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6話 遊び人のレベル向上が半端ない件(女僧侶視点)

ーー

 翌日、ギルドにて


「お、女僧侶、新しい装備似合うじゃないか」

「ありがとう、女剣士も、新しい鎧、かっこいいね」

 女剣士と女僧侶は、恒例のようにお互いの新しい装備を褒めあっている。女剣士も装備品を一通りグレードアップしたようで、剣や鎧が変わっている。2人の実力を、装備などの見た目だけで判断されるとしたら、もう駆け出し冒険者には見られないかもしれない。もちろん、実際の実力も上がっているだろう。


「えーっと、遊び人は……」

 女剣士が遊び人を見ると、今までと変わりない格好をした遊び人が気まずそうに会釈をする。

「すみません、あの……他のことに使っちゃいまして……」遊び人は、申し訳なさそうに声を出す。


「そんな、謝ったりしないでよ。稼いだお金をなにに使おうと、本人の自由だよ。命の危険のある仕事だからさ、後悔しないようにたまにはぱーっと遊びに使ってもいいと思うよ。私も以前、すごく勿体無いことにお金を使っちゃってさ」

 女剣士はそう言って、遊び人を気遣って笑いかけている。


 遊び人と女剣士のこういうやりとりをみていると、女剣士のことがどんどん好きになっていきそうだ、と女僧侶は思っていた。

 

 別に、女剣士は遊び人の金遣いについても許容しているし、装備品を買わないことも怒っていない。ここで、遊び人のお金の使い方について、うちから言ってしまうのは野暮というものだろう。あえて言わない遊び人の美学に準じて、黙っておこう。


 ……そんな風に思えるほど、女僧侶の口は固くなかった。


「ねえ女剣士、実は昨日遊び人を見かけてさ……」「ちょ、やめてください、女僧侶さん」

 女僧侶はもう、すぐにその場で話してしまった。

 孤児院に頻繁に行って、クエストの稼ぎを寄付していることや、子供と遊んだり、料理を作ったりしてあげていること、遊び道具を寄付していること、等、女剣士に全て語ってしまった。


「も、もう、別に言わなくてもいいじゃないですか」

 遊び人は恥ずかしそうにしている。


 逆に、ここで言わないことこそ、女僧侶の中ではありえなかった。昨日の遊び人の行動を見て、少なからず自分は感銘を受けたのだ。仲間の功績は讃えるべきで、仲間が勘違いされることのが方が嫌だった。自分から言わないのが遊び人の美学なら、ここで言うのはうちの美学だ。


「……う、うぅ……」

 女剣士は涙ぐんでいた。

「余ったお金でどんな贅沢をするか、考えていた自分が恥ずかしい……少ないけど、これも寄付してあげてくれ」

 そう言って、女剣士はお金が入った袋を。そのまま袋ごと遊び人に渡した。もしかして、今の有り金のほとんどではないだろうか。

 昨日、うちも同じことを思ったことを思ったけど、実際にそれを行動に表すとはさすが女剣士だ、と女僧侶は思った。女剣士は、案外情に脆いのだ。


「そ、そんな、女剣士さんのお金は女剣士さんのものですよ。それに私は本当に好きでやっているだけなので……やめてください」

「いやしかし、遊び人はあんな安い宿舎に泊まっていながらそんなことを……それに比べて私は」

 女剣士は胸に手を当てている。本当に反省しているようだ。


「女剣士さんはいつも私に優しくして下さるじゃないですか、とっても優しくて素敵な人だと思います。そんな風に思わないで下さい」

「いや、しかし……」

 女剣士は、納得してない様子だった。

「……もし本当に寄付をする気持ちがあるなら、気持ちのお金だけでいいので、女剣士さんが直接施設に持っていってあげて下さい。それで、良かったら子供と遊んでいってあげて下さい。その方が、みんな喜びますから」

 遊び人がそう言って女剣士に笑いかける。


 女僧侶は、遊び人という職業について考え、暖かい気持ちになっていた。もし転職することが許されるなら、自分も遊び人になりたい。そんな想いが昨日から膨れ上がっていたのだ。


