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3話 ゴブリン討伐にちょっと疲れた件(女僧侶視点)

「いくぞ、うおおおお!」

 女剣士は大声をあげると、剣を鞘から引き抜き、真っ先にモンスターの元へ走っていく。


 ゴブリンたちは慌てて迎撃の準備をする。一番近くにいたゴブリンAは武器を取るのが間に合わず、急に来た女剣士に一太刀で首を切られ絶命する。


 「ギャギャッ」次に近くにいたゴブリンBがこんぼうを持って、女剣士に襲いかかる。女剣士はキインと、受太刀するが、こんぼうと剣でぶつかるのは相性が良くないようだ。「くっ」と女剣士は刃こぼれを気にしてか張り合わず一旦引く。その隙に、今度はゴブリンCが女剣士に襲いかかる。ようやく追いついた遊び人は、鼻メガネを装着。さらにその状態で変顔をし始める。鼻メガネが相乗効果にならず、せっかくの変顔の面白さが半減してしまっている。


「やあっ」女剣士に集中していたゴブリンCに、女僧侶が不意打ちをする。本来スタッフで威力の大きい攻撃はできないが、今回のように不意打ちを頭に食らえばダメージは大きいようだ。地面に突っ伏したゴブリンCに女剣士は剣を突き立てる。これで残りはあと1匹。


 残ったゴブリンBは逃げ出すが、女剣士が追いかける。遊び人もそうはさせまいと、鼻メガネをかけたまま聖歌を歌い始める。女剣士は剣をゴブリンBに剣を投擲すると、それが足に命中。女剣士は倒れたゴブリンのこんぼうを持って、それでも逃げようとするゴブリンBにとどめを刺しに行く。

 ゴブリンBが力尽きた後も聖歌を歌い続ける遊び人を見て、女僧侶は今の自分の気持ちが分からず困惑している。なぜか、まともに遊び人の顔を見れなかった。


「良かった、みんな無傷で倒せたね」

 女剣士はそう言うと、ゴブリンの耳を千切って袋に入れた。ゴブリンの場合、それが討伐した証になる。


「よし、次行こうか。とにかく慎重にね」女剣士はそう言って、再び周囲を探り始めた。


ーー

 その後、1匹、2匹、1匹、と少ない数で近くをうろついているゴブリンを順次撃退していった。不意打ちに近い状態で女剣士の一撃で倒せてしまう場合も多く、非常に順調だ。


「てやっ!」

 女剣士は、またゴブリンを1匹斬り伏せる。1対1で注意する点はこんぼうと剣でぶつかる際の刃こぼれくらいで、女剣士ならゴブリンをほぼ一太刀で決められるようだ。

 遊び人は腹を切られて仰向けに倒れたゴブリンに、耳にかける部分が折れてしまった鼻メガネを装着させ、手を合わせて祈っている。鼻メガネとゴブリンを一緒に供養するつもりなのだろうか。不謹慎極まりない。


「これで8匹。もうそろそろ、いいかな。このクエストは、無理をしないで数日かけて少しづつゴブリンの数を減らすのがいいと思う。今日はもう、この辺りの地理や地形を把握することに意識をおきながら、ゆっくりと帰ろうか」

 女剣士のこの提案に、他の2人も賛成した。


 本日のクエスト報酬は、1人80カッパーだった。昨日のスライムよりは少ないけども、今後も安定して稼げそうなところは魅力だ。


 翌日も、また翌日も、そのまた翌日も、そのまたまた翌日も、3人は連日ゴブリン退治に出かけた。それぞれ、10匹、9匹、13匹、8匹、と危なげなく順調に討伐し、廃村近辺のゴブリンの数を減らしていった。

 遊び人は、毎回何かしら手作りの食事を作ってきてくれて、皆に振る舞ってくれた。それが毎回美味しくって、女僧侶の中では、冒険の楽しみのうちの1つになりつつあった。


 そしてそのまた翌日、ギルドへ行くと緊急クエストが発令されていた。


「何これ、廃村に住むゴブリンの殲滅だって」

 女剣士は驚きながらその依頼書に目を通す。要するに、ゴブリンの数が減ってきたようだから、もう掃討してしまって欲しい、という依頼のようだ。報酬は20シルバーと、ゴブリン退治にしてはかなり豪華だ。はっきり言っておいしい仕事だ。


 それを聞いて、女僧侶は嬉しそうな顔をするが、遊び人はあからさまに不安げな表情を浮かべていた。女剣士は、そんな様子をチラリと見ると、冒険者ギルドの受付へ向かって行った。


「これはもっと経験豊富な冒険者に受けてもらった方がいいかな。お姉さん、他にもう少し軽い依頼はない?」

 女剣士は受付のお姉さんにそう言うと、他の依頼を探し始めた。それを聞いて遊び人は、一気に安堵の表情を浮かべた。


 それはそうだろう、もう何日も連続でクエストに出かけている。命懸けでモンスターと戦う、というのは慣れないと心身ともにかなり疲弊するものだ。まだ冒険者を始めたばかりの遊び人にとって、ここで大きいクエストを受けるのはなかなかしんどいだろう。


