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第29話 最高の誕生日プレゼント

「ケイちゃん?」

「うん?」


「オレ腑に落ちないんだけど」

「だよね」


「ウン」

「このまま、何も話さないまま、楽にカズちゃんと付き合えたらいいんだけど。あたしの場合、事情が事情だしね」


「ウン」

「あのね。あたし、カズちゃんが好き」


「ウン。でも」

「うん。佐藤係長ともまだ付き合ってる」


「あ、そうなんだ」

「でも、明日、ちゃんと別れる」


「え? そうなの? どうして?」

「カズちゃんへの思いが、大きくなりすぎちゃった!」


「あ、そうなんだ。へへ」

「……あたしね。佐藤係長の子供、妊娠したんだ」


「え? え? え? え?」

「それで、カズちゃんのこと好きだけど、あきらめたの」


「え? え?」

「で、佐藤係長に言ったら、いまだに返答なし! 離婚するとも言わないし、堕ろせともいわないの」


「ウン。ウン」

「それでね。あたし、一人で産むことにしたんだ」


「だめだよ」

「いや、ちょっと待って」


「オレがいるじゃん! ケイちゃん! オレ、オレが、オレが二人を幸せにします!」

「だから、ちょっと聞いて!」


「いやだ! なんで言ってくれなかったんだよ! オレ!

 悔しい!」

「もう! バカ!」


「うるさい! 愛してるんだ! ケイちゃんのこと!」


 恵子は取り乱す和斗の頬を平手で打った。


「みたか。奥義弓美乃見様見真似」

「……一体なんだってんだよ」


「それが、さっき、荒神に来るまでに決心してたことだったの! そしたら、カズちゃんから電話来たじゃん?」

「……ウン」


「そしたら、その電話の途中で」

「え?」


「生理、来た」


 後ろに大きく倒れる和斗。桂文枝師匠のよう。

 もう、起きる気力もない脱力感。


「なんだそーか」

「だから、ここに来たの。さっきも言ったじゃん。アノ日だって」


「そーでした」

「だから、ホラ立って!」


「うん」


 二人は立ち上がって、お互いの顔を見つめ合った。


「あたしは、カズちゃんが好き」

「なんか、ラブコールするの、オレよりも多くなってるし」


「カズちゃんの気持ちも聞かせて?」

「ケイちゃん、愛してる」


 そして、顔を近づけ合って口づけ。

 今までの距離が一気に近づいた気がした。


「あぁー。最高♡……あ、そうだ。カギ」

「あー。それ? カズちゃんにあげる。スペアだから」


「え? マジ? やった! ちょーうれしい!」


 本当は秀樹のために作った合鍵。彼は家族に見つかるとヤバいと受け取らなかった。

 二人の部屋なのに、彼には別に帰る家があった。

 だが和斗は違う。嬉しそうにそれを眺めた。

 大事に丁寧に自分のキーホルダーに収めた。

 彼はもはや客じゃなくなるのだろう。恵子は嬉しくなって微笑んだ。


「人の誕生日にプレゼントをもらってますねぇ」

「あ! プレゼント! ちゃんと用意してますぜ」


「え? なに? 自分の体にリボン巻いてるとかやめてよ?」

「あ、じゃぁ、ありません」


「うぉい! 図星かい! 引く。マジで引く」

「うそですよぉ」


 和斗は自分のバックに手を入れて、恵子の前に(ひざまず)く。手には小さい箱。


「え? なに?」

「ケイちゃん。誕生日おめでとう。わたし、杉沢和斗は、渡良瀬恵子を愛しています。結婚してください」


 そういって、その小さい箱、指輪の箱をあけた。中には輝く透明な宝石がついたリングが入っていた。


「え? うそ」

「ホント」


「なんで?」

「ちゃんと給料の三か月くらいだよ?」


「なんで??」

「サイズは、だいたい。合わなかったら二人で合わせに行こう」


「だって、断られる確率の方が高いじゃん! 今日来たのだってタマタマなのに」

「そう。だって、オレ、いつもそうでしょ?」


「呆れた。ホントだ。会社もその理由で辞めるし、誕生会もこないかもしれないのに勝手に開くし。でも、これはさすがに驚きだよ~」

「さぁ。手を出して」


「はい……」

「よいしょっと。お! けっこう、ゆるいかなぁ」


「ホントだ。ゆるゆるじゃん。何号?」

「15?」


「どんな指太いって想像してたのよ」

「だって、初めてだったんだもん」


「まーね。カズちゃんらしいわ。じゃ、二人で今度合わせにいこうね」

「やった」


 店の照明が恵子の指を改めて輝かせた。

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