表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/33

第11話 ヒデキの策

 和斗と食事したなどと秀樹には言えない。

 もしも言ったらまた嫌がらせに拍車がかかってしまう。

 いくら浮気じゃないといっても。


 あんな秀樹を見たくはなかった。

 せっかく久しぶりに二人りきりになれる時間だ。


 恵子の部屋。二人の部屋。


「ねー。ヒデちゃん?」

「なに?」


「杉沢くんにちょっとアタリ強すぎない?」

「んなことないよ。オレのケイコに近づいたんだから当然の報いだよ」


「そんな。大人のヒデちゃんが好きなのに~」

「あー。……ウン。そうだなぁ」


「課の雰囲気も悪いよ? 最近」

「うん。だよなぁ」


「あたしなら大丈夫だよ。あたしにはヒデちゃんしかいないし。だからやめてあげて?」

「ふふ。かわいいなぁ、ケイコは。いい奥さんになるよな」


「うん。早くもらってね」

「ウンウン。まかせとけって!」


「奥さんと、ちゃんと話進んでる?」

「あ~信用してないな?」


「いや、そーゆーわけじゃないけど」

「ちゃんとしてるよ。大丈夫。あともう少しで、ハンコ押してもらえるよ」


「あ。よかった」

「もう少しの辛抱だよ♡」


「ん♡」


 秀樹に腕を回されて、そのままベッドに突入。

 あとは時間がない二人だ。

 時間がある限りじっくり愛を確かめ合う。手繰りあう。


 だが、秀樹には帰る家がある。

 手をつないで玄関まで見送りにいく。


「じゃあな。ケイコ。また会社で」

「うん。じゃ」


「そんな、悲しそうな顔するなよ。会社も含めりゃ誰よりも一緒にいる時間は長いんだぞ? ふふ」

「あ! うん。そーだよね」


「そーだよ。ふふ。じゃぁな」

「うん」


 今まで言ったことがない言葉を、思い切って言ってしまおうと思った。


「いってらっしゃい!」

「?? ん。ああ。じゃ、いってきます。はは……」


 秀樹がドアをしめた。

 最後のセリフはギクシャクしていたが。

 でも、こんな感じで行ってみようと思った。


 そして、いつか「おかえり」と言いたい。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 変わって次の日の会社。

 課長から秀樹に内線がかかり、会議室に呼ばれていった。


「なんでしょう?」


 課長に呼ばれたわけを聞く秀樹。


「うーん。あのねぇ。佐藤係長。この一か月、売上、下がってんだわ」

「はぁ……?」


 意味が分からない。自分のせいではない。部門長は課長だ。自分に売り上げ減の責をなすりつけるつもりかと思った。だが違うことだった。


「キミ、ちょっと杉沢くんにアタリが強くない? なんかあったの?」


 ドキリとする言葉。恵子に言われてタイムリーな話題だった。

 それならそれで話は早い。


「いいえ。そんな」

「社長も、杉沢くんに内勤させるなってさ。だから、出れるように面倒みてやって?」


「あ、ハイ」

「頼むよ? ちょっと、最近変わったよ?」


「かもしれません。自分もちょっと反省してました。彼を伸ばすためにヤリ過ぎました」

「あ……! そういうことだったのね?」


「そうです。誰かが鬼にならないと。彼もっと伸びるはずですから」

「そーか。そうだったか。合点がいった! 信じてたよ」


「スイマセン。予め言っておくべきでした」

「いや。分かった。ただ、営業成績下がってるのはね。その辺のバランスをね」


「了解です。ただ純粋に社益(しゃえき)を思ってのことでした。すいません」

「いーよ。いーよ。社長にもいっておくから」


「はい。よろしくお願いします。では失礼します」


 ドアを開けて一人会議室からでてドアを閉める。

 そしてニヤリと笑った。


「ふふ。ちょろい。ちょろい。課長さん。そんなんで営業できますかぁ? この世は、化かし合いですよ。ふふ」


 そう小さく呟いて秀樹は大きく腕を上げて伸びをした。


「さぁ~って。じゃぁ、いい子に戻って、我が営業一課のエースに復帰してもらいますか」


 何事もなかったように係長の席に座って、内勤してる和斗に声をかけた。


「杉沢」

「はい」


「この企画で十分だ。早速先方に持ってってくれ」

「あ! ハ、ハイ!」


「頑張れよ!」

「ハイ! 頑張ります!」


 横の机でそれをほほえましく見ていた恵子。

 秀樹の早い対応に心があたたまる。

 そして和斗の嬉しそうな顔に自分も嬉しくなるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