもそも相手が立花様という時点で、どんな小細工をしようと詰んでいる事は確定だ。あの方が刀を軽く一振りするだけで頼みの自動防御さえ余裕で抜かれそうである。キューブだって出す前に腕や首をバッサリだろう。


「ねえ、あれはなんてか書いてあるん?」


 悪いがその掛け軸は屏風覗きも読めない。前回見たものとも別のようだ。


「間事未發而先聞者、間與所告者皆死(かんじ いまだ はっせずして さきんじて きこえれば かんとつげるもの つげたもの みな ころすべし)。大陸の古い兵法の言葉ですよ」


 学の無い屏風覗きに代わって金毛様が答えてくれた。少しは精神的に持ち直してくれたようで、曲者の雰囲気を出す妖しい糸目もだいぶ様になってきた。これからの事を考えると彼女の弁舌が頼りなので復活はとてもありがたい。


 外にまだ知られちゃいけない情報が広まっていたら、関わったスパイと、その情報を知った者を口封じしろって意味だろうか。バイオレンスな戦訓だな、特に今の状況では立花様の間接的な脅しなんじゃないかと思えてしまう。しかし、むしろ金毛様は覚悟が決まって気力が上がったようだ。


 それでいい。誰より茜丸氏を一番助けたいのは貴方なのだ。もはや外野の恫喝で萎縮する段階は過ぎている。開き直って戦い抜いてほしい。何故ならこの一連の騒動は黄ノ『国』の総意でも、黄ノ国の『重鎮』の独断でもない。


 只の化け狐一匹が、損得を放り出して『友人』を助けようと奔走した物語。


 だから屏風覗き(脇役)だけでは正しく上演できないし、してはいけない。


 この物語の『主人公』である金毛様が正面に立って立ち回ってくれないと、『脇役』である屏風覗きは援護どころか登場もできないのだから。


 城に到着するまでに金毛様(主人公)に話してもらえた事で分かったのは、腹黒っぽいキャラだって大事にしているものはあるという話。


 この糸目の狐が大切にしているのは友。まだ幽世が色分けされていないゴチャゴチャの時代、二妖怪ふたりは現世で親しい友人関係だったらしい。訳合って幽世に来た時期が違ったため、互いの存在を幽世で知ったときには赤と黄で色分けの後であったという。

 既にどちらも国内で高い地位にあり、友人の下に行きたいから国を抜けるなど許される段階では無かった。


 運命とは残酷なもので、両者とも密かに友人が幽世に来たとき友が楽を出来るように己の地位を高めていた。それが『一緒にいたい』というささやかな願いを阻んでしまうなど思いもせずに。


 赤との交渉や説得で黄ノ国が出張っていた理由のひとつはコレか。国同士の交流では異例の事情、損得抜きの信用があったというわけだ。友情というあやふやでいい加減な、為政者としてとても自国民を説得できそうにない自分たちだけの宝石を担保にして。


 第三者として評価すれば、統治する側のメンバーとして失格と言わざるを得ない。当人はたとえ損をしても友人のためと思えば笑って付き合えるだろうが、国の損は国民の損だ。単純に国益の話だけしても、一回の失策で平民は血の気が引くほどの損失額になるだろう。


 けれど、その輝きは金毛様には大切な宝物なのだ。地位も身の安全も投げ出して友を助けに向かうくらいに。


 愚かと思う、それを美しいとも思う。願わくばこの物語が無難でおもしろくもない平穏な終わりを迎えますように。


「ねえ、お腹空いた」


 君はおにぎり食べてなさい。具は子供も大好きえのき茸だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 金毛さんにとって猩々緋ちゃんは大事なことは分かったけど、藍ノ国に行ったほうが良かったんじゃないかな? お人好しを当てにするのは危険過ぎー。
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