第28話 魔人の魔力が願いを叶える
こちらは和斗の帰りを待つ荒神の店内。もうすぐ来ると恵子から聞いて、仲間たちは盛り上がりを取り戻していた。
熱気が充満する中、恵子はどうしていいのか分からず、カウンター席に座って外を気にしていると和斗の仲間たちが声をかけてきた。
「ねぇ。あんたもこっちきて座んなよ」
「あ。ありがとうございます」
そう言って、仲間たちが集まっている席のはじに腰を下ろすと、人の良さそうな年配のおじさんとおばさんが話し掛けてきた。
「自己紹介は?」
「あ。ケイコです」
主役であろう恵子の話を聞きながら、テキパキとグラスやハシ、皿を並べてみんなニヤニヤしていた。
「どういう関係? カズちゃんと」
「あ。前の会社の上司で」
「へー年上!」
「あれ、恋人じゃないの?」
「ハイ。まだ……。でも今からなれるかなぁ?」
「おお、すごいじゃん」
「じゃ、飲みな飲みな。カズちゃんがごちそうしてくれるだろうから。」
「あ。いただきます」
温かく迎えてくれた大勢の人達に恵子の緊張はほぐれたが、気持ちの行く先は先延ばしになり、心臓が破裂しそうだった。
大将が小さい窓から外を眺めていると、汚れたコートに手を突っ込みながら小走りに駆けてくる和斗の姿を認めた。
「あ~来た来た」
和斗は入り口を疲れた感じであけた。
「ただいま帰りました。はぁ」
恵子は入り口に顔を向けて、ビールが入ったグラスを高く上げた。
「カズちゃん、ごちそうになってまーす」
「ああ。もうケイちゃん……」
和斗はようやく会えた恵子の顔を見ながら近づいて来た。それに恵子は手を高く上げてハイタッチを求めると和斗はそれに軽く手を当て、トスンと隣に座り込んだ。
疲れたように顔を下げる和斗の顔を恵子はのぞき込んだ。
「心配かけてゴメンね?」
「ウン。大丈夫」
「どうやって行ったの?」
「走って……」
「あー。だから疲れてんのねぇ」
「あとこれ……」
「なに? このコート。汚いね。洗ってないの?」
「走るのに邪魔だから脱ぎ捨てた。そして帰りに拾って来た」
「あー。だから葉っぱがついてるね」
カズトは燃え尽きたように頭をグゥっと下げた。
「ケイちゃんなんなの~。もー心配かけて……」
「あーん。あとでいうから~」
「そうなの?」
「ねぇ! カズちゃん。あれ言って?」
「なに? あー誕生日おめでとう」
「チガウチガウ。いつもあたしに言ってるヤツ! 上が「あ」で次が「い」。」
「あー……。え? ここで?」
「そう」
「どうしたの? ケイちゃん。今までにないテンション」
「いーから! 早く!」
「なんで……みんな見てるでしょ?」
そんなやり取りをしていると仲間たちがざわつき始めた。
「なに? なんて言ってんの?」
「早くいいなよ」
「カズト。言っちまえば?」
和斗はそんな仲間たちを一瞥し、また大きなため息。
「ギャラリー多過ぎんだけど」
「いいの!」
「あああーもう!」
そう言って、ケイコの手を取って立ち上がらせた。
お互いに向き合ってカズトは真剣な顔で
「ケイちゃん。愛してる」
「あたしも♡」
「え?」
仲間たちはニヤケながら大きな拍手をした。カウンターの中では大将も。
「なんで疑問?」
「いや、付き合ってないみたい」
「あ、じゃぁ、良かったじゃん」
「二人ともおめでとう」
それを和斗は両手を上げて静止した。
「ちょっと。黙って! え? ケイちゃん?」
「うん! カズちゃん! 愛してるよ!」
恵子は首に手を回して和斗の顔を自分の背丈まで下げた。
「ん♡」
突然のキスに荒神内は大変の盛り上がりとなった。
「ヒューヒュー!」
「なんだよ。今日はカズトのおごりだな」
「いいもん見た!」
二人は一度唇を放し、和斗は改めて彼女の顔を見た。
「ケイちゃん!」
「カズちゃん……」
「んー♡」
「んぐ」
和斗は今度は自分から改めて唇を会わせたが、恵子はそれを突き放した。
「もぅ。みんな見てる前で舌入れないでよ」
「あーゴメン。ゴメン」
わざとらしく頭をかいて、恵子の好きないつもの笑顔を送った。
「なんなんだよ。エロいなぁ」
「カズトのドスケベ!」
「アイツ、目ぇ開いてたぞ。獲物狙う目だった!」
「もうさぁ、二人になってからにしてくれね?」
「はやく、誕生パーティはじめようぜ~」
「いや、まだ始めてなかったのかよ」
全員揃ったところで、もう一度、乾杯からスタート。
大将の焼いた丸ごとのニワトリがようやく登場。
「大将、スッポンは?」
「あれは2日後の予約客のだよ。カズちゃんにスッポン食べさせたらケイちゃん大変でしょう」
「まだ食べたことないからどんな風になるのか試してみたいなぁ」
「あの……あたし、今、アノ日だからね?」
「あ、じゃぁ、やっぱいりません」
「ははははははははは」
大勢に祝福され楽しい誕生会。
終始笑顔が絶えない。
恵子と和斗は、スッポンの入った桶の前に座って、パタパタと動く足を面白そうに眺めていた。
「亀ちゃん、トリ食べるかい?」
「あー食べた! すげー」
そこに、大将が慌てて駆け寄って桶を上げた。
「ちょっと! ちょっと! 餌付けしないでよ~。愛着わいちゃうじゃん」
そんな慌てる大将を見て二人は顔を見合わせて笑い合った。そして立ち上がり、和斗はポンと手を叩いた。
「さーって。お開きにしますか。明日は金曜日。まだ仕事がありますよ~」
「そーだそーだ」
「帰ろ、帰ろ」
「ほら、カズト。ご祝儀」
と言って、一番年長のおじいさんは用意していた祝儀袋を懐から出した。
「いーよ。オレが呼んで、無理に来てもらったんだから」
「いいからいいから。気分いいから」
「じゃ、わしも」
「おばさんも」
「オレは出さなくてもいいですよね?」
「いいよ! もう……なんだよみんな。……う」
「お!? また泣くのかな?」
「グシ……泣きません!」
和斗が呼んだ仲間たちは手を振って店から出て行った。
「じゃぁな! カズト!」
「おやすみー!」
「またね!」
「カズトしっかりな!」
みんなが出て行ったところで、大将はのれんを外して中に入れた。
「カズちゃんとケイちゃん。まだ話したりないだろ? 奥の席で話したら? 勝手にビールとっていいから。オレ、奥で仕込んでくる。その代り、勘定はしっかり数えてくれよ?」
「あざっす! 大将」
「ん」
奥に消えていく大将。
ようやく二人きりの時間が始まる。