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13話 パーティ内で、遊び人という職業の評価がうなぎ上りな件(女僧侶視点)

 包容のあと、女剣士は、仲間に打ち明けた。

 本当は、遊び人に憧れていること。

 いつも遊び人を見て、おかしくって仕方なかったこと。

 神経質な自分は、決して遊び人のようになることはできないと思い、見ているだけしかできないと思い、憧れだけを募らせていたこと。


 女僧侶は、心底驚いた。女剣士のしっかりしたところは好きだったし、頼りになるいい仲間だと思っていたから。遊び人の奇行に関してなんで何も言わないのかと不思議に思っていたが、まさかそんな風に思っていたなんて。


 女僧侶は、女剣士の気配り上手で優しいところが好きだった。あれでいつも勇気をもらえたのだ。自分では、そこを『神経質』だと思って嫌悪していたなんて思いもしなかった。

 『そこは女剣士のいいところで、うちは大好きだった』と言ってあげたかったけども、遊び人との不思議な空気感に邪魔されて、とても言えなかった。


 泣きながら本音を語った女剣士に、あろうことか遊び人は、


「だったら……あなたも、やってみますか? 遊び人」

 そう言って、鼻メガネをスッと差し出した。

 

「い、いや、私には無理だ。性格的に、とても……」

 と女剣士は言ってうつむいた。

 女僧侶も、そうだと思った。あの女剣士に遊び人のようなことは向いてないと思う。



「向き、不向きなんて、やってみなければ分からないと思います。私なんて、『絶対遊び人向いてない』って言われて、剣士や僧侶をすすめられたこともあるんですよ。女剣士さんには私はどう見えますか?」

 遊び人がそう言うと、

「私にとって、遊び人は、その……憧れで……」

 女剣士は、やや恥じらいながらもそう言った。


 それを聞いて、女僧侶も納得してしまった。遊び人はその高い身体能力や、普段の聖女のような性格や、無駄に勇敢なところなど、剣士や僧侶の方が向いていると女僧侶でも思えた。しかし、実際に遊び人としてどうだろうか。こんなにレベル向上が早く、こんなにはっちゃけている遊び人が他にいるだろうか。


「結局は、やるかどうか、なんです。女剣士さんは、どっちを選びますか? 鼻メガネに憧れつつ、ただ見るだけの日々を送るか。鼻メガネと、共に生きるか」

 遊び人は再度、鼻メガネを女剣士に優しく差し出した。


「うぅ……私が……私なんかが、できるだろうか……私なんかが」

 女剣士はその場に膝立ちになり、やがて手を地面に付けて悩み出した。

 遊び人は、その様子を優しい目で見つめている。


「……」

 女僧侶は、なにも言葉が出ない。



 しばらくした後、地面に手をつけたままの体制で、女剣士は泣きながら言った。

「私も……生きたいです。鼻メガネと、共に」


 それを見て、ニコッと優しく微笑む遊び人。



「えっと……なに、これ」

 女僧侶は、本日2度目のその言葉を呟いた。




ーー


「今回の報酬は、3シルバーになります」

 女剣士は受付のお姉さんから、報酬を受け取ると、いつものように均等に仲間に分配した。


 結局、オークは2匹しか倒さず、そのまま帰ってきたのだ。今日はあのまま狩りをする心境じゃないので帰りたいと女剣士に言われ、今日の冒険は終わりにしたのだ。


 せっかく実力を上げて、オークが倒せるようになったのにこれだけの稼ぎで冒険を終えたことに関して、残念だという気持ちが女僧侶には少しあった。

 ただ、女剣士はそのことについて謝ってくれたので、別に良かった。別の日にまた稼げばいいだけだ。なにより、いつも自分のことより仲間のことばかり優先する女剣士が、そういったワガママをいうのはかなり珍しかったので、尊重してあげようと思ったのだ。


 女剣士の顔は、喜びに満ちていた。何かそれ以上の大きな報酬でももらったかのようだった。


「これから、お願いしますね、師匠」

 女剣士は、遊び人に言った。


「し、師匠はやめてくださいよ。呼び名はいつも通りでお願いします」

 遊び人は照れながらそう言った。


「……」

 女僧侶は、黙ってそれを見ている。



「それじゃあ、私たちはこれで。じゃあ女僧侶、また明日ね」

 女剣士はそう言うと、遊び人と一緒に立ち去っていった。


 今日は、冒険も早く終わったので、女剣士は遊び人の宿舎に行って色々と教えを受けるんだとか。


「ふぅ……」

 女僧侶はため息をついた。


 不安でしょうがない。明日からの冒険はどうなるのだろうか。


 それと同時に、女僧侶は思っていた。

 最初は、うちと女剣士の2人で冒険をしていた。頼りになる女剣士は好きだったし、ベタベタはしなかったけども、それなりに仲は良いと思っていた。女剣士は何かこう、本音をあまり言わないような部分があって気にはなっていたが、そのうちもっと打ち解ければいいと思っていた。

 遊び人よりも、うちは半年も多く女剣士と一緒にいたのに。それなのに、女剣士のあんな顔、うちは見たことがない。あんなに嬉しそうな女剣士は。


 そしてもう一つ、思っていることがあった。

 女僧侶も、ちょっと前、遊び人に憧れていた時期があったのだ。でも、結局体裁とか周りの目とかが気になってしまい、憧れから降格したのだ。本当にやりたいことを突っ切ってやっている姿を見ると、羨ましくなる。それが周りから評価されるかとか、そんなのはどうでもいいことにさえ見えてくる。あの楽しそうな、嬉しそうな、女剣士と遊び人の姿を見ると。


 女僧侶は、二重の意味で悔しがっていた。なんとなく、自分自身に対して不甲斐なさを感じていたのだ。


 そういった悔しさと、ほぼ同じくらいで湧いてくる感情もあった。

 何かこう、ワクワクするのだ。単純に。


 あの女剣士が、明日はどうなっているんだろうか。

 どうはっちゃけるんだろうか。


 女僧侶は帰り道で、普段真面目でしっかりした女剣士が、鼻メガネを慣れない様子で構える姿を想像し、おかしくて仕方がなくなった。


次話、すぐに投稿します

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