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『馬(命名なし)』北海道和種、道産子(400キロ級)

評価が増えました。ウレシイ、ウレシイ

 馬は思っていたよりもずっと立派に働き休むことなく走ってくれた。


 速度自体は決して早くないとはいえ人が走るよりは十分早い。ひなわ嬢は不満そうだがギリギリ間に合うだろうと結論していた。


 これから屏風覗きに要求されるのは戦闘。ただし優先順位を間違えてはいけない。最大の目標は要人救助である。


「今のあたいは案内くらいしかできやせん、旦那だけが頼りですんで。頼んますよ」


 出発間際のセクハラに折り合いをつけてくれたのか、少し前からひなわ嬢が会話してくれるようになった。

 実際問題として数少ない味方と意思疎通できないのは大問題なので割り切ってくれたのだろう。今はしょうがないと愛想良くしてくれているけど、今後は距離を取られそう。


 保有しているポイントを確認し、最悪は立花様からお預かりしたポイントも使わせてもらうことにする。毒を食らわば皿までだ、ケチって死にたくはない。


 ひなわ嬢とある程度の対処はここで取り決めておく。救助対象がいるのにいちいちその場で相談なんて悠長な事はしていられない。


 まず敵兵は殺傷を前提とする。捕縛は本当に余裕があればで、基本は皆殺しを想定しておく。『あれ』を見てしまってはもうダメだ。


 もし周辺に逃げ散ったら近くの村が行きがけの駄賃とばかりに襲われるかもしれない。数の少ない側が捕縛なんて手間も時間もかかることを出来るわけがないのだから黙って死んでもらう。


 救出後の機動力を考えると要人を連れて逃げるのも難しい。結局皆殺し上等、残しておけないのだ。


 どうしても生き残りたいならこちらに追う余力は無いので、ぜひ真っ直ぐ一目散に帰ってほしい。


 目印代わりらしい細い川の近くを遡るように走る馬に揺られて、いい加減体が痛くなってきた頃、終始落ち着かない感じだったひなわ嬢がすうっと気配を変えた。


「ぼちぼちカンの良いヤツには気付かれます、あたいが何も言わないなら構うことは無いんでやっちまってください」


 無差別だと肝心の鬼女まで殺してしまう危険があるので、この子には馬の操作の他に要人の発見という役割を担ってもらう。

 間違いなく現代人の屏風覗きより目は良いだろうし、鬼女という妖怪(人物)も面識の無い偽妖怪(人間)より味方と信用してくれるだろう。





 突破は拍子抜けするほど楽だった。


 動く者は目についた端から手あたり次第に白いキューブを設置して強引に突き進み、民家と思しき建物近辺に到着する頃には所狭しと白い立体正方形だけが場に残っている状態となった。


 何割かは赤色をビチャリと被っている。密集していた連中はどうしても設置の際にキューブが被って切断してしまうためこうなってしまった。


 切られて死ぬか、窒息して死ぬか、どちらが嫌かは本人にしか分からない話だろう。


 無論、ポイント節約のために被る場所は意図的に被せている。いちいち個別で囲んでいられない。


 想像していたよりも順調に行ったので、異様な気配を漲らせた『ムカデ?っぽい昆虫顔の武将?』と、人の頭蓋骨っぽいアクセサリーを首にかけた坊主姿のおっさんは幹部級と判断し閉じ込めておいた。

 他にも何妖怪(何人)か身なりの違う強そうな連中がいたが、こちらは一から十までいちいち選抜はできず殺傷前提で切断、または窒息前提で閉じ込めている。出会った順番の差であって特に深い考えはない。


 ただし、劣勢と見るやいち早く逃げ出そうとして飛び上がった『天狗?』らしき女はひなわ嬢の指示でキューブに閉じ込めた。ただ思ったより翼が大きく先端をいくらか切断してしまっている。カラスのような黒い翼の持ち主だ。


「すげえ」


 馬の速度を落として周囲を見回し、呆れたような口ぶりでひなわ嬢が呟く。最初は決死の覚悟で突撃したものの、何とか無傷で乗り切れたようだ。キューブと自動防御様々である。


