三色談合
いつも誤字脱字のご指摘、まことにありがとうございます。
9月になると気が早いお店は秋の甘味と言えば栗や芋と、どの企業も定番のお菓子や菓子パンに使って出してくる季節ですね。
私は子供の頃から渋めのお菓子を好む傾向があり、ケーキなどもモンブランなど渋めが好きで、他の子と取り合いにならないタイプでした。むしろ偶に王道系を欲しがると『いつも遠慮してるし、たまには譲ろう』と先に選ばせてくれるので、変わり者は変わり者なりに得はあるもんだと思ったものです。
逆に大人になると渋めのケーキが人気でジャンケンとかするので、これはこれで楽しかったり。
※今回、切らずにズラッと書いた部分があって読み辛いと思います。読み飛ばす場合、主人公は食べ物を粗末にする、食べ方の行儀が悪いタイプが嫌いとだけご理解ください。あと和菓子好きです。
茜丸と紹介された『少女?』は屏風覗きにさして興味はないようで、会釈程度に頭を下げた後は団子しか見ていない。ただ、食い気の強い腹ペコキャラという感じには思えなかった。
というのも食い物を見ているというより、団子の造形や色合いを見つめているような『観察』の雰囲気を感じるのだ。
すでに二人の分は注文されているので余計なお世話かもしれないが、ちょっとした様子見を兼ねて茜丸嬢たちにお団子を勧めてみる。
『勧められた物を断るか、素直に口にするか』その対応からある程度、相手の人となりと思惑を探れないかと考えたからだ。
やんわり遠慮するのか、明確に拒絶するのか、進んで受け取るのか、お愛想で手に取るのか。頼み事をしに来たのか、助けを求めているのか、騙しに来たのか、脅しに来たのか。つまり、こちらをどう評価しているのか分析できるのでは、と。
「なんで棒に刺してるの?」
知らんがな、とは敵対してないからまだ言わない。特に礼も遠慮の言葉もなく『手に掴んだ』団子串。彼女は桃色の塊をひとつ毟り取ると、食べるでもなく眺めている。掴まれた残りの団子が指の中で変形していることにも無頓着のようだ。
団子が串に刺さっているのは手を汚さないためと、団子串という見た目と色の意味合いにひとつの美的価値、クサい言い方だと風流を見出しているからではないかな。極端な事を言うならお菓子も料理も材料の塊でしかない。それぞれ切ったり捏ねたり火を通したり、色々と加工はしているけれど、どこまで行っても栄養でしかない。と言い出したら身も蓋もないほどその通りだろう。しかしだ、栄養が一緒と言われても全部ミキサーに突っ込んだ液体を飲みたいか? 肉も野菜も調味料も、メインもデザートもグッチャグチャに混ざったゲロみたいなものを。単品ずつならいいとかいう話じゃない。物に形があるのは求められているからだ。その形が便利だったり、美しかったり、おもしろかったりするから形が決まる。形で味わいが変わる調理法だって山のようにあるのだ。野菜の切り方ひとつでもとんでもなく多い。火の通り、味の染み込み、煮崩れの防止、縁起担ぎもあれば目を楽しませるために整えることもある。どんな形にだって歴史がある。蕎麦は最初のころはお湯や水で溶いて飲む粉末飲料のような食べ方だった。それが徐々にすいとんのような固形物になり、引き伸ばして切った事で蕎麦切り、今のお蕎麦の形になったのだ。なぜか、そのほうがおいしいから。味を求めるほどの価値を見出したからだ。団子だってそうだ、色付けしてあるのは作り手の単なる気まぐれじゃない。いや、最初はそうだったかもしれないが、このほうが良い、という気持ちになったから続けられ残っているのだ。おまえの摘まんでる桃色のだんごは紫蘇や桜の塩漬けの色素でその色が与えられているんだよ。色の順番だって無意味じゃない。桃の花咲く春と積る雪の白、そして割れた雪から顔を出す草の色だ。辛い年を越し、春の訪れを喜ぶ形なんだよ。三食団子色も形も、誰かの喜びと祝いが形になっているんだよ。誰かの願った形なんだよ。
だから、団子を、掴むな。串の、団子の方を、摘まむな。食い物を、粗末に、するな。
「屏風殿っ! そこまでっ、そこまでで!! どうか!!」
いけない、途中から説明がちょっとだけエキサイトしてしまった気がする。
気が付けば隣の金毛様のさらに横にいる茜丸嬢に届けとばかりに、覆いかぶさるような姿勢になっていた。
両手で必死にこちらを押し止めていた金毛が、やっと声が届いたと言うように安堵している。その様子からしてだいぶ前から呼びかけていたようだ。
いや、まったく聞こえていなかったよ。これは冗談抜きに鼓膜を一度診察してもらったほうがいいかもしれない。
「じゃあ、これはどうすればいいの?」
目を見開いてこちらを凝視していた茜丸氏は、つまんだ桃色の団子と、掴んだままの白、緑の団子を持て余すように呆けた顔をした。そんなん上から順番に食えばええやん。
取ってしまったものは仕方ないから頭はそのまま、残りは串の下持って食べればいいのだ。食い物なんだから。マズいな、ろくろちゃんの影響かエセっぽい口調がポロッと出てしまった。あの辺の方言、やたら感染力強いから怖いわぁ。
その後しばらく、まぐまぐと団子を咀嚼する『少女?』と吹き出した汗を拭う狐っ子が無言になった。これで落ち着いて湯呑みを傾けることが出来る。
いつの間にか茶屋にいる客は我々だけになっていた。さすが白の住人、この二人がキナ臭いと判断してティータイムを切り上げたのだろう。茶屋にとっては災難な話だ。
屏風覗きもまったく無関係ではないし、せめてもう一品くらい茶菓子でも頼もうか。もしくはお茶を頼んだほうがいいのか?
