9話「海空氷雪そして火」
俺は今…どこにいる…?
目が開けない…なんでだ…?
声しか出ない…さっきまで周りは黒かった気がする…
体が冷たい…でもなんだか背中が暖かい…
「…隣!…起き……隣!」
なんだ?うるさい…こっちは目が開かないんだ…
「ダメじゃ、今の隣の状態だったら起きるはずなのに…」
なんでじゃ…?今できることは全部尽くしたはずだ…
「…あとは隣に頑張ってもらうだけじゃ」
「…え?」
長い間隣のそばにいたクロネだからこそわかることなんだろうか...
とりあえず私はいつも通りの生活にお見舞いが入るだけ。ただそれだけ。
俺は夢を見ていた。いや、記憶というのか、分からない。けれどすごく鮮明だった。
家があって、二人の男女がいて、指には金属の輪があって、幸せそうで。
自分の姿は見えない。けど手や足は小さかった気がする。
言葉も、
「あーあー」
くらいしか言えない。
もう1つ何かを見ていた。
ずっと1人で前が真っ暗くて、誰かに後ろ指をさされて、大切な人が亡くなって。
主観的に考えると、こんな状況だと人は極端な選択をしてしまう気がするけど、
なぜかそこで自分は生きていた。
どんなに自分が蝕まされても、なぜか自分は生きている。
どうして?なぜ自分はそこで生きている?なぜ?なんで?
「は!?」
俺が目を開けたとき、俺の口は大きく開き、はぁはぁと息を継いでいる。
勢いよく起き上がった俺と目が合ったのは知らない女性だった。
「お、結構早くに起きたねー」
どういう状況なのだろうか?
「あの、ここって...」
「ここはシュークラウス。能力者御用達の"世界に認められていない"病院。多分世界一信用したくない病院よ」
は?なんで病院にいるんだ?
「はぁ、覚えてないようね」
女性は俺になんでこうなったかを教えてくれた。
「え、じゃ、じゃあその悪物は大丈夫なんですか...?」
「あぁ大丈夫よ。リンネたちは"優秀"だからね」
良かった。
「そういえばみんなは...?」
「帰ったわよ、もう25時だもの」
もうそんな時間だったのか...
「あと、あなたの名前は...?」
「うーん、とりあえずドレーパでいいわ。」
ドレーパさんか...
「てか退院しな、そんなに喋れるんだったら大丈夫だろ。」
なんて適当さ...公認の医師自体あまり見たことないが、分かる。適当だ。
「分かりました...でもどうやって帰ったらいいんですか...?」
「そこにドアがあるだろ?出たらわかる。」
そう言って、ドレーバさんが親指で刺したのは俺の背にあるドアだ。
俺はドアの場所を確認したあと、ベッドから降りようとした。
「ちょっと待て、その姿でベッドから出る気か?」
俺はそういわれ、自分の姿を改めて見た。
「は、裸!?なんで!?」
「そりゃ手術をしたし、運ばれたときにはもう服はボロボロだったからな」
あぁ...そういうことか...って納得するわけがない。
「この服を着ろ。リンネから預かっておいたものだ。」
渡された服はパーカーのフードが取り外し可能になっていて、
黒に少し青の模様が入っている少し大きい服だ。
ズボンはぶかぶかで、ところどころにポケットがある。
「あ、ありがとうございます...」
自分はドレーバさんが後ろを向いている間にさっさと服を着て、軽く挨拶を行ってからドアを通った。
「あれ...?ここって家の前...?」
目の前には俺と琴、クロネが住んでいるアパートがある、
「あ、病院は!?」
振り返るといつもの景色だ。ただなぜか少しまた行きたいような、そんな感じがした。
俺は自分の家のドアを開けた。目の前にいるのはクロネだった。
「琴!隣が帰って来たぞ!!!!」
クロネはそう言うと瞬間に琴は短い廊下を走ってきた。
「隣...大丈夫...?体は...?私のことは分かる?」
琴が心配そうな眼差しでこちらをみてくる。
「あ、あぁ大丈夫だ。二人も大丈夫か?」
俺が戸惑いながらそう言うと、琴はうなずいた。
「良かった、にしてもクロネ、本当にあれだけの量を4人でやったのか?」
「ワシらはなにもしとらん。真琴が全部やってくれたんじゃ」
真琴さん...確か病毒の能力者の人だ。
「まぁでもあの悪物は初心者にはちと厳しかったか!」
クロネが煽り口調で話す。すっごい悔しい。
「だが結果がどうであれ、隣が生き返ってきたのはうれしいことじゃ」
おいおい、生き返ったって俺が死んでたみたいじゃないか...
「そういえばみんなご飯は!?もう食べた?」
いつもご飯の担当は俺だ。俺が寝込んでいる間、ご飯は食べていないはずだ。
「飯ならワシらで食べた。心配してくれてありがとな」
良かった。大丈夫そうだ…な…
「ん?り、隣!?どうした!?隣!」
急に視界が真っ暗になった。
最後に見た琴の顔は泣きそうで口が開いていた。
ども、タイトル悩みました。らくんです。
タイトルを「シュークラウス」か「海空氷雪そして火」のどっちにするか悩みました。
ちなみにこの「海空氷雪そして火」というのはアイスランドの国旗の意味を表しています。個人的にアイスランドっていう言葉が好きなんですよね。なんか神秘な感じ?
以上。