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5話 遊び人の金遣いがものすごく荒い件(女僧侶視点)


ーー

「本日の報酬になります。全部で27シルバーになります、お確かめ下さい」

 冒険者ギルドのお姉さんは、そう言ってお金の入った袋を女剣士に手渡した。


 結局、回復魔法が使えないのでリスクが大きいという女剣士の判断で、大きなスケルトンとは戦わず、逃げて帰ってきた。しかし、それでもこの報酬だ。

 

 女剣士は、すかさず1人9シルバーを分配した。ちょうど割り切れるところも、気持ちがいい。


「す、すごい、こんなに……」

 遊び人はたくさんの銀貨を手にして、ただ驚いている。

 

 女僧侶は、嬉しくて仕方なかった。

 マジかですか。ゴブリン掃討より報酬多いじゃん。いままで冒険者生活を続けてきて、1日でこんなに報酬を得られたのは初めてかもしれない。女剣士の判断に文句はないが、もしあの大きな宝石を持ち帰れていたら、報酬はどうなっていたのだろうか。そう思うとワクワクが止まらない。

「ね、ねえ、明日もスケルトン行きましょう、ぜひ」

 女僧侶は目を輝かせて提案する。


「うーん、たしかに今ツキが来ているみたいだから、また行ってみてもいいかもしれないな」

 女剣士がそういうと、遊び人もうんうん、とうなずき、明日の予定が決定する。


「……」

 遊び人は、今日稼いだお金をじっと見つめ、なにかを考えている様子だった。


「なあ、せっかく稼ぎがいいんだから、今日みんなで飲みに行かないか?」

 女剣士が、珍しい提案をした。女剣士も女僧侶もあまりお酒を飲む方ではなく、いままでパーティーでお酒を飲みに行くということはあまりなかったのだ。

 まあ、確かにたまには羽目を外すのもいいだろう。と思い、女僧侶は賛成しようとすると、遊び人が思い切った様子で口を開く。


「ご、ごめんなさい、今日はちょっと、これから行きたいところがあって……」

 遊び人はそういうと、申し訳なさそうに丁寧にお辞儀をする。


「そっか、まあ仕方ないか、じゃあまた今度にしようか」

 女剣士は残念そうに言った。


「行きたくない訳ではないのですが……ごめんなさい」

 遊び人がそう言って再び謝る。


 その後、解散になると、遊び人は自分の分け前を抱え、そそくさと急いだ様子でどこかへ走って行った。



ーー

 翌日


「よーし、今日も頼むわよ」

 女僧侶は湿地の入り口で手を合わせて祈る。

 これから再び、スケルトン退治という名の運試しが始まるのだ。


「わ、私も……」

 遊び人もそう言って、女僧侶の真似をして、祈りを込める。


「ウウウ」女僧侶が目を開けると、近くに1体のスケルトンが迫ってきていた。

 嘘、またこんなに早く見つかるなんて。


 女僧侶が慌ててスタッフを構えた頃には、「ふっ」と女剣士はもうスケルトンに切り掛かっていた。スケルトンの一部が欠け、今後はスケルトンが女剣士に向けて、剣を上段に構え始める。

 女僧侶は、スケルトンの後ろに回り込み、隙をついて女剣士のフォローに回ろうとする。

「……」遊び人は状況を把握できておらず、まだ目を瞑って祈っている。


「えいっ」女僧侶は、スケルトンの持っている剣を背後から叩き落とす。振り向いたスケルトンに、今度は女剣士が正面から斬りかかる。隙だらけのスケルトンの頭にクリーンヒットし、スケルトンはその一撃で倒れ込む。


「……」遊び人はまだ祈っている。

「よし」女剣士が倒れたスケルトンの体を探ろうとすると、「ウウウ」と新しく迫ってくる3体のスケルトンを発見する。

「……マジ? こんなに次々と発見するなんて……今日もツイてるのかも」

 女僧侶は意気揚々と、そのスケルトンの方へ向かって行った。

 女剣士も遅れて後を追いかける。


「よし、今日も頑張りましょう」ようやく祈りをやめて遊び人は目を開け、目の前で仲間とスケルトン達が戦っている光景を目にする。「わ、私も早くいかないと」と慌てた遊び人は、彼らとは反対方向を向いて、ムーンウオークで近づいて行った。


 例によって回復魔法で、女僧侶は速攻で1体のスケルトンを倒していた。そして女剣士が追いつき、また別のスケルトンに斬りかかる。

 今日は魔法力をなるべく温存しておきたいと思った僧侶は、できるだけ女剣士と同じ相手を標的にして、1体ずつ倒そうと考えていた。再び女剣士と戦っているスケルトンの背後に周り、不意打ちを仕掛ける。「ウウッ」スケルトンが振り返ると、その隙をついて女剣士がとどめを刺す。また一撃だ。

