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8話 ちょっとみんなで飲みに行ってみた件(女僧侶視点)

「ぶるるるるっ」

 オークはうずくまっている女剣士に再度頭突きをした。

 どかっ、とかなり大きな音がした。


「しまった、女剣士!」

 困惑していた女僧侶は、慌てて声をかける。


「ぐ、ぐぅるる」

 今度はオークが苦しんだ声をあげている。

 衝突した瞬間、女剣士がオークの足に剣を突き立てたようだ。オークの足に剣が刺さっている。


「ぐわお」

 足に剣が刺さった状態で、オークは女剣士を突き飛ばす。

 突き飛ばされた女剣士は、剣を手放してしまうが、すぐに予備の短剣を取り出し、それを地面につき立て、震えながらなんとか立ち上がる。


「みんな、落ち着いて。こいつは武器を持っていないし、攻撃も単調だ。冷静に対応すれば勝てないはずはない」 

 そう言って、短剣を構え、笑ってみせてくれる。


 女剣士は絶対に痛いし苦しいはずなのに、うちらがパニックにならないように無理をして平気に見せているようだ。


「……ありがとう、女剣士」

 女僧侶はそう呟き、呪文の詠唱を始めた。女剣士のその様子を見て、一気に冷静になれたのだ。


 そうだ、冷静に、冷静に。

 

 女僧侶は、呪文を唱えながら冷静に状況を見た。苦しそうに涎を垂らしながら荒ぶっているオークは、きっと険しい顔をしているはず。だが、鼻眼鏡のせいでどうしてもふざけているように見えてしまう。それが変にツボにハマり、女僧侶は急にものすごくおかしくて仕方なくなってしまった。ただ、女剣士の手前、絶対に笑う訳にはいかない。当たり前だ、命がかかっているのだから。

「ぐるるる」

 オークが女剣士に突進していく。 


「いくよ、女剣士、光魔法!」

 女僧侶が合図をすると、女剣士はすかさず目をふせる。


 女僧侶の光魔法。

 眩しい光が辺りを覆う。


 女僧侶は新しく光魔法を覚えていた。

 何度か試したのだが、魔力の消費が回復魔法より大きくコスパが悪いので、使うのはここぞという時だけにしようと思っていたのだ。


「う……ぐう……」

 オークは目が眩んで突進する先を誤ってしまい、どたっと転んでしまった。


「せええい」

 女剣士はここぞとばかりに倒れたオークの胸の中心に剣を突き立てる。オークは特になにも防具を身につけていなかったので、その一撃で決まり、戦闘が終了する。


「ぐ……」

 戦いが終わると、女剣士は苦しそうにうずくまる。やはり無理をしていたようだ。女僧侶はすぐに駆け寄り、回復魔法を唱える。


「ふう、助かった、ありがとう女僧侶」

「ううん、さっきは女剣士のお陰で、うちも冷静になれた。こちらこそありがとう」

 回復が終わると、女剣士と女僧侶はそうやって、お互いを称えあった。


 それにしても、鼻メガネで光が遮断されなくて良かった。女僧侶はそう思ってふとうつ伏せに倒れたオークを見ると、ある事実に気づいた。


 オークの肩に『わたしが幹事』と書いてあるタスキがかけてあるのだ。鼻メガネにわたしが幹事って、なんて愉快な死に様なんだろうか。というか……。



 ……いつ、タスキなんてかけたの?

 まさか、光魔法の最中? それともその前から?

 オークがうつ伏せに倒れている状態では、タスキをかけることなんて不可能だ。一度オークを持ち上げないといけない。


 女僧侶はちらっと遊び人を見た。目が合うと、ふふっと嬉しそうに照れ笑いをしている。タスキに気付いてもらったことが嬉しかったのだろうか。まるで戦闘で一番の手柄を立てたかのような様子だ。


 遊び人はまともに戦闘装備をしていない。

 それなのに、初めて戦うオークにここまで接触する勇気は、はっきり言ってすごい。


 ただ……なんというか…。

 なぜ、その高いパフォーマンスをもっとこう……。


 女僧侶は、そういうことを考えかけてやめた。仲間の職業の批判なんてするものじゃない。

 遊び人は大事な仲間だ。それは今までもこれからも変わりない。

 

