表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/33

第22話 愛してると叫んじゃえ

 自分の課に戻る恵子。

 そこには和斗がにこやかに恵子の帰りを待っていた。


「あ、先輩! ミーティング終わりました?」

「あ、ウン」


「じゃ、行きましょうか!」

「ウン……」


 和斗の運転で、引き継ぎスタートされた。

 車は、取引先に向かって行く。

 だが恵子は和斗の相談もなしの退社に腹が立って仕方がなかった。


「ねぇカズちゃん! なんで辞めるの!? あたしヤダよぉ! 辞めないで! 取り消してよぉ! いつから考えてたの!? バカ! 昨日だって一緒にいたじゃん! ねぇ! やりたいことって何なの!? ねぇ!」


 恵子の連続する質問に和斗は少しばかり楽しそうな顔をした。


「わー。そんなにまくし立てないで下さいよ~」

「好きっていったじゃん! 愛してるっていったじゃん!」


「ええ。だから」

「なによ!」


「社内恋愛禁止なんでしょ?」

「……はぁ?」


「だからですよ。社外なら付き合えんでしょ?」

「え? それだけ?」


「はい」


 恵子は安直な考えに腹を立てた。

 本来はそれが和斗のいいところ。赤ん坊が発覚する前なら喜んだであろう。しかし、今の精神状態、そして秀樹を好きにならなければならない状態も手伝って、和斗を激しく叱責するのだった。


「アンタってヤツは、ホントにあたしの気持ちなんてお構いなしね!」

「それに」


「なに?」

「佐藤係長と一緒に仕事したくない」


「はぁ? まだイジメられたの根にもってんの? 案外ちっちゃい男だったのね。あたしの眼鏡違いだったわ! もう、嫌い! 大っ嫌い!! アンタなんて!」


 恵子は和斗と離れ離れになりもう会えないのかもしれない。

 それならば、踏ん切りつけて秀樹のことを思いなおそう。子供のことちゃんと考えようと、この短絡的な若者であろう和斗を思いっきり罵った。だが違っていた。


「彼って佐藤係長なんでしょ?」

「え? なんで知ってるの……?」


「ケイちゃんチいったとき、冷蔵庫にプリクラ貼ってありました」

「あー」


「だからあの人の下だと邪魔されそうで。でも電話とか、Lineとか、マメにしていいですか?」

「……じゃ、やりたいことって」


「ふふ。ケイちゃんと結婚!」

「あ。カズちゃん」


「ケイちゃん愛してる」

「カズちゃん……」


「ん?」

「カズちゃぁん……」


「ケイちゃん?」

「……ウグ……」


「???」

「……ダメだ。これ以上言えないや」


「言えばいいじゃないですか」

「……ダメだよぉ」


「カズちゃん、好きだよぉ! 愛してるよぉ! ムチューって。はは」

「……ウン」


「え?」

「……ウグ。言いたい、言いたいよぉ!」


「え? ケイちゃん」

「ハァ。ウグ。エーン! エーン! エーン!」


 和斗の困惑。明らかに恵子の状態がおかしい。

 ヒステリックかと思えば、何も言わずに泣き出してしまう。

 車を停めて抱きしめてやりたくなった。

 彼は、人通りの少ない路地に入り、車を片側に寄せハザードをあげる停車した。


「ケイちゃん、涙で化粧落ちちゃうよ??」

「ウン。グス。ウウ……」


「どうしたの? 朝から変だよ?」

「言えない。言えないんだよぉ。言ったらカズちゃん。きっと……」


「うん」

「たぶん、カズちゃんに言ったら、全部受け止めてくれるんだろうけど……」


「え?」

「カズちゃんに甘えられないよ……」


「言って、みたら?」

「ダメ、言えない」


「受け止めるよ? ケイちゃんのこと」

「うん……ありがと。カズちゃん……」


 体も心も大きい男。

 まるで海のように広く青い。

 太陽のように輝き眩しく温かい。

 寄りかかりたい。


 好きだよ。大好きだよ。愛してる。

 言ってしまおう。愛していると。


 あたし、赤ちゃんがいるけど。


 和斗は、きっと、きっと、赤ん坊ごと自分を受け止めてくれるはずだ。


 はずなのだ……。



「カズちゃん」

「ん?」











「……じゃぁ、次の会社も頑張ってね!」


「うん。もちろん。頑張りますよ!」

「……フフ。はー泣いたらスッキリした。さぁ! 引継ぎするぞ!」


「ハイ!」

「……あのねぇ。急だったから、寂しくなっちゃっただけだから! せっかく一緒に呑みに行けるヤツができたと思ったのにさぁ。なんか、それで。はは。ゴメン、ゴメン」


「ホントですかぁ? ホントは、好きになって来たんじゃないんですか?」

「うぬぼれんなっつーの。ふふ」


「はは。スイマセン」

「そうだ! 送別会しないとねぇ?」


「えーいいですよ~。一年いなかったんですから~」

「ダメ! あたし幹事する!」


「ケイちゃんと二人だけならなぁ~」

「そういう訳にいかないでしょ!」


「はぁーい。でも佐藤係長もくるんですよねぇ~?」

「うーん。あの人こないと思うよ?」


「どうして?」

「たぶん。カズちゃんを嫌いだから、用事見つけて」


「あ、やっぱり。でもその方がいいなぁ」

「ふふ」


 その日の引継ぎの会社回りを終え会社に戻り、恵子は送別会の社内回覧を作った。


 突然だから課と絡みのある部署だけにした。

 和斗が、モツ好きだからもつ鍋のコース。

 週末の金曜日、仕事終了後。


 次の日、社内回覧を回すと…思わぬほどの人数がくることになってしまった。

 戻って来た回覧を手に取り自分の課の秀樹の欄を見てみた。


「不参加・個人的用事の為」


 やはり。でもそれでよかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