1話 遊び人の冒険が始まった件(遊び人視点)
「遊び人です、パーティーに入れて下さってありがとうございます。これからよろしくお願いします」
遊び人の女は、そう言って目の前の2人に深々と頭を下げた。
「私は女剣士、よろしくね遊び人ちゃん」
女剣士は遊び人にニコッと微笑んだ。
彼女の装備は豪華ではないが、防具など最低限のものは揃っているようだ。端正な顔立ちにショートヘア、そして何よりスタイルがいいので、凛々しく見える。
「うち女僧侶、よろしくー」
女僧侶は、無邪気に手を振っている。
彼女は一般的な僧侶服に、スタッフを装備している。
こちらはツインテールで巻き髪、背は低いが非常に可愛らしい。妹にしたい冒険者ランキング、というものがあれば、そこそこ上位に食い込むだろう。そんなランキング、ないだろうけども。
「お二方とも、経験者なんですよね。わたし、冒険初めてなのでとても心強いです」
遊び人はそう言うと、ほっと胸を撫で下ろす。良かった、2人ともいい人そうだ。
「せ、先輩方の足を引っ張らないように、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
遊び人が再び深々と頭を下げる。
「ううん、私たちもまだ、冒険者歴はそんなに長くはないの。そんなに緊張しないで。遊び人ちゃんは初めてってことだから、最初は軽く初心者用のクエストを受けよっか。女僧侶もそれでいいよね」女剣士は言った。
「ほーい」
女僧侶の返事を聞くと、女剣士は続ける。
「確か今日は、初心者用のスライム退治の依頼が出ていたから、それにしよう。私が受けてくるから、半刻後にそれぞれ準備して街の入り口に集合ね」
女剣士はてきぱきと段取りを組むと、冒険者ギルドへ向かった。
「さーてと、うちも準備しようかな、遊び人ちゃん、後でね」
女僧侶もそう言うと、遊び人の前から立ち去った。
「なんか助かるな、こういうの」
遊び人は呟いた。
クエストなんて初めてで勝手が分からなかったので、こうやって仕切ってくれるのは非常に助かる。
それに、慣れていない自分のために初心者用のクエストにしてくれるなんて、すごく嬉しい。
これから、このパーティーの為に一生懸命頑張ろう。遊び人は素直にそう思った。
半刻後、街の入り口
「よし、揃ったね、行こう」
そう言った女剣士の案内で、スライムのいる平原まで3人で歩いていく。
その道中、3人で色々とお喋りをした。
2人は半年ほど前に冒険者になったばかりで、ずっと2人でパーティーを組んでいたこと。パーティーのリーダーはやはり女剣士だということ。出来れば女性だけでパーティーを組みたかったので、遊び人が入ってくれたことが嬉しかったことなど、色々と話してくれた。
また、遊び人が話し出すと、2人とも毎回ちゃんと終わりまで話を聞いてくれた。
「ついた、この辺によくいるんだ、スライムは」
とある平原に着くと、女剣士は言った。
遊び人は、この2人と過ごすのがとても居心地が良く、あっという間に着いてしまったように感じた。道中で「うちら3人、いいチームになりそうだね」と女僧侶が言ってくれたことが、とても嬉しかった。
「あ、いた!」
女僧侶が指さした先に、2匹のスライムがいた。
高さは、遊び人の身長の半分くらいだろうか。思ったより大きい。
遊び人は、初めて見るスライムに近づき、楕円の形をした生きた液体がうにょうにょ動いているのを見て、鳥肌が立った。
「さあ、いくよ。準備はいい?」
女剣士はそう言うと、剣を構えた。
女僧侶は頷くと、女剣士の後ろに付き、スタッフを構えた。
「……はい」
遊び人も、緊張した面持ちでダイスを構えた。
「はあっ!」
まず女剣士が、スライムに斬りかかる。スライムの真ん中に大きな切れ込みが入るが、すぐに再生しようとする。見ていてやはり気持ち悪い。
「まだまだっ!」
女剣士は、先ほど入った切れ込みに、さらに斬りかかる。再生しかかった切れ込みがまた広がると、さらに続けてもう1回、さらに1回と斬りかかる。あと少しで半分に切れそう、というところで、「えええいっ!」と、女僧侶が上半分をスタッフで殴ると、その勢いでスライムが半分に千切れる。
2つになったスライムは、ビチビチとうごめきながら次第に動かなくなってくる。2つに千切れると死ぬのだろうか。ものすごく気持ち悪い。
「よし、あと1匹」
女剣士は、良くやったと言わんばかりに女僧侶と目配せとすると、残る1匹に標的を定めようとする。
流石、冒険者の先輩だ。あっという間に1匹倒してしまった。
よーし、こんどはわたしも。遊び人はそう思い、気合を入れた。
「せえええいっ」
女剣士は残ったスライムに斬りかかる。今度はスライムの一部を削いでしまった。再び女剣士がスライムを斬りつける。今だ、遊び人はここで6面ダイスを2個振った。出た目は8、まずまずだ。「えええい! 」女剣士に次々削がれていくスライムは、反撃の隙もなく、どんどん体積を小さくする。遊び人は、ここで更にダイスを振り足した。これで合計は10。10面ダイスを振ったのに、2が出るとはついていない。