 さて、要人の無事を確認するのも大事だがキューブ内の捕虜も窒息前に早めに対応する必要がある。それを思えば三妖怪(三人)は多かったかもしれない。


 一度にキューブを解除してしまうと対処が難しい数だ。いる場所もバラバラで全員を視界に収めようとすると遠すぎて話もし辛い。


 まず半透明のキューブの中で元気に暴れる昆虫顔は最後として、次にもがいている坊主と切れた翼で身を覆って苦しそうな『天狗?』女、どちらからにしよう。


「坊主は狸、こっちは天狗ですな。どちらも術が得意ですんで、同時に解き放つのは危ないでしょう」


 となると命運は相手に委ねたほうがいいだろう。先に降参したほうから解放することに決める。ただ苦しんでいるだけなら死んでもらう。


 意図を察してくれたのか、馬からヒラリと降りたひなわ嬢が双方に見えるように地面を指さした。これを見て合点がいかないならしかたない、機転の利かない自分を恨んでほしい。


 最初に頭を下げたのは狸坊主のほうだったので、まずこちらを解放する。


 いかにも破戒僧といった体の汚れたボロ法衣を着ていて赤貧に見える身なり。しかし狸の妖怪のせいか恰幅はずいぶんと良い。


 周りの痩せこけた雑兵と比べなくても一目瞭然、食うものは食っているのだろうね。


 ぜいぜいと呼吸を繰り返し、その臭気が風に乗ってきたのか狸坊主の口臭らしい生ゴミみたいなが異臭が漂ってきて閉口する。深刻な歯槽膿漏なんじゃないのか、くっさ。


「旦那っ!」


 直後、目に入った光景に怒りのあまり狸の体をキューブで切断する。


 狸の背中越しにシュっと伸びた輪の付いた縄が、まるで振り下ろす鞭のような勢いで放たれ、捕らえたひなわ嬢の手を潰す勢いで締め上げたためだ。


 この子が咄嗟に跳び付き、飛んできた輪を妨害してくれなければ屏風覗きの首に縄が掛かっていただろう。


 傷を確認するとあの一瞬で食い込んだ縄で腕が潰れ、真っ赤な痣が出来ていた。じわりと滲んだ血が皮膚が裂けたという事実を突きつけてくる。


「いつもなら『芯』が入ってるんで平気なんですがね、今日はちょいと柔いんで。まあ平気でさ、死にゃしません」


 ほとんど痛みはないので、と言っているが明らかにやせ我慢をしている。彼女は皮を被って化けているらしいが、おそらく触覚や痛覚があるのだろう。またチートの油断から失敗してしまった。


 本当、学習しない大馬鹿者だ。


 せめて持っていた手ぬぐいを使って腕を吊ってもらう。乗用車免許の講習で習った応急手当を必死に思い出して頑張ったつもりだが、やはり痛いのだろう、体に触るたび何度も辛そうにしていた。

 しかしこうして動かさなければ少しはマシだろう。この場合の言い方は治療なのか修繕なのか知らないが、どこかで痛み止めでも手に入れられれば良いのだが。


「あー、えー、ぼちぼち天狗が死にますぜ」


 自身の痛みを押して前後不覚になった屏風覗きに冷静に状況を伝えてくれる気丈なひなわ嬢に涙が出そう。赤く血が滲む白いてぬぐいから意識を外すと、土下座状態の天狗女がキューブの中で喉を押さえて苦しんでいた。


 キューブを解除し、ひなわ嬢に下がるように言うも言うことを聞いてくれない。今さっきの油断(前科)があるので信用できないということだろう。


 冷静に考えると戦闘力の無い今の彼女は屏風覗きに死なれると詰んでしまう。危険でも面倒でも守るしかないのか。


 すまない、これは考え無しの発言だった。さらに自動防御があるから大丈夫ということもこの子は知らない。


 意図的に秘密にしているということに罪悪感を覚える。これは立花様にも秘密にしている屏風覗きの奥の手、最悪最後の保険として今後も誰にも教えるつもりはない。


 こんな恩知らずごめんなさい。


<実績解除 初めたの武将首 5000ポイント>

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分だけかもしれないけど、サラブレッドさんたちは見てて、足折れてしまわないのか心配になる。 奥の手を持っててそれを黙ってるのが心苦しいと、とばり殿に話したら、そんなの当たり前だと呆れられち…
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