「分かった、いずれ必ず私が施設に持っていこう」

 女剣士はそれで納得したようで、お金をしまった。


「きょ、今日は何のクエストを受けましょうか」

 遊び人が、焦った様子で言い出した。

 早く話を切り替えたいのだろうか。なんでそんなに善行を隠そうとするのか、女僧侶には理解できなかった。しかし、その部分が魅力にも感じていた。


「そ、そうだな。今日もスケルトンに行こうと思っていたんだが……」

 女剣士がそう言ってスケルトン討伐の依頼書を見る。

「あ、あれ、報酬が今までと全然……」女僧侶は驚いた。


 宝石の買取額が、今までの四分の一以下になっている。どうやら、急にたくさん宝石を引き取ってもらったせいで、価格が暴落してしまったようだ。希少な宝石は希少だから高く売れるのであって、たくさん出回ってしまうと、価格が落ちてしまうのだ。そんな当たり前のことを念頭に入れていなかった。


 それに、最近は偶然たくさん取れていたけども、一回の冒険で1個しか取れないことも当たり前で、1個も取れないこともままあるのだ。この金額ではもう、スケルトン退治に行くメリットがない。


「ど、どうしましょうか」遊び人がオドオドして言った。


 女剣士が他のクエスト依頼を探そうとしていると、受付のお姉さんが話しかけてきた。


「あの……今すぐにお願いしたいクエストがありまして、良かったら受けてもらえませんか?」



ーー


「ここか」

 女剣士が目の前の民家に目を向ける。


 冒険者の仕事で、人間を相手にすることは実は結構あったりする。

 今回の依頼は、いわゆる罪人の確保。捕らえられていた罪人が逃げ出し民家に立て篭もったので確保して欲しい、という案件だ。


「よし、扉を開けるぞ、準備はいいか」

 女剣士がそう言うと、女僧侶はかなり渋い顔をした。


 今回の罪人というのは、いわゆる下着泥棒だ。そして、立て篭もっていると言っても、特に武器も持っておらず、仲間の家に隠れているだけ、というのが現状だ。さほど危険のある仕事ではない。ただ、女僧侶はそういう罪人がちょっと生理的に受け付けなかった。そういう事件の罪人は出来る限り関わりたくないし、なんで生きた状態で捉えないといけないのかも理解不能だった。


 しかし仕事は仕事だ、ちゃんとやらないと。そう思い、女僧侶は覚悟を決める。


 ばん、っと女剣士が入り口を開け、大声を出した。

「下着泥棒、いるのは分かっている。大人しく出てこい!」


 3人でどかどかと民家に入っていく。

 女僧侶は入り口で驚きの光景に出くわす。40代くらいの男が2人、女性の下着だけを付けて過ごしているのだ。2人ともかなり毛深く、その見た目は極力控えめな表現をしても、見るだけで目が腐りそう。片方が犯人で、片方が仲間なのだろう。類友っていうものだろうか。女僧侶は鳥肌が立った。今すぐにこの家を燃やしてしまいたいとすら思った。


「お、大人しくしてれば……い、命までは取らない」

 女剣士はそう言って剣を抜くが、かなり小声で、手が震えている。それでもよく頑張っていると思う。女僧侶に、前衛としてアレと対峙する勇気はない。


 女僧侶は犯人が心底気持ち悪いと思った。もし身内にあんなのがいたら、ちょっと……。そう思ってふと遊び人の方を見て、固まってしまった。


 なんと、遊び人はいつの間にか、頭にパンティを被っている。そして、パンティの足を出す部分にロウソクを2本刺していて、ツノのようにしている。

「そうです、大人しく降伏して下さい」

 遊び人は威勢よくそう言って、バッグから縄跳びを取り出し、パンティとロウソクを頭に装備したまま二重跳びを始める。



 自分も遊び人になりたい。

 女僧侶の中にあったそんな気持ちが、粉々に砕け散った瞬間だった。

投稿、遅くなりまして申し訳ありません。

次話投稿、少しかかります。

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