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第2話 智者の無情なる鉄槌

「で。あたしが呼ばれましたと」


 駅裏の喫茶店エルムに親友の冬子(とうこ)と二人。

 学生時代からずっと利用してる、コーヒーの美味しい店。

 恵子の好きな店だ。


 恵子はコーヒーカップに一口付けてから問いかけた。


「どう思う?」

「そりゃ、ケイコは間違ってないよ。好きなんだもんしょうがない。愛を貫かなきゃ。たった一度の人生だよ? 後悔したくないじゃん? って、トーコに言ってもらえればどんなに楽か。と思っている」


「……ハイ」


 冬子は呆れ顔で下を向いたままの恵子に追い打ちをかける。


「あたしがそんな甘い女?」

「違います」


「あのさァ今辛いから、心弱ってるから、甘い言葉いって欲しいだろうけど、あたし、無理なものは無理だから。その男だってカスにしか思ってないよ? アンタの体のことなんて考えてないじゃん。ボロボロにされて捨てられるだけよ? もしも、二人が結婚するつっても絶対行かないからね?」


「うん」

「あたしじゃなくて、他の人に相談すれば?」


「いや。トーコにそう言ってもらいたくて呼んだの」

「だよね」


「……うん」


 冬子は髪をかきあげて、窓の外の歩く人を見ていた。


「アンタそんな子じゃなかったのにねぇ」

「ん」


「好きなんだねぇ」

「あー」


 恵子は髪をガチャガチャと両手でいじりまわす。

 冬子はそんな恵子を指さしてこう言った。


「色恋は思案の(ほか)

「え?」


「恋愛は常識だけでは計れないってこと」

「そうなんだ──。便利なお言葉」


「昔からある(ことわざ)だよ」


 恵子は冬子がさりげなくフォローを入れてくれたのかと顔をあげた。しかし、冬子は厳しい。


「でもそうならないよう法で秩序は守られているのです」

「……ん」


「もしもお二人の情愛が明るみに出ると、奥さんはあなたに賠償請求することができます」

「……ハイ」


「そして、近づくことも禁止命令がでたりします。そうすると会社にもいられないよね?」

「ハイ……」


「早めにケリをつけることをオススメします」

「ご教授ありがとうございました」


 恵子は、また視線を下に落とす。

 冬子は立ち上がって、伝票を手に取った。


「いえ、どういたしまして。この店は私が払っておきます」

「そんな。いいよ」


「いえ。どんな“賠償額”がくるかわからないから貯めといて下さい。では」


 冬子はそう言って伝票を片手に店を先に出て行ってしまった。

 こんなことを話したくてここに来たわけじゃない。

 ただただ、傍から見ればつまらない雑談なんかをするために来たのだろう。


 息が詰まるような、親友の先行きの見えない恋の話しを聞きたいわけじゃない。

 冬子のいうことは間違ってない。正論だ。


 間違ってるのは私だと恵子は自分に言い聞かせる。


「でも、別れても同じ会社で顔合わせなくちゃならない。そんなんで仕事できる? あーあ。あたし。バカ」


 恵子は一気にコーヒーを飲み干し、細くため息をついた。

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