「……」女僧侶は遊び人のやっていることが気になって、攻撃するかどうか迷っているようだ。
「せやっ」
結局、小さくなったスライムの中心を女剣士が突き刺し、とどめを刺す。
あのやり方でもスライムは死ぬようだ。
「ふう……」
女剣士は剣を鞘にしまうと、死んだスライムの目玉を回収し始めた。どうやら、それが討伐した証拠になるようだ。それを見て、遊び人も振ったダイスを回収し始めた。
その様子を女僧侶は不思議そうに見ている。
「ね、ねえ、遊び人ちゃん、あのさ……」
女僧侶が言いかけると、剣士がそれを遮った。
「次の標的はあそこだ。すぐ行くぞ、ついて来い」
「はいっ」
元気に返事をする遊び人を横目に、女僧侶も慌てて準備をした。
今度の標的は、スライム1匹だが、さっきよりかなり大きい。遊び人の胸の高さくらいまであるのではないか。
「いくぞ」剣士が真っ先に斬りかかる。それと同時に、なんと今度は遊び人がいきなり10面ダイスを振った。かなり思い切ったようだ。
ぐにゅ…ぐにゅ…と、剣士の先制攻撃でスライムが怯み、再生に手間取っているようだ。「せええええっ」それを見た剣士が、好機とばかりに得意技の袈裟斬りを放つ。会心の一撃に思わずニヤつく女剣士とは相対して、遊び人は頭を抱えている。まさか、1が出るなんて。今日は10面ダイスはもう振るべきではないと思い、6面ダイスに持ち替えたその時。
「えいっ」女僧侶がスタッフで殴り、スライムにとどめを刺した。
「ね、ねえ、あのさ……」
スライムの目玉を回収しながら、女僧侶が気まずそうに何かを言い出そうとしたとき、再び剣士の声がかかる。
「どうやら今日は当たりのようだね。クエストのノルマの倍は達成出来そうだな」
そう言ってニヤつく剣士の目線の先に、大量発生しているスライムの姿があった。
「今日は、最高のデビュー日だね、遊び人ちゃん」
「は、はいっ、頑張ります」
女僧侶はやる気に満ち溢れている2人を見て、不思議そうな表情を浮かべている。
「よし、いくよ」
その女剣士の号令とともに、3人はスライムの方へ向かって行った。
ーー
いつの間にか、その平原にスライムはあと1匹になっていた。
「くっ……」女剣士は右腕を負傷している。スライムにやられた打撲のようだ。「任せて」と女僧侶は剣士に近づき、回復呪文を唱え始める。
その隙に近づいてくるスライムを見て、遊び人は6面ダイスを3つ握りしめ、祈りを込めて平原に解き放った。「えーい」出た目は、4・5・6のシゴロ。まさかのシゴロ。
ここが勝負時だと思った遊び人は、思い切って歌い出した。
「ら〜、らららら〜」遊び人は、中途半端に歌が上手かった。しかし、みんなが知らない歌を、鼻歌で歌っているだけなので、誰も癒されない。本人のみ楽しそうである。
「でええいっ」回復が終わった女剣士がスライムに斬りかかり、それに女僧侶も追随する。遊び人が追い討ちの2曲目に入ったころには、スライムはもう倒れていた。
「ふう……、今日はこれで12匹か。みんなよく頑張った、帰ろうか」
女剣士はそう言うと、遊び人と女僧侶それぞれにおつかれさま、ありがとう、と言って労った。
帰り道も、特にクエストが初めてだった遊び人に、女剣士が、よく頑張ったとか、いてくれてよかった、とか何度も声をかけて労った。遊び人は、みなさんのお陰です、とか、ありがとうございます、とか、これからもお願いします、と2人に感謝の気持ちを伝え、とてもいい雰囲気だった。ただ、女僧侶は口数が少なかった。
3人で冒険者ギルドへ行き、報酬を受け取ると、女剣士がすぐさまその場でそのお金を2人へ渡す。
「今日の報酬は、1人1シルバーと30カッパーだ」
本来、スライムを4匹倒せば達成だったクエストを12匹倒したということで、報酬が弾んだそうだ。
「嘘……わたしこんなにもらっていいの?」
遊び人は、少し驚いていた。1シルバーと言ったら、安い宿屋であれば、1週間は寝泊まりして食事をとっても、少し余るほどの額だ。新人の自分が、こんなにもらっていいのだろうか。
「ああ、報酬は必ずみんなで等分する。これは、最初にこのチームを組んだ時からの決まりなんだ」
女剣士は、そう言って遊び人に微笑みかける。
「女僧侶もそれでいいでしょ」
「……まあ」
女僧侶は表情を変えずに答える。
「この様子じゃ、明日はもう少し難しいクエストを受けても良さそうだね。明日の朝は、このギルド前に集合しようか。今日はもう疲れただろうから解散にしよう」女剣士が言った。
「……まって、ちょっと質問してもいい?」
「ん? どうした女僧侶」
「い、いや、女剣士じゃなくって、遊び人に質問なんだけど……」
女僧侶はそう言うと、遊び人の方を向いて言った。
「ねえ、遊び人ってなんなの?」
次話、3日以内には投稿します。