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その他もろもろの部屋(童話・異世界・現代・エッセイ系など)

This is MeがBBCになるまで

作者: ケシモク

 職場に真知子さん(仮名)という人がいる。


 年齢は私の親より少し下で、外見はほぼ上沼恵美子だが、大阪城や琵琶湖の持ち主ではない。明るくおしゃべり好きなシングルマザーであり、息子さんに彼女が出来たとウキウキ教えてくれる気さくな女性である。


 蛍光イエローのジャケットを着こなす真知子さんだが、上方お笑い界の女王のような高速カッターではない。むしろちょっと頭が混線気味なキャラだった。


 奈良旅行で買ってきてくれたお土産の黒豆お菓子を職場で配りながら

「奈良公園に行ったら、本当にヤギだらけなのよ~」

 と、話してくれる感じに混線している。

 もちろん奈良公園にいるのは鹿である。遠くから見れば似ているが、ウシ科とシカ科くらい違う。


 そして少し前に、その混線キャラな真知子さんから

「ねぇケシモクちゃん、私この前、映画観たって言ったでしょ? ミュージカルの映画」

 と、話しかけられた。

「ああ、はい。『グレイテスト・ショーマン』ですか?」

 と、私も答えた。


 真知子さんは映画が好きである。マニアではないが、よく映画館にも足を運んでいる。その真知子さんの中でここ数年で最もヒットした映画が、『グレイテスト・ショーマン』だった。


 原題は『The Greatest Showman』。

 19世紀に実在した伝説的な興行師P・T・バーナムの伝記ミュージカル映画であり、主演はヒュー・ジャックマン。マイケル・グレイシー初監督作品。全米が感動し、日本でも『映画版クレヨンしんちゃん』に高評価が付くことで定評のあるYahoo映画レビューで、星4.3という高評価を叩き出した名作である。


 素晴らしい作品に真知子さんも感動し、2回、3回と観に行ったと話していたので私もすぐわかった。

 しかし


「あれの曲って、『アイ・アム・マン』だったわよね?」

「違います」


『This is Me』である。

 レティ・ルッツ役のキアル・セトルが力強く歌ったこの曲は全米チャートで1位となり、ゴールデン・グローブ賞で主題歌賞を受賞している。


「真知子さん、もしかして映画の『アイアンマン』と混ざってませんか? 『This is……』ですよ」

 と、私は途中までヒントを出した。

 息子さんの影響で、真知子さんは映画の『スパイダーマン』なども観ている。たぶん今回も、そこら辺の情報が錯綜し、混線しているのではないかと思った。

 私の指摘で、真知子さんは笑顔になった。


「あー、『This is マン』ね」

「違います」


 どうしても『マン』から離れない。

 たぶん単語の意味より、ふんわりした音のニュアンスで覚えているからこうなってしまうのだろう。


「ええ~? 何だったかしら?」と、罪のない真知子さんは悩んでいた。記憶力アップのためにも、頭を使うのは良いことである。


「向いている方向は大体合ってますよ」

 と私は教えて、真知子さんの脳トレを陰ながら応援していた。


 しかしグーグルに頼らない真知子さんの混線は、『This is ショー』や『This is アイ・アム』など、混沌の度合いを深めていく。

 This is カオスの沼にハマったまま、数分経っても脱出しそうになかった。


 混線の泥沼に沈んでいくのが可哀相なので、私は正解の『This is Me』を教えた。


「あ、そうそう! それよ! あー、すっきりしたー!」

 答えがわかった彼女は大笑いして、とても喜んでくれた。問題は解決して、良かった良かったと思っていた。


 それから3時間ほどして帰るときである。

 私は出来心で

「真知子さん、さっきの映画の曲名、覚えてますか?」

 と、尋ねてみた。

 真知子さんは豪快なスマイルで頷いた。


「もうね、もう大丈夫! もう間違えないわよ! BBCでしょ!」


 混線どころではない。アイアムマンより、もっと遠くへ脱線していた。

 尚、『BBC』とは主に、『英国放送協会(British Broadcasting Corporation)』の略称である。


 誰も困らないので、私も修正しなかった。

 もうグレイテスト・ショーマンの主題歌はBBCで良いと思っている。

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