親世代の流行が極短期的に流行する現象は名前をつけるべき
今回も誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
投稿を初めてそろそろ半年、こうして誰かが読んでくれていることをありがたく思います。
目を通してくれる皆様、ありがとう。今後も気が向く間だけでもお付き合いください。
※最初考えたザブタイトルは知らない人は意味不明だし、何より規約に引っ掛かりそうなので止めておきます→『あべ〇!!』
なんかやたら可愛い女児がいると思ったらとばり殿だった。
まんま小学生の夏の学校制服を着ていて似合い過ぎ。見た目の可愛さと、これまた見た目が幼く見えるせいもあって女装にまったく違和感がない。大真面目に学級委員とか飼育員とか、面倒な役割を率先してこなしている子って感じだ。可愛い、もとい弄られ役お疲れ様です。
近くに正座している禿っぽい格好をした子たちは雀の経立で、こうしてよくとばり殿に女装とかさせて遊んでいるらしいね。今回はやり過ぎたようだ。それにしても幽世で現代の衣装を見ることになるとは。それもだいぶニッチな衣装を。状況によっては事案発生と呼ばれても言い訳できないよソレ。
「びょ、おわぁっ!?」
扉脇から顔を出してすぐ、猛禽のような鋭い眼光と3秒ほど視線が合った。『この馬鹿者どもがっ!!』の『もがっ!!』あたりで。
幻の秒針の音が聞こえてきそうなほどカッチコッチと間を置いて、ちっちゃい『女子?児童』、もとい守衛さんはその場で悲鳴を上げて蹲ってしまった。
「曲者!!」「殺せ!!」「毒虫!!」「興味あり? フヒッ」
「お遊びか? つくねになりたいなら来いや」
正座から立ち上がった数名が各々得物を構えたとき、静かだがドスの効いたろくろちゃんの声が室内を支配した。それだけで色めき立った連中は目に見えて竦み上がり、一瞬でその場を静寂が支配した。
「ほな、後は好きにしい」
気が付けば、いつの間にか手から離れたろくろちゃんは人型になり、困惑する屏風覗きを置き去りにテクテクと帰っていった。
どうすんのこの空気。
全方位で物凄く気まずい中、ひとりフヒッている禿っ子が蹲ってイヤイヤするとばり殿をこちらに押し付け、周りの兵たちに持ち場に戻るよう促して自分も去っていった。
最後に扉から顔を出して、ごゆっくりと言ったときの目は、何故かコールタールのように粘質で真っ黒な色を帯びていた気がする。良い意味でも悪い意味でもあの子だけ毛色が違うっぽい。
それにしても失敗したな、ミーティングか反省会的な事をしていたようだが、おそらくとばり殿が上司として叱る場面だったのだろう。そこに空気を読まない闖入者が来たせいで、これ幸いと叱責を切り上げるダシに使われたようだ。こうなると後でまた全員を呼び出して叱るのも難しいだろう。やはり面会はアポ取りしてからすべきだった。
堪え性のない自分が恥ずかしい。毎日放課後につるんで遊び明かす子供じゃあるまいに、もっと余裕を持った友人付き合いをすべきだ。お互い仕事だってあるのだから。しかし、今日はもう来てしまった。用だけは済ませてさっさとお暇しよう。元よりこの子の無事を確認するのが用件の大半だったのだし。
「おい、じろじろ見るなよ。これは雀どもが持ってきたんだ。私の服じゃないぞ。違うからなっ!?」
まあ、無事とは言い難いか。ここまで完全に女装させられては恥ずかしくて仕方ないだろう。見てしまったのは屏風覗きだけど、その恰好をさせたのは別妖怪なのでこちらは悪くないですよ? それに黒歴史のひとつふたつ作ってもとばり殿の価値は下がることはないさ。ウン年後に思い出しては悶絶するかもしれないけど。ドンマイ。
最初は体を捩ったり手で身を隠すようにしていたとばり殿は、こちらが落ち着いて近況を話していると段々諦めがついたようで普通に話すようになってくれた。それでもスカートが気になるようで、前後を手を使って抑えている。いや貴方、フンドシでも平気でしょうに。
