少女と王子~夕飯の巻~
うっへへー、うっへへ~。めっちゃ儲かった!
ちらっと、青年を見て私は一目散に逃げる。逃げる、逃げる…。
だがしかーし!
青年は、走って来る。しかも、速い。
なに、あのスピード!バケモンでしょー!可笑しい、おかしい。私も、そこそこ体力はある方だけど、アレは異常だね〜。ハハー。
私はくるりと半回転をし、青年の方に走って行く。彼は、「おおっとっとぉー」と急ブレーキをかけようとしたが、勢いがあり過ぎてそのまま、土にダイブした。
そのそばを、私は素早く通り過ぎて家に帰った。
ーーー
「ただいま~」
ガチャッと、ドアを施錠する。私の声は、重ぐるしく家の中に沈んでいくだけだった。
今日の夕飯は、何にしようかなー。今日はかなり儲かったから、チーズと肉と葉っぱを詰め込んだ鍋としなっしなのパンにしようか…。それか、いつも通りのパンとコーンスープにしようか。うーん…。悩むなら、後者にしよ。あの青年がくれたお金は、魔法で見えなく、落ちないようにしてワンピースの中のポケットに入れとこう。いつか、必要になる日がくるかもしれないし。使ってしまうと、マジの貧乏人になってこの話、バッドエンドになるし。
ぐつぐつとコーンスープを作っていると、外が騒がしいことに気が付いた私は窓についているカーテンを少し開けた。
「は?何でえぇぇえーー!!」
大声で、私は叫んでしまった。仕方のないことだと思う。
そこには、土まみれになり、高級そうな服が汚れていてこちらに向かって、ヨロヨロと歩いているさっきの青年が居た。騒がしいのは、この下町の住人たちが「あの青年の服をどうやって盗むか」とか「知らねえ顔だな…」みたいな話をしている声だった。
ったく、なんでこんな薄汚れた汚い下町(ゲスどもの巣窟)に来たんだろうねー?私目当てだったら、ストーカーで気持ち悪い…。まあ、気にせずご飯を食べよっと。
ーーー
確か、あの少女はこっちに走って行ったよな?…うっううー、何で王子の僕がこんな、下町に行かなきゃいけないんだよ。汚いし、町の住人には注目されるし…。お腹すいた…。諦めて、城に帰るかー。
くりっと、城に向けて歩き出そうとしたら、足を捻ってしまい、そのまま倒れた。
すると、それを待っていたかのように、外にいた住人がわらわらとよって来た。
ああ、僕はこのまま死んでしまうのだろうか?しかも、下町で…。
そしてそのまま彼は意識を失った。
ーーー
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃああぁぁーー!!貴族の青年が、倒れたぞおぉーー!」
そんな声が外からした時、私はスプーンでコーンスープを食べようとしていた時だ。
どうせ、私には関係無い人のことだ。いつもの事…。そう、いつもの事だ……。
ああぁぁぁっっ!面倒くせえ。金のお礼に、助けてやるか!
バンッと、思い切りドアを開けて、死んだ生物にたかっているハエ達が居る方向に走る。人混みを掻き分け、青年の指先に触る。そして、魔法で彼を浮遊させた。
「おい、魔女?独り占めする気か?」
片目が義眼であると噂されている、でっけえおじさんが私に聞く。
「いいや?アタシャ、お前たちの命を助けようと思ったんだがねえ~」
わざと、私は口調を変えた。この言い方、私好きじゃないんだよね…。
「命…だと?はっ!冗談言いあがって!王子でもあるまいに」
この小娘がっ!という感じの目で、おじさんはこちらを睨む。だが、私はそれに怯む事なく文句をいう。
「あれは、この国の王子様だよ?まあ、お前たちが信じるか信じないかは別だよ?ほら、盗めよお?家族や自分が犠牲になってもなあ?」
私は、浮遊している彼をおろし、土の上に置く。
「ちっ、仕方ねえ。おい、ズラがるぞ」
周りにいる人々は、ぱらぱらと散って行った。その時、彼は意識を取り戻した。
ーーー
「ありがとうございますっ!本当に、ありがとうございます!!」
私は、時間をかけて作ったスープが、彼によって消えていく様をジィーーっと見ていた。
ああ、私の夕飯がーー……。
ま、魔法でお腹を空かないようにできるんだけど…。食べたかったな〜。