 そういえば、うちも最初は疲弊して大変だったっけな。女僧侶はそんなことを思い出していた。


「ねえ、今日は丁度いいクエストがないから、休みにしない? 最近ずっと戦っていたから、疲れちゃって」

 女剣士はそう言うと、他の2人にも同意を求めた。今日は、軽いクエスト依頼がなかったようだ。

「そうね、うちも休みが欲しかったから、賛成」

 女僧侶もそう言うのを見て、遊び人は安心したように「わ、私もそれで問題ないです」と同意する。


 ここ半年、ずっと戦いを続けている女剣士が、ゴブリンと数日戦っただけでそこまで疲弊するなんてことはないだろう。先輩に迷惑をかけまいと必死な遊び人が、自分から休みたいと言い出せるはずがない。そう思って、遊び人を気遣っているのだろう。


 報酬の20シルバーは正直魅力的だったが、女僧侶もそれで異論はなかった。こんなリーダーだから、うちはずっとついてきているのだ。今まで何度も思ったことを、また思った。


「ねえ、今日も何か食べ物作ってきてくれているの?」女僧侶は遊び人に質問した。

「え、ええ、まあ一応」遊び人は、少し照れながら、いつもの弁当箱が入っているであろうバッグに目をやった。

「ねえ、今日はそれをみんなで食べながら、休憩しない?」

 僧侶のそんな提案に他の2人も賛成し、少し景色のいい場所へ行って皆で食事をしようということになった。


ーー

 街の離れにある小高い丘に3人は腰掛ける。

「こ、こんなものでよかったら」遊び人は照れながら弁当箱を開けた。

 綺麗に切られたパンにクリームや果物が挟まっていて、カラフルなジャムのようなものが散りばめられている。甘いものが好きな女僧侶は、見るだけでよだれが出そうになった。

「ね、ねえ、食べていい?」

 聞きながらすでにパンに手をつけている女僧侶に、「ど、どうぞ」と遊び人は照れながら答える。

「美味ーい!」女僧侶は幸せそうな顔をしながら言った。

「うん、今日もすごく美味しい」女剣士もそう言った。

 その感想を聞いて、遊び人はとても幸せそうな顔をしていた。自分の作ったものを、誰かが美味しそうに食べる姿を見るのがとても好きなのだそうだ。


 その後も、しばらくそこで3人で楽しく雑談をして過ごした。冒険に関わる話はあまりしなかった。それぞれの故郷の話、家族の話、好きなことの話、たわいのないことを延々と話していたら、時間が経つのがとても早かった。そこまで大騒ぎをして盛り上がる訳ではないが、なんとなく落ち着いて楽しく過ごせるので、とても心地が良かった。この3人で何でもない時間を過ごすのも、女僧侶は好きになりつつあった。


 女僧侶は思った。女剣士と2人のパーティーだった時は、こんな時間を過ごすことはあまりなかったかもしれない。女剣士は優しくて、とても頼りがいがあって、いいリーダーだと思うが、ずっと一緒におしゃべりをして過ごす仲かと言われれば、ちょっと違った。遊び人が加わるだけで、居心地よくみんな一緒に過ごせるのだ。それが嬉しくて仕方がなかった。


ーー


「よし、これからはそれぞれ自由時間にしようか」女剣士がそう言った頃には、もうお昼を過ぎていた。朝一番に集まったはずなのに、おしゃべりに夢中になり、気付いたらもうこんな時間だったのだ。


「そうね、うちも一旦自分の宿舎に戻ろうかな」女僧侶もそう言った。

 本当は、もっとおしゃべりをしていたい気持ちもあったが、ずっと先輩の自分たちといたら休みにならないかもしれない、と女剣士が気配りをしたのだろう。女僧侶もそれが分かっていたので、素直に片付けをし始めた。


 そろそろ解散しよう、という空気が流れ出すと、遊び人は口を開いた。

「あの……実は私、本当はとっても疲れていて、今日お休みをもらえてとっても嬉しかったんです。お二方とも、本当はクエスト受けたかったかもしれないのに、気遣って下さってありがとうございました」

 遊び人は、少し照れた表情を浮かべながら、ちゃんと2人それぞれの目を見て、笑顔で頭を下げる。

 遊び人のその言葉を聞いて、女僧侶は素直に嬉しくなった。自分たちの気持ちが伝わっている、それをちゃんと分かって、喜んでくれている。そんな感覚がとっても心地よかった。


「じゃ、じゃあ、また明日朝に冒険者ギルドで集合しよう。ゆっくり休んでね」

 女剣士が照れながらそう言うと解散になった。


 女僧侶はとてもいい気分だったので、今日は買い物でもして過ごそうか、と考えていた。


次話、3日以内に投稿します

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