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苦手な方はご注意ください。

【第一部】マグノリアの花の咲く頃に 第一部(第一章ー第三章)& 幕間

アルフレッドの思い出

作者: 海堂 岬

「おや、ローズその櫛をちょっとよく見せてもらっていいかな」


アルフレッドの言葉に、ローズは、持っていた櫛を手渡した。

「この櫛は、随分と懐かしいものに見えるのだが。ローズ、これは?」

アルフレッドは、手に持った櫛をひっくり返し、両面の模様を確認していた。

「ロバートのものです。イサカの町に行くときに、渡されました」


 出発の朝、ロバートはいつも通り髪を梳いて三つ編みにしてくれた。そのロバートからは、後任達が無事到着したから、引継ぎが終わったら王都に戻るという連絡があったばかりだ。

「もうすぐ帰ってくるね」

「はい」

「それにしてはローズ、元気がないよ」


 ローズには一つ、気がかりなことがあった。

「ロバートが、イサカの町からの過去の報告を照会してきた件です。今、イサカから要請される物資の量を考慮すると、どう考えても町の人口に矛盾があります。ロバートが気づかないはずがないですし。有力商人達を相手に、町の人達と一つ仕事をしてから帰りますって、ロバートの連絡にありました」


 アルフレッドは苦笑した。

「あの子はねぇ。少しは人に任せられるようになったと思っていたが。やはり面倒ごとを引き受ける癖は治らないようだね」

「商人の中には、用心棒をやとっている人もいると、孤児院にいたときに、ききました。お父さんとお母さんを殺されてしまった子もいたんです」

ローズはロバートが心配だった。


「大丈夫だよ。ロバートは強いからね。それに、町で手伝ってくれる人たちが沢山いるんだろう?そういう人たちが、悪いことをさせないだろう」

「でも、そんなこと、マーティンさんは法律家だから、マーティンさんに引き継げばいいのに。一緒にいったレオン様は強いし、カールさんは商人だから根回しとかできそうだから、三人にまかせたらいいのに。そういうことも考えて、三人を選んだのに、どうしてロバートがそんなことまで」

ローズの言葉にアルフレッドは笑った。

「ロバートは、三人が気に入ったんだよ。その三人が仕事をしやすいように、ちょっと片付けてやろうとおもったのだろうね。心配しなくても大丈夫だよ。ローズ」

「でも、帰り道とか」

「大丈夫だよ。ローズ。アーライル子爵が、騎士達を交代させると言っていた。そのあたりのことも考えてくれているはずだ。子爵とロバートは遠縁の親戚だからね。ロバートの考えそうなことくらい、子爵は見通しているだろう」

「親戚なんですか」

アルフレッドの言葉にローズは目を丸くした。


「そう。子爵の曾祖父の妻は、ロバートの一族の出身だ。もう、ほとんどの人が忘れてしまっているだろうけどね。あの子はいろいろと」

アルフレッドはその先を言葉にすることはなかった。


「ローズ、その櫛で、君の髪の毛を解いてみてもよいかな」

「でも、そんな、陛下になんて、もったいない」

「ちょっとやってみたくなったから、少しだけ。ね」


 国王であるアルフレッドに髪の毛を梳いてもらうなど恐れ多い。だが、アルフレッド本人が、乗り気だ。ローズが仕方なく頷くと、アルフレッドは、優しくローズの髪を梳いてくれた。高貴な身分のアルフレッドは、人に髪の毛の手入れをされることはあっても、することなどないはずだ。それなのに、随分なれた、上手な手つきだ。力加減も優しく、痛くない。気持ちいい。


「懐かしいね」

アルフレッドの声は優しく、誰かを懐かしんでいるようだった。

「昔ね。こうやって、よく、髪の毛を梳いてあげたんだよ。ローズの髪の毛は柔らかいね。そっくりだ。懐かしいね」

アルフレッドは、櫛で梳かされ、艶を増したローズの髪を指で漉いた。

「本当に懐かしいね」

アルフレッドはこの場にいない、誰かとの懐かしい日々を思い出しているかのようだった。

幕間のお話にお付き合いいただきありがとうございました。

この後も、本編でお付き合いいただけましたら幸いです


第一章幕間 三つ編み

第一章本編 17


の続きでもあります。

本編第一部第三章で、このお話を思い出していただけたらと思います。

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