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勇者召還の無双魔王  作者: 織田 伊央華
第二章「召還の魔王」
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第1話「召還」

お待たせいたしました、新章の開幕です!

2016年12月28日修正-行間の修正-

 暗く、静かで冷たい。


 意識が覚醒した直後に感じたのはそのような感覚だった。


 暗いのは瞼を閉じているから、そして自分の体は何か硬い物の上に寝ているのか、冷たい温度が服越しに伝ってくる。


「ん・・・?」


 瞼をゆっくりと開けていく。すると視界には見慣れない景色が広がっていた。


 一瞬病院かとも思ったが建物であっても日本の建築物のような天井ではない。まるでコンクリートがむき出しのような天井であり、見る限り質感は硬い。そしてただ武骨な天井ではなくなにか幾何学的な模様が幾重にも刻印され綺麗に光っていた。


「お目覚めでしょうか」


 まじまじと天井を見つめているとふと声が掛けられる。聞いたことが無い声、それは女性の声で透き通るような鈴のような音色。


 地面に横たわるように寝ていた少年の視界に一人の少女が立っていた。いや、少女とは言えないほどのグラマラスな体つきと整った顔立ちは美女といった方がいいだろう。そんな女性が傍に跪いていた。


「誰?」


 覚醒直後なのかまだ記憶があいまいな少年。口からはさっきまでは、とか学校などと単語が漏れている。

 そんな様子の少年に再度頭を垂れながら女性は言った。


「第一の家臣、イレーネ・ドラクニルでございます」


 節々が痛む体を何とか起こし、改めて傍の女性に目を向ける少年。身長は少年より少し低い170センチほどで、女性としては高身長と言えるだろう。そして綺麗に織り込まれた決して煌びやかではないが高級と思われる衣服にみを包んでいる。そうやって見ると女性は少年が今まで見てきた女性の中でもトップに間違いなく入るだろう。


 しかし、その女性は少年の中の女性たちとは決定的に違うところがあった。それは、


「・・・角?」


 角があったのだ。頭の頭髪部分に髪とは別の色をした硬質な異物。それはまるでツインテールのように両側から生え、綺麗な曲線を描いている。長さ的には数十センチほどで目立つほどではない。だからこそ少年が気づくのが遅れたのだ。


「はっ。私は竜人族でありますゆえ、その角でございます」


 そう言う女性、イレーネは自らの角を見せるかのようにわずかに頭を下げ、少年によく見えるようにする。


「竜人って、てかここはどこだよ?」


 ようやく頭が起きてきたのか少年は視線をあちこちに飛ばしながら問う。そしてその答えはオタクとしていろいろなマンガやアニメ、小説などを読みふけっていた少年の予想と全く同じものだった。


「ここは旧フレディック地方にございます都市レグナスの魔王城でございます」


 いままで聞いたことが無い名称と、そして魔王城という単語。それは確実に少年の頭の中に入って行った。


「・・・・・・・・・・・・・」


 竜人の美女、イレーネの返答の後しばらく目をつむるように無言になる少