例えば居酒屋の場合、原価の問題でつまみや料理は頼まれた分だけ赤字になるらしい。
あくまで利益回収の要はお酒であり、つまみや料理はお酒を頼んでもらうためのサービスの延長なんだと聞いたことがある。酒を頼まずに食い散らかしていく客は経営の実情として迷惑でしかないらしい。
昼のランチタイムサービスとかも客に覚えてもらうための撒き餌、一種の宣伝費みたいなものだというから飲食店も大変だ。
であれば茶屋はどうなんだろう。どちらも頼むのが一番無難なのだろうけど、あまり飲み食いすると後が恐い。
いっそおみやげにしようか? 季節的にあまり食べ物を持ち歩きたくない時期だが城に戻る程度の時間は保つだろう。
「屏風殿。もう腹を割ってお話いたしまする」
ふたりの注文を置いた後はこちらに背を向けて一心不乱に洗い物をしている店員さん。その背中には『声をかけないで』と書かれているようで追加注文するのは気が引ける。
そんな拒絶の姿勢にちょっと傷ついている屏風覗きに、モコリとした尻尾をひと払いした金毛様がため息を吐いてから彼女の思惑を話し始めた。
要約。この子は戦争反対派。ちょっと前に赤の内輪揉めで派閥負けして困ってる側なんで、御前に口添えして助けてやって。
ちょっと貴方、無茶を仰る。そもそも黄ノ国はそんな要求してどう立ち回る気なんだ。悪いが屏風覗きは誰でも助ける善人じゃない。
無理そうなら助けないし、得が無いなら助けないし、嫌なヤツは助けない。少なくても今現在『切る』判断ふたつに引っかかってる相手には塩対応しかできないぞ。
金毛様は顔見知りでお世話になったと感じているから、まだ話を聞いているだけだ。
「仰ることはごもっとも。しかし、それでもお願いしたく」
頭を下げられても国の大事にかかわる話。安易に頷けない。何よりこの二人、具体的にどうしたいのか。
白に代わりに戦ってもらって返り咲きたいとかだったら、この場では話だけ聞いて通報すんぞ。虫が良すぎる。何より下手したらコレ、他国との密会現場じゃねえか。
もはやこちらの意思に関係なく、外から見たら半分巻き込まれてしまったも同然。潔白を証明するため今すぐ城に駆け込むくらいの勢いがないとこっちの身が危ない。
今関係ないが、屏風覗きは『潔白』って言葉を聞くと途端ににうさん臭く感じる。悪い意味で偉大な先人たちの手垢がベッタリついているからだろう。ああ、面倒事が煮詰まるとどうしても余計な事を考えてしまう。
「これはなんで青い粉被ってるの?」
知らんがな。とは敵対してないからまだ言わない。だから手掴みすんな、きな粉まみれじゃねえか。竹楊枝あるでしょ。歯形つけないで済むくらいに小さく切って一切れづつ食べるの。うぐいす餅のきな粉はうぐいすの羽の色に見立てた色付けで、完全な丸形からあえて崩した卵に近い丸っこい作りになっている。鳥の鶯を模している外見を彩る粋なお遊びだな。豊臣公に献上されたのが始まりで、今でこそ馴染み深いが、当時はさぞ珍しいお菓子だったろう。誰が作ったかはちょっと思い出せないが菊屋という菓子屋の発祥だったはず。緑色なのはきな粉に青大豆を使っているからだ、昔の日本は青と緑を別けた言葉が無かったので一緒くただったのだ。だから別の物体や自然現象の例えを使って色を表現したりした。色表現に関して青と緑に限ったことじゃないが。青餅とか見たまんま過ぎる名前より優雅だろう? 青きな粉以外にもきな粉に抹茶を混ぜた作り方もある。粉を吹くのは餅が引っ付くのを予防する意味もあるんだが、きな粉は自前でもう粉を吹いてるから必要ない。元々きな粉を使っている以外は大福とほぼ同じと言っていいお菓子ではあるけど、春の到来を伝えるうぐいすを模すことで縁起物の意味を持たせているわけだ。というか和菓子に限らず売り物にしてる調理品はだいたい縁起を担いでいるもんだ。つまり縁起物を粗末にするのは運気を下げるんだ。やっちゃいけないんだ。
そういう意味でも、食べ物を粗末にするな、行儀よく食え、食える量だけ頼め。
「屏風様っ!! 屏風様っ!! お願いですから、お願いですから落ち着いてくださいませぇ!!」
誰だ三色団子の目出度い配色を食紅だけ使って売り出したヤツ。風流もクソもない、それじゃ全部味一緒でしょうが!!
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