第7話―1―
心から親友と呼べる友達なんて、ずうっといなかった。小学生の頃も中学生の頃も、遊ぶ友達は決まっていたけど、その友達との関係を「親友」と周りから決めつけられるのは気持ちのいいものではなかった。
係を決めるにも当番を決めるにも部活を決めるにも同じになるのだが、当人ふたりで決めるのではなく周りがそうなるように囃し立てるのだ。
別に嫌というわけではないが、何だか自分の意思で仲良くしているというよりも、そうしなければ周りから「ケンカでもしているのか?」と、いちいち心配されるのが嫌だったのだ。私が友達と毎日仲良くしていたのは、他の友達から心配されたくないという、そういう義務感からだったのかもしれない。
しかし、美鈴は違った。あの子とは、本当に仲良くしたいと思った。
私の下らない冗談にも付き合ってくれていたし、彼女も冗談を言ったりして、私の“ど低脳”のレベルに合わせた会話もしてくれていた。彼女と一緒にいると、笑顔が自然と出てくるし、彼女もまた、本気で笑ってくれていた。
美鈴が編入してきてくれて本当に良かった。それまで白と黒の二色だけで塗り潰されていた私のつまらない世界が、一瞬にして色とりどりの色鉛筆で配色された。
そして、それを絵の具で綺麗に仕上げてくれたのが律子だ。
律子は私とは全く逆のタイプで、一言で言うならば「完璧」。学年に必ず一人はいる、とっつきにくい優等生と言ったタイプだ。何をするにも先の事を考え、それに伴って行動を細かく決める。周りの事に対してもそうだ。自分の事だけではなく、クラス全体の事もしっかりと考えている。
しかし、彼女がいつも行動を共にしていた春や八重子は、どちらかと言えば私と同じタイプだ。律子と我々という、この異質な組み合わせは、不思議な程にしっくりきていた。
十七年という短い人生だったけれど、結局私の中で親友と呼べるのは、美鈴と律子だけだったのかもしれない。
バスに跳ねられた私の体はボロボロで、更には全力でダッシュしたせいで呼吸も間に合っていない。本当に苦しい。
私はきっと、このまま死んでしまうのだろう。まあ、それもいい。全ての苦しみや悩みから解放されるのだ、悪くはない。
ただ、言わずもがなではあるが、律子に例の事を伝えられなかった事だけが非常に心残りである。
せめて、あと一度だけ律子に会いたかった。
目の前が真っ白に包まれていく。
「--っ!」
次の瞬間目の前には、私が春の家の経机の下に手を這わせている光景が広がった。いや、厳密に言うと“私の手”ではなく“彼女の手”である。
手の先には、私が未来へ戻った時に読んだ封筒が、まだ綺麗な真っ白な状態で置いてある。恐らく、その封筒から指先を離した直後だったのだろう。
だがしかし間に合った。あのまま私は死んでしまうのかもしれないが、このチャンスは逃さない。いや、私と言うよりも、この子が絶対に逃しはしないだろう。この、超切れ者の彼女が。
『おかえり、沙美』
脳内に直接聞こえたその低い声は、とても懐かしく感じるものだった。そして私も答える。
「はぁはぁ……はぁ……た、ただいま、律子」
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