偽老人と運転手~探すの巻き~
カランカラン~!と小気味良い、鈴の音が“喫茶・ロビン”中に響いた。
店主の、マハン・ロビンは、「誰だ…?」と思い、ドアの方に向かった。
「お主は…。シュンではないか!どうなさった!?」
顎に白髪を生やし、頭にとんがり帽子を被った、老人が驚愕の目で俺を見た。
彼こそが、この店の店主で俺の幼馴染とやらだ。
「あははは……。ま、ちょっとね」
俺は苦笑いをして、詳しい事は容易に言わない。
「怪し過ぎますのぉ。こんな、下町の儂の家に何の用ですか?」
店主は、老いた目を細め、シュンを観察した。
「誰も居ない…様だな。今から、閉店する事はできるか?」
「ん~。ま、出来ない事はないが…。そんな重要な事であるのなら、反対側にある、“小物店・マハン”の店主に相談すれば良いじゃないか」
「どっちもお前の店だろ?」
シュンは、呆れ顔で店主を見る。
彼らは、幼い頃から何時も一緒におり、相手の全てを知っている。
敵に回しては、いけないランキングは、お互いナンバーワンだろう。
「まあ…そうじゃがのぉ~。向こう側に、お前の良い相手になりそうな、輩をおいてるんじゃがなー。どうする?」
「何がだ?」
鋭い目つきで、シュンはロビンを睨みつける。
その目は、
“さっさと、本題に入りたいんだけど??”
と言っているようだった。
しかしそんな目つきをロビンは全く気にせず、話を続ける。
「相手を変更するなら、今のうちだぞ~!」
「んだから、俺はお前が相手でいいんだよ…」
「こんな、年老いた爺さんでいいのか?」
「誰が爺さんだ。さっさと元に戻れや!」
「ちぇっー。メンドクサイノー」
彼は、ロビンは、階級を持っていない魔法使いだ。
故に自分の姿も変身できたりするのだ。
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と、まあ、他愛のない話を何度かして、ロビンは渋々、話を聞くことにした。
「で?本題って何じゃ?」
「……。お前さあ、そんな姿で老人の口調って、恥ずかしいって思わないわけ?」
「まーったく、思わんのぉ」
「あっそう!なら良い。
“魔法使いで、上級階級の者が、王子の命を狙っている”
という、実にくだらない噂を俺は耳にした。それで、何故か、王の命令によって、探すことになったんだけど。この噂、本当か嘘か、分かるか?」
ロビンは、考える仕草をして、シュンの目を真っ直ぐ見た。
「その噂を、知ってるかどうかも分からない相手に、よくそんな事が聞けるのお。結論から言わせてもらおうか。その噂は、《嘘》じゃぞ」
「やっぱりそうか。ならもう一度、一から探さないといけないか…」
あーあー!という諦めた雰囲気を漂わせているシュンとは別に、
ロビンはジッと物言いたげな目をしていた。
「シュン。その噂、《本当》と言ったら、どうするつもりだった?」
「んー。まあ、この下町から探すかな~」
「城内の誰にも言わずに?」
「勿論。報酬金を持っていかれたら困るからな…ってなんだ?噂は《本当》なのか??」
少し嬉しそうにするシュンとは別に、ロビンはまたもや難しい顔をした。
「ここはお前を信じるか…。
ああ。お前の察した通り、噂は《本当》だ。
ただし!間違いが有る」
「お前って、ホント、口軽いのか重いのか、分からないな…。
誤りって、どこに?」
「はああぁぁぁ。シュンは、王子に死んで欲しいのか?」
「どーでも良い」
と言うと、シュンの目は、一瞬死んだ魚の目のようになった。
「あ、アッサリしてるね。俺、お前のその性格、好きだぜ?」
「気持ち悪い。そして急に口調を変えるな。じゃあ、王子は死んでないってことか?」
「そうだ。そしてこれがお前に対しての、忠告兼アドバイスだ。
“年齢と見た目にに囚われるな”
お前なら、そんな事はないと思うけどね」
「精一杯、忠告兼アドバイスを活用させて頂くよ~!」
カランカラン~!と、“喫茶・ロビン”に鈴の音が響き、店内には、店主を除き誰も居なくなった。
「本当に、気をつけてよね…。
“神”よ…。我らの主よ根源よ……。私の親友に、手加減して下さいよ。
王子、ちゃんと家に帰って下さいね…」
誰に言うわけでもなく、ロビンはそう、小さく呟いた。
ーーー
「うんうん!大分、仕事に慣れてきたね。この調子だと、今までの儲けより、約二倍になって私の生活も、楽になるかも…??うへへへっっ」
「き、気持ち悪い!ところで、もう人通りも少なくなってきたし、家に帰りませんか?」
王子は、私に向かって、丁寧語で話しかけてきた。
「んー。そうだね!じゃあ、帰りますか~。…よいしょっとー」
足元に置いてある、新品で丈夫なカゴを持ち上げた。その中には、十数個のマッチが入っている。
「あ……。仕事には慣れてきたけどあんまり今日は、売れなかったんだ…」
ポツリと私は、悔しく寂しく思い、そう呟いた。
その途端、王子は、「ひいっ!あ、え!?」と意味不明な単語を連発させた。
「どーしたの?」
私は精一杯、女の子のフリをする。
最近、素が出てきてるから、気を付けないといけなくなってしまったのだ。ったく。この王子さえ、来なかったら、完璧な女子になれるのに…。
でも、と私は考える。
王子が、来なかったら、私は貧乏生活のままだったんだろうな~。
「しゅ、シュシュシュ…、シュン!?!?」
うるせえなぁ。汽車かよ、おめーは。
ってか、“シュン”って名前。どっかで聞いた事があるような…??