「それとこれとは違うっ!」
うーうー唸りながら否定する様が余計に可愛い。うん、これ以上見てると目覚めてはいけないナニかに目覚めそうなので最後の用件を済ませよう。
まず借りていた短刀がとても励みになった事、その預かり物を落としてしまった事、探したが自分では見つけられなかった事、お城の兵に見つけてもらった事、ひとつひとつ説明していく。ありがとう、そしてごめんなさい。
「ん」
正座する。もう体にパターンとして染みついている気がしてきたな。いつもの長い一本下駄と違って、今日は上履きを履いているので座ると目線がとても近くなる。
この子は小さな体にコンプレックスがあるのか、いつも履いている下駄の歯がやたらと長いのだ。それでもこちらのほうがずっと背が高いので、どちらも立っていると視線はこの子が下過ぎになる。逆にこちらが座るとこの子の目線は上過ぎになって、どっちでも視線がいまいち合わなかったりする。
さすがにこちらも座高だけでは身長は抜かされるな。それでも少し上から見下ろされる程度の形だけどさ。他よりは近い。
「本当に役に立ったのか?」
何も切っていないだろう、そう言って鯉口を切った短刀を戻す。刃を見るだけで使ったかどうか分かるらしい。切った張ったという意味では何にも使っていないのは事実だ。
それでも、役に立った。まともに知り合いのいない場所で、死体だらけの光景で、何をすべきか迷ったあの瞬間、とばり殿の短刀がどれだけ心強かったことか。とばり殿がまるで隣にいるように思えて、とても勇気を貰った。他の誰に何を言われてもこれは本当のこと。たとえ貸してくれたとばり殿自身が否定しても、その短刀は間違いなくこの臆病者を助けてくれたんだよ。
だから何度でも言う、ありがとう。
「分かった、分かったからっ。そんな真剣な顔をするなっ、恥ずかしいやつめ」
ちょっと暑苦しかったか? できるだけフラットな気持ちで感謝を伝えたつもりだったのだけど。友情とかは変に口に出すものじゃないと思ったので態度で表したつもりだ。それがどうにもクサかったようだ。こちらが大真面目な分、素面のとばり殿のほうが恥ずかしくなったらしい。
「役に立ったならいい。むしろこれで切り結ぶ場面になるほうが問題だわ」
おまえは弱いからな、そんなからかいを入れつつ短刀を握った拳でグイグイ顔を押してくる。なんだコノヤロー。
「ひゃあっ!?」
お返しに脇腹辺りを突くと児童服の守衛さんは結構な勢いで仰け反った。さては反撃を予想していなかったな? 脇腹突きはとある世紀末暗殺拳の真似で、何故か通っていた学校で流行ったことがある。元ネタは漫画ではなく古いアニメのほうだったらしい。
もはや確認する術はないが、大昔のアニメなのに誰がやり出したのやら。親辺りの影響だったのかね。
「このっ、不意打ちとはいい度胸だ!」
お互いの無事を確かめるように何度もじゃれあった。知らず目頭が熱くなって、目元を拭う。生きて戻ってきた、生きていてくれたと、やっと実感した気分だ。怖かったよ。怖かったんだよ、本当に。死んでしまうかと。君が、死んでいるかもと。
「フヒィッ!!」
急に扉の影から響いた声に顔を向けると、先ほどの『毛色の違う禿っ子』が顔半分だけを出してこっちを覗いていた。うわぁ、凄い邪悪で良い笑顔。よく見ると後ろに他の禿っ子も連なっていた。じゃねえわ、他の兵士もまだ居たわ。うわ、すごい恥ずかしいぞ。
「っっっらぁ」
ゆでだこ、という単語が頭を過る。貴様らの、『き』さえが出てこないほどにドモった友人は耳まで真っ赤な顔で出歯亀たちを貫くような眼力で睨みつけた。総員、対音響防御。
「さっさと、散れぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
小さな肺と横隔膜からは考えられないほどの、まさに爆発のような雄たけびが室内に響き渡り調度品がビリビリと揺れる。
治りたての屏風覗きの鼓膜には、とても厳しいでごさいますで候。