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主人公は脇役  作者: 乗ると酔う子
1/5

万引き少年みっけた。

 犯罪を示唆するような意図はみじんもございません。

 万引きだ。盗みだ。

 少年は底のある大きな手提げ鞄の口を少し開き、スナックに手をかけている。行動は遅々としている。常習でいちいち戸惑うわけもないため、初犯だろう。その割にカメラから手元を隠しているのは凄い。


「どーしよっかー……」

 主人公は魚の小骨が喉に詰まったような顔で首をかしげた。しばらく思い悩んで、少年の顔を横からじっと見つめた。つまりガン見しているのだが、少年は気づかない。その状態で少しして、主人公は歯間に(はさ)まったものがとれたような顔をした。得心した、というような表情だ。

 主人公はおもむろに財布から小銭を取り出すと、「あーれー、お金がー(棒)」などと、わざとらしく取り落とし、少年の気を引くように酷い三文芝居を演じて見せた。といっても、誰も見てはいないのだが。

 少年は両の手で持ったスナックの方が見る価値があるというように目もくれない。まあおそらくそんな意図はなく、緊張で視野が(せば)まっているのだろう。

 主人公は無反応が面白くないのか眉間にきゅっとしわを寄せたかと思うと、手早く小銭を拾い集め少年の左手に握らせた。

「おおっと、ちゃーんと握りしめとかないとダメじゃないか。手が金属くさくなるくらいには。見たところ、こんなちっぽけな(はした)でもなけなしなんだろう?臭いが鼻につくくらいわけないはずさ」おおよそ開口一番投げつけはしない、無礼千万の酷いセリフだ。

 少年は流石に主人公に気づいて──身体が接触して気づかなかったら心身が心配だ──ぽかんと間の抜けた顔をしている。それを見た主人公は、なんだか失礼なことを考えていそうだ。


「……なんのつもりだよ。」

「親切のつもりだよ。」

 至極全うな問いに信用ならない答えが返される。

 少年は数瞬 間をおいて「……いらない」と、睨みながら小銭を押し返した。主人公はその行動を気に食わなさそうに無表情で眺めて、「捕まるよりよほどいいと思うけどねえ。それとも、少年院のまずい(?)飯をお望みかい?貧しいからといって前科持ち(それ)はどうなのだろう。後ろ指が気にならない性質(タチ)なのかい?世間って狭いもんでね、重さに関係なくやらかしたことはすーぐ広まっちゃう、らしい。あ、そうそう、ムショの飯ってホントにまずいのかねえ。大層気になるよ。少年院はどうなのだろう。話にも聞かないね。入るなら出てくるとき立ち会うから、感想を聞かせてくれないかい?」とまくし立てた。

 順当な反応を示す少年。将来の眉間が心配になるほど眉根を寄せている。

 すると主人公は何かに気づいた素振りを見せた。なんとなくオーバーでわざとらしかった。


「ああ!弟くんに食べさせるためなんだから、動機に(それ)はないかな?」


 少年はびくりと肩を震わせた。図星なのだ。

 主人公は感動するように喜色をにじませた。慈しむような微笑みのなんと柔らかいことか。性格悪い。

 一転、重大な事実に気づいたように真顔になった。

「……ん?……あれ、君いくつだっけ。一ケタ?なら少年院入れないか。てことは────ハッまさか構ってちゃん……!?」「違う。」即答だ。

「これは失礼。それとして、ご近所さんの少年が犯罪に手を染めるところなんて見ていられない!ということで、お金は受け取りなさい。」欠片も思っていなさそうな言葉を紡ぎ、またもや少年に小銭を押し付ける。


「……俺はあんたなんか知らない」

「だけど俺は知っている。」にべもない。「そういえば、お母さんしばらくお宅近辺で見てないねえ。この間男の人と歩いていたらしいけれど……んーとなんだったか……ああ、そうそう。再婚したらしいねえ。様子を見るにもしや君、捨てられちゃった?」

 ……又聞きの、あまりよくない話で年若い少年を〝いじめる〟など、やはり性格がよくない。動機もきっと愉快犯的なものに違いない。

「……。」立ち去ろうとする少年。激昂して我を忘れないあたり賢い。その背中に主人公はついでとばかりに追撃を仕掛ける。

「ああ失敬、〝君〟じゃなくて〝君たち〟か。」少年には弟がいる。

 少年はそれに振り向き否定する。「……海人(かいと)は捨てられてない」

「?……?」〝カイト〟が聞き慣れない、覚えがない単語だと言うように、主人公は不思議そうな顔をした。それを受けて、少年は丁寧にもわざわざ言い換える。

「……弟は、捨てられてない」主人公はおお!と天啓を得たかのようにまたもや大袈裟に納得を見せ、ポンと手を打ち矢継ぎ早に、諭すようにいい加減なことを言う。

「いやあ、冷静になってみなさい。弟共々、君は捨てられたよ。たぶんね。」

 それでも否定できないと思ったのか、少年は押し黙った。

 

 言い合いが収まり、両者とも静かになった。主人公はそれを破って少年に詰め寄り「まあはい、端はあげよう。サヨナラー」と、小銭を押し付けてから帰っていった。

 少年は最悪な気分だろう。

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