 このパターンは、いけるかもしれない。女僧侶はそう思い、最後の1体に同じフォーメーションをとろうと、女剣士へ目配せをする。

「ふーふんふーん」遊び人は、独特のリズムを刻みながら、戦っている最中の女僧侶たちをムーンウオークで追い越し、さらに先へ向かっていく。どこへ行くのだろうか。

「せえいっ」女剣士の一撃でスケルトンが倒れ、戦闘は終了すると、女剣士と女僧侶はすぐにスケルトンの体から宝石を探し始めた。

遊び人が、今度は側転をしながら帰ってきたころには、女剣士と女僧侶は大騒ぎをしていた。

「う、嘘、信じられない」「はははっ、すごいな」

 なんと、4体のスケルトンから、3つの宝石が見つかったのだ。


ーー

冒険者ギルド

「今日の報酬の30シルバーになります。お確かめ下さい」

 受付のお姉さんから報酬をもらい、皆で分けると、3人はニヤケながら目を合わせる。


 今日はその後も、次々とスケルトンを見つけ、合計15体のスケルトンを倒した。そして、全部でなんと7つの宝石を見つけた。普通に考えたら、2日連続でこんなに宝石を得られるのは奇跡的な確率だ。


 縁起が良いので、また翌日もスケルトン退治に行こうという話になり、本日は解散となった。


 今日も遊び人は、報酬を見て少しぼーっとした後、そそくさと急いでどこかへ向かって走り出した。



ーー

 翌日も、さらに翌日も、そのまた翌日も……連続でスケルトン退治に出かけた。

 

 あの大きなスケルトンを見つけることはもう無かったけれど、驚くことに、毎回かなり奇跡的な報酬を得られた。。また行こう、また行こう、ということが続き、もう最初から合わせると8日連続でスケルトン退治に出かけたのだ。


 そして、ある日の冒険から帰った後のことである。

 

「ん〜ふふふ〜うふ〜」

 女僧侶は自分の部屋で、ご機嫌に稼いだお金を数えていた。

「77シルバー……か、うふふふ」

 女僧侶からしたら、今までで一番の貯蓄額である。


「明日……楽しみだなあ、うふふ」

 女僧侶はニヤケながら呟いた。

 明日は、稼いだお金でそれぞれ装備を整えたりするために、休養日となったのだ。

 装備を全部新調しても、まだまだ余りそうなので、その余ったお金をなにに使おうか考えていたのだ。女剣士とは、こういう時いつも別行動なのはお決まりで、買い物はそれぞれでするのが当たり前になっている。仲が良くない訳ではなく、単に女剣士はあまりベタベタした付き合いが好きではないようだったので、自然とそうなったのである。


「一緒に買い物できないのは残念だったけど……」

 実は昨日、遊び人を一緒に買い物に誘ったのだが、お金は自分の楽しみに使いたいと言って断れてしまったのだ。遊び人だから、派手な遊びに使ったりするのだろうか。そんなタイプにも見えないけども……。


 女僧侶はなんだかんだ、連日クエスト続きで疲れていたが、布団の中でお金の使い道について考えてしまい、朝方まで寝付けなかった。





ーー

 翌日


「ありがとうございました!」

 防具屋の店主は、店を出ていく女僧侶に愛想よく挨拶をする。


「装備品は、こんなものでいいかな」

 女僧侶は、スタッフと僧侶服を下取りしてもらい、より上のグレードのものに新調していた。そしてついでに、魔法力の上がる首飾りも買っていた。攻撃力、防御力が上がり、回復魔法の使える回数も少し増えたのだ。

 これだけ装備品を買っても、まだ20シルバー弱残っている。これからどこへ行こうか、そう考えて、街を見回す。


「あれ、もしかして、あれ……」

 子供用の玩具が売っている店から、遊び人が出てくるのを見かけた。大きな袋に、遊び道具のようなものがたくさん入っている。


「おーい、遊びに……」

 女僧侶は、声をかけようとして途中で踏みとどまった。遊び人は、明かに自分の宿舎とは違う方向へ向かっていく。あちらは、治安の悪い歓楽街の方向だ。

 遊び人がなにをするのか興味津々だった女僧侶は、こっそりと後をつけていくことにした。


ーー


「こ……ここは……?」

 女僧侶は、ある建物の前で立ち止まる。確かに遊び人はこの敷地に入って行ったはずなのだが。

 大きなボロボロの建物に、大きな庭がある。廃校になった学校のような雰囲気だ。


「わー、遊び人さんだー」「遊び人さーん」

 敷地に入って行った遊び人に、子供たちが群がっていくのが見えた。あっという間に子供たちに囲まれて、身動きが取れなくなっている遊び人は、幸せそうな顔をしている。


「はい、今日はこれ持ってきたよ」

 そう言って、遊び人は、買ってきた遊び道具を子供たちに1人1人に配り出す。「やったー」「ありがとー」などと、子供たちは嬉しそうに、それぞれおもちゃで遊び出す。


 女僧侶が建物をよく見ると、入口のところに孤児院、という文字が書いてあったのが見えた。

「今日も、お姉ちゃんが遊びにきたよー」そう言って、遊び人は、5歳くらいの男の子を肩車し、走り回っている。あの調子じゃ、こっちにくる。やばい、見つかる。


 女僧侶はすかさず持っていたスタッフで顔を隠そうとしたが、そんなので隠しきれるはずはなかった。

「あれ、女僧侶さん……なんで?」

 遊び人は、子供を肩車したまま驚いている。


「ね、ねえ、あなた……」

 女僧侶が遊び人に話しかけようとすると、「遊び人さん、こっちきてー」とか「これ、どうやって遊ぶの?」と言って、子供たちが遊び人を引っ張って連れ去ってしまう。子供たちからとても人気のようだ。


