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第8話 陰湿上司と無抵抗部下

 それから秀樹からの和斗への攻撃が始まった。


「杉沢ぁ!」

「ハイ?」


「ナニコレ?」


 和斗が秀樹に呼ばれその席の前に立つと投げつけられる書類。


「昨日の日報……」

「ナニ、オマエ、日報もまともに書けないの?」


「あ、スイマセン」

「書き直せ!」


「あ、ハイ」

「就業中に書くなよ? 就業中は仕事しろ!」


「ハイ」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 和斗が外回りに行こうとすると、陰湿な目がそれを捕らえ邪魔をする。


「外回り行ってきまーす!」

「オイ。杉沢」


「ハイ?」

「外行くんだったら、N社にもよって、社長から預かりものもらって来てくれる?」


「あ。はい。あ、でも逆方向……」

「よろしくな」


「あ、ハイ」



 和斗が自分のアポイントを済ませ、秀樹から依頼のあったN社に20時頃到着。事務所の灯りは点いてはいたのだが。


「お世話様です! A社の杉沢です」

「あ。遅いだろ! もう、宅配で送ったよ。佐藤係長にも言ってあるから」


「スイマセン。またよろしくお願いします」

「ハイハイ。今度はもうちょっと早く来てくれよ! ったく。どういう教育されてるんだよ」


「ハイ! スイマセン。ご迷惑おかけしました!」



 先方に注意されて和斗が21時帰社するとそこには秀樹が腕組みをしながら待っていた。


「ただいま帰りましたー」

「オイ! N社長カンカンだったろう!」


「ハイ。すいません……」

「なんで先に行かねーんだよ!」


「スイマセン。オレのお客さんにアポの時間あったんで」

「だったら先に言えよ! バカか!」


「ハイ」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 次第に、和斗の内勤が多くなる。無駄な仕事を預けられて本来の仕事をさせてもらえない。

 しかし、めげずに懸命にがんばっている。


「なんだ。この企画書。誰? 書いたの?」

「あ、オレっす」


「これじゃ、使えねーよ! そんでなんだよ! その口の聞き方! オレっす。じゃねーだろ!」

「あ、ハイ。私です。スイマセン!」


「やりなおせ! 小学校から!」

「スイマセン……」


「他の課で使ってもらえ! 総務に行ってこい! オレ、使えないんで別の課にして下さいってよ!」


 しつこい怒鳴り声に見かねて課長が仲裁に入った。


「佐藤くん。佐藤係長。まー杉沢くんも頑張ってるしね」

「先輩! ダメですよ。甘やかしちゃぁ」


「うん。まぁね。でも、昨日今日始まったことじゃないでしょう?」

「ホラ、課長も昨日今日から使えたわけじゃねーってよ!」


「いや違うよ。口のアレとかはさ。前に比べたらずいぶんよくなってるから。矛をおさめなさい」

「はぁ。まぁ。杉ィ~。ホントに使えない部下持つと上司は大変だなぁ~。挟まれちまってよー!」


「スイマセン……」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 そんな調子で一か月。

 次第に課の雰囲気も悪くなっていくが秀樹はお構いなし。


 だが、秀樹に絡まない和斗は、ぜんぜん変わっていない。

 普通に話すし、他の課の人間とも仲がいい。


 また、そのストレスがなさそうな和斗に秀樹は腹をたてる悪循環。

 恵子は後悔していた。秀樹に和斗のことを言ったことを。

 課内が疲れている。

 さすがに和斗が可哀相になってきていた。


 自分の部屋に到着し、バッグに手を入れてカギを出そうとしたその時。


「ん。あれ? 家のカギ……。バッグに入ってない。あ、ロッカーに入れて来たんだった! バカだあたし~。まだ誰か会社にいるかなぁ? 22時かぁ」


 恵子はタクシーに乗って、夜の会社へ向かった。

 自分の課の電気がまだついている。

 誰かが残業しているのだ。これなら目的が果たせそうだ。


「小林さんかなぁ。仕事遅いからなぁ」


 課のドアを開け、小林の席を見る。だがいない。

 では誰がと思い見回すと、予想外の人物が一人で仕事をしていた。


「あれれ?」

「あ。先輩」


 それは和斗だった。おしゃれな髪型も疲れが見え始めている。

 本人の顔も、どことなく怯えているようなそんな感じだった。


「まだいたの? 頑張ってるねぇ」

「ハイ」


「なんの仕事してたの?」

「あ、と……」


 和斗の席に行って、パソコンのモニターを見てみると、企画の作成だった。恵子は思わず苦笑した。


「あ~企画書の書き直し?」

「ハイ」


「なんでぇ? そんなのチャチャっと終わんないの?」

「いえ、10案なんで……」


「ええ? 10案も? なんで?」

「あ、佐藤係長が……」


「……ん。あ、そうなんだ」

「でも、あと2案で終わりです。すいません心配かけて」


「……まだ2案あるんだ」

「大丈夫っすよ? あ、大丈夫ですだよ」


「フフフ」

「あー。なんか久しぶりだ。先輩とこうやって話すの」


「だね」

「はい。テンションあがるっすー! あ。あがりますぅー」


「……ふふ。もういいよ! 気にしなくて」

「なにをですか?」


「話し方」

「マジスカ? いいっすか? もう辛かったぁ~」


「ん~でもちょっと苦手かなぁ」

「なんすかそれ~。あー。なんですかそれ」


「はは」

「フフ」


「どーれ。見せてみな。企画書」

「これです」


 すでにプリントアウトされた企画書を見てみる。

 3社分の10案ずつの企画だった。

 思わず「大したもんだ」と声に出す。

 秀樹の陰湿ないじめが自分の部下である和斗に対し逆に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「……ふんふん。ふんふん」

「…………」


「…………」


 二人の間に沈黙が流れる。片方は企画書の熟読。もう片方は声をかけるのがはばかられていた。

 じっくり見ている恵子に和斗は自信なさげに尋ねた。


「あの、どぅですか……」

「……いいね」


「やったっ!」


 喜ぶ和斗に、恵子は笑顔で書類を返した。


「じゃー、チャチャと片付けなよ。終わったらご飯食べにいこう。おごるから」


 途端に和斗の口が弓のような形になってニンマリと笑った。

 全てを魅了するような笑顔だ。

 恵子も思わず微笑み返した。


「マジスカ! あいや、マジ? ん違うか。ホントですか?」

「もう、どっちでもいいよ」


「んですね。すぐ片付けまーす! 先輩とメシ♪メシィ~♪」

「ふふ」


 1時間程で仕事をまとめ、丹念に日報をまとめる和斗。

 秀樹に言われたからだ。しかし言われてもやることはキチンとやる姿勢は好感が持てた。


「ほー。ちゃんと書いてるじゃん」

「一回やった失敗はもう一回したくありませんからね」


「エライ。エライ。フフ」


 一生懸命な和斗の姿がとても頼もしく感じられたのだった。

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