「今回は不意を突かれちゃったけど、武器を装備してないオークならいけるね。今日は、引き続き慎重に探索して、丸腰のオークがいたらまた戦ってみようか。ただ、集団だったり武器を持っていたらまだ厳しいかもしれないから、見つけたらなるべく戦闘は避けよう」

 女剣士は、そう言ってパーティをまとめ始めた。


 

 その後、慎重に探索し、何体か手斧や槍を持ったオークを見つけたが、見つからないように避け続けた。しばらく探索すると、武器を持っていないオークを1体見つけ、今度は不意打ちに近い形で倒すことに成功。それで今日の狩りは終了し、帰ることになった。



 その日の成果は合計2体の討伐となった。


ーー


「本日の報酬、3シルバーになります」

 受付のお姉さんから報酬を受け取ると、女剣士はいつも通り均等に分配する。


「3シルバー……か」

 女僧侶は少しため息をついた。


 正直、もう少し貰えると思っていた。

 今までのスケルトンの稼ぎや緊急の依頼と比べてはいけないことは分かっているけれど。


「たぶん、さ。オークは集団で生活することも多いから、オークを狩る冒険者は、たくさんいるオークを一気に相手するから稼げるんじゃないかな。うちらにはまだその力はないから、オーク狩りは少し早いのかもしれない」

 女剣士はそんな見解を語った。


「で、でも、今日オークを倒したのは、冒険者としていい経験でした。オーク退治、行って良かったと思います。わたしは、すごく自信がつきました」

 遊び人は言った。オーク狩りを提案した女剣士をフォローするようにも見える。


 遊び人はとてもいいことを言っているのだけれど、女僧侶は何か引っかかるものを感じた。



「そうだね、うちも今日オーク狩り行けてよかったよ。ただ、もうちょっと実力を付けないとオーク狩りは……」

 女僧侶は少し遠慮しながら言った。

 やはり危険度と稼ぎが釣り合わない。この仕事は、無理せずに続けることが重要なのだ。背伸びして実力に合わない狩りを続け、死んだ冒険者の話は何度も聞いたことがある。


「2人とも、ありがとう。そうだね、わたしもまだオークは早いと思った。もう少し実力を付けたらまた挑戦しよう」

 女剣士は言った。


 その日は皆疲れていたが、その後、以前一緒に飲みに行けなかったから、ということで遊び人が2人を誘い、皆で食事にいくことにした。

 


ーー



翌朝

「うぅ……ん……」

 女僧侶が目を覚ますと、いつも見慣れた自室とは違う部屋で、きちんと布団に入って眠っていた自分に気づいた。


「あ、あれ、ここ……どこ?」

 うちの部屋よりは、随分と狭くて古臭いが……。

 なぜ自分がここいるのか全く記憶にない。


「あ、女僧侶さん、起きましたか。すみません、私の汚い布団で……」

 遊び人がそう声をかけ、コップに入れた水を、そっと女僧侶の近くに置いてくれる。


「あ……そうか、うち……」

 女僧侶は断片的だが、少しずつ思い出してきた。

 昨夜、飲み過ぎてしまい、遊び人が自分の宿舎にかついで連れてきてくれたような部分はうっすら記憶がある。あと、遊び人はとても聞き上手で、自分の愚痴やら自慢話をとても上手に受け止めてくれるもんだから、こっちは心地良くって、あまり飲めない酒をつい飲み過ぎてしまったことも。


「うあ……やっちゃったか……ごめんね、遊び人ちゃん」

 女僧侶は、用意してもらった水を飲んで言った。

 よく見ると、部屋の隅に、薄手の布が畳んで置いてある。遊び人は自分の布団をうちに使わせてくれて、自分はその布にくるまって寝たのじゃないだろうか。そういうのを見ると、罪悪感が増してしまう。


「ああ、うちってダメだよね。女剣士はしっかりして頼りになるし、優しいし、色々なところに気が付くし。遊び人ちゃんも、優しくて、謙虚で、聞き上手で……」

 なんで、酔って記憶を無くした次の日は、こうも気持ちが落ちてしまうのか。女僧侶はそう思い、愚痴が止まらなくなってしまう。冒険者としての腕はともかく、人としての自信がなくなっていくのを感じる。


「それに比べてうちなんてさ……」

「女僧侶さんのいいところは、そうやって人のいいところばっかり見つけられるところだと思いますよ」

 遊び人はそういうと、ニコッと微笑みながら、温かいスープを出してくれた。野菜やら卵やらが入っていて、とても美味しそうだ。

「そうやって、いいところばっかり見てもらえる周りの人は、幸せですよね。わたしも嬉しいですもん」


 女僧侶は、その言葉に心を射抜かれたような気持ちになった。そんなこと、誰かに言ってもらったのは初めてだった。いつも人を羨んでばかり、という自分の癖は、自分自身では嫌なところだと思っていたのだ。


 確かに、そういう考え方もできるのか。女僧侶は、遊び人の言葉で勇気が湧いてくるのを感じた。


「ここの宿舎、ちょっと古いですけれど、キッチンはとても使いやすいんですよ」

 遊び人はそう言いながら、出かける支度をしている。


 外では小鳥がさえずる声が聞こえる。待ち合わせの時間が近いようだ。どうやら、うちに気を遣ってギリギリまで寝かせてくれていたようだ。


「ちょっと早いですけども、わたしは先に待ち合わせ場所に行ってますね。部屋のものは好きに使ってくれていいですよ」

 遊び人は、そう言って優しげに微笑みながら部屋から出て行った。


 女僧侶は一人になり軽く部屋を見渡すと、棚の上に、酔い覚ましによく聞くと言われる薬草が置いてあるのを見つけた。使いかけのようで、半分ほどちぎられている。

 

 そういえば、記憶を無くすほど飲んだのに、頭がほとんど痛くない。もしかして、うちが寝る前に遊び人があれを煎じて飲ませてくれたのではないだろうか。


 女僧侶は布団から出て、遊び人が作ってくれたスープを飲んだ。

「うわ、おいし」

 遊び人の優しさと一緒に、スープの味が身体と心に染み渡る。


 女僧侶は、遊び人が部屋を去る前に見せてくれた優しい顔を思い浮かべ、思った。


 


 あの女、天使か。




 うーん、と心地よく伸びをし、準備をしようとすると、さっきまで頭を乗せていた枕に何やら文字が書いてあるのに気づいた。女僧侶が枕をよく見てみると、なぜか「NO」と書いてあった。そして、よく見ると、表と裏で色が違うようだ。気になって裏をめくってみると、書いてあった文字がこうだった。


「YES」

 

 意味が分からない。女僧侶はスルーして、改めて部屋を見渡すと、さっきまで気付かなかったものが色々と目に入ってしまった。

 

 箱に山積みにされた鼻メガネ。様々な色のロウソク。決してモンスターを倒すためのものではないであろう、妙な形の鞭。また、不可解な場所に穴の開いたパンティが干してあったりしている。


「……」

 女僧侶は、せっかくの心地良さを失いたくないので、それらを懸命に見ないように準備し、待ち合わせ場所に向かった。



ーー


「お待たせ。ごめんね、昨日は飲み過ぎちゃって」

 女僧侶は先に待っていた女剣士と遊び人に駆け寄ってそう言った。


「あはは、まあ、たまにはハメを外すのもいいよね。わたしも楽しかったよ。二日酔いは大丈夫?」

 女剣士は、いつも通りの様子でこう言ってくれる。


「遊び人のお陰で、平気。2人ともいつもありがとうね」

 女僧侶は少し照れながらそう言った。


 女僧侶は、女剣士も遊び人も、自分にとっては最高の仲間に見えていることを実感した。

 そうか、こうやって素直に人のいいところを見れるのは、うちのいいところなのか。

 女剣士は先ほど遊び人に言われた言葉をぐっと噛み締めていた。



「はい、今日も頑張りましょう」

 笑顔でそう言う遊び人の鞄から、様々な形のロウソクが見え隠れしたが、女僧侶は必死に見ないようにした。

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