「こんにちは、遊び人さんのお仲間ですか?」

 施設の寮母さんのような人が女僧侶に話しかけてきた。いつの間に近くにいたのだろうか、全く気が付かなかった。見た目は40代くらいだろうか。非常に人の良さそうな女性で、ずっとニコニコしている。


 遊び人は、よくここへ遊びにくるそうだ。施設は人手が足らず、子供の遊び相手もなかなかしてあげられないから、遊び人が来るのは非常に助かっているそうだ。また、子供に料理を作ったりすることもあるらしい。遊び人の料理は子供からも好評で、みんな喜んでいるらしい。そんなことを、寮母さんは教えてくれた。

 また、

「最近ね、お金をたくさん置いて行ってくれるのよ。うちの施設は、見ての通りボロボロで、その日子供を食べさせるのも精一杯なくらいだから、とても助かるんだけども……冒険者ってそんなに稼ぎがいいのかしら」

 寮母さんはそう言って、少し申し訳なさそうな顔をしている。 


 女僧侶が驚いていると、子供たちを振り切って遊び人が近づいてきた。

「……もしかして、聞いちゃいました? うーん、秘密の遊びは、こっそりやるから楽しいんですけども……」

 遊び人はそう言って、少し困った顔をしている。


「ねえ、遊び人はもう少し自分にお金を使ってもいいんじゃない? まだ色々と必要なものもあるんじゃない?」女僧侶は遊び人にそう言った。

 女僧侶は、遊び人が未だに、安いボロボロの宿舎に住んでいるのを知っていた。こんなことにお金を使うなら、もう少し生活レベルを上げればいいのに、と思っていた。遊び人のことが本気で心配になった。


「わたし……わたし……ね」

 遊び人は、少し恥ずかしそうに話し出す。


「わたし、遊び人だから……自分が楽しいと思うことにお金を使いたいと思うんです」

「遊び人ちゃんの楽しいことって……」女僧侶はそう問いかけた。


「わたしの楽しいと思うことは……ですね。わたしが好きでやったことで、みんなが喜んでくれること。それがとっても嬉しいんです」


「遊び人はさ、せめて、もう少し良いところに住んでもいいんじゃない? うちは遊び人がちょっと心配」

 女僧侶はそう言って不安そうな顔をした。結構本気で、遊び人の生活が心配になのだ。


「心配してくださって、ありがとうございます。でもわたし一人でお金を使っても、なんかつまらないんです。自分が楽しいと思うことにお金を使って、それでみんなも喜んでくれる。こんな幸せ、ないと思って」

 遊び人はそう言って、笑顔で続ける。


「こんな贅沢な遊び、ほかにないと思います。だって今、すっごく楽しくて幸せだから。こんな気持ちが味わいたくって、わたしは遊び人になったんです」遊び人はそう言うと、少し照れた様子だった。


「あと先なんて考えていたら、思いっきり遊べないですから」

 遊び人はそう言って、子供たちの方へ走って行くと、子供たちと一緒にダイスを転がしたりして遊び始めた。子供たちと遊ぶ遊び人は、とても幸せそうな顔をしていた。


 女僧侶は、遊び人のことを尊敬するような気持ちが芽生え始めていることに気付いた。余ったお金をどう使おうか、必死で考えていた自分が少し恥ずかしくなったけども、だからと言って、このお金を寄付したりはしない。だって、これはうちがが稼いだお金なんだから。


 そう思っていると、5歳くらいの小さな女の子がとことこと女僧侶の方へ向かってきた。

「ねえ、お姉ちゃんも遊ぼう?」

 そう言ってくれた子供の顔を見て、女僧侶は満面の笑みを浮かべる。


「よーし、なにして遊ぼうか」女僧侶はそう言いながら女の子を抱き上げ、ぐるぐると回してあげている。女の子がきゃっきゃと喜んでいると、他の子供もよってきた。

「わーいいな。僕にもやってー」「わたしにもー」


 まあ、でもせめてこのくらいはしてもいいかな。

 女僧侶はそう思いながら、子供たちと遊んでいると、喜んでいる子供たちを見て、とても充実した気持ちになる自分に気付いた。


 遊び人という職業って、ものすごく魅力的なんじゃないか。

 女僧侶はそんなことを考えていた。


 今日は、女僧侶にとっても充実した休日になりそうだ。


次話、1週間以内には投稿できるようにします

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