第7話 就業規則
心を入れ直し、課に戻って、自分の席に座り報告書を書いた。
まだ少し時間があると思い、企画書も書く。
そして18時。終業のチャイムがなった。
辺りを見回すと誰も席を立つ様子がない。
みんな残業コースであろう。仕事の仕方が遅いと呆れた。
そんな同僚たちを尻目に恵子は立ち上がって秀樹に確認を入れる。
「佐藤係長、今日はもう上がってもいいですか?」
「うーん、そうだね。いいよ。大丈夫」
「すいません。じゃ、お先失礼しまーす!」
許可をもらって急いで着替え、家まで帰った。
今日は秀樹のイレギュラーな訪問なので、この短時間でなにを作るか腕の見せどころだと思いながら、冷蔵庫にあるものでテキパキと軽い食事の用意をした。
すると玄関の呼び鈴が高らかになった。恵子は急いでドアを開けると、そこには秀樹がにこやかに立っていた。
「いらっしゃいませ」
「おじゃまします! ケーコ早いなぁ。まだ少し仕事してる人いたぞ? オレも帰り辛かったわ~」
「だって、あたし仕事終わっちゃったもん! ねね。ヒデちゃん。食べてく?」
「うーん。今日は早めに。でもいいにおいだね」
「あは。時間なかったから、簡単なものだけど」
「軽くつまませてもらいますか~」
「そういうと思った」
「ビール1本くらいいいかな?」
「いいですよ~。1本と言わず」
「やった……!」
二人で、話しをしながら軽い食事。
「ねー、ヒデちゃん?」
「なに?」
「あたしたちが付き合ってるって会社の誰かに言った?」
「言ってないよ。言うわけないじゃん。一応、ウチの会社、就業規則に社内恋愛禁止って書いてあるんだよね」
「え? そうなの?」
「まー、結婚した人もいるけど、結婚したら片方辞める感じ?」
「へーそーなんだ。初めて知った!」
「マジ? ちゃんと就業規則読んでないな? こりゃ、部下を再教育する必要がありますなぁ~」
そう怪しく笑う秀樹。ベルトの音を鳴らして少しばかり下にずらした。
「ちょっとちょっと止めてよ? お願いだから。立たないで! あ! 脱がないで!!」
「大丈夫だって。約束したじゃん。ただの居残り縦笛吹きの練習だって!」
「え~?」
「このままじゃ、後輩指導に示しがつかないでしょ? さ! 頑張って奏でよう!!」
「……もう!!」
「ケーコちゃん、いい上司を持ったね~」
「どこが~……」
「あー♡オレはいい部下をもったよ~」
「んふふ♡」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ハァ。よかったぁ♡ 大変いい音が出ました!」
「ハイハイ。」
「でもサ。なんで? 急に人に言ったとか? なんかあった?」
「いや知ってる人いるのかなぁ~って」
「いやぁ、いないでしょー。この顔はケイコにしか見せてないよ?」
「狼なとこ?」
「いやいやぁ。優しいヒデちゃん♡」
「んふふ。じゃぁよかった」
「なにかあった? なんかあったんだろ」
「ウン。……杉沢くんがさ。先輩いけない恋してるでしょって」
「え? マジ?」
「あたしのこと好きなんだって……」
「ハァー!?」
「ウン」
「好きって、ラブの方?」
「そうみたい」
「杉沢のヤロー……」
「ちょっとちょっと! ヒデちゃん、内緒にしとかなきゃだめでしょ?」
「ウン。そうだけど、でもあれだな。一緒に外回りとかさせない方がいいな」
「ウン……」
「オレの大事なケイコにちょっかいかけやがって。マジムカつく」
「でも、なんで知ったようなこと言ってんだろうね?」
「ケイコのオレを見る目がエッチな目してっからだろ?」
「なんでよ~。あたしじゃないでしょー!」
「オレかなぁ?」
「フフ」
「まー、とにかく、会社ではもうちょっと控えるようにしようね」
「ウン。あたしの未来のダンナさま♡」
「へへ」
和斗がなぜ二人のことを知っているのか?
「いけない恋」をしていると分かっているのか?
そのわけは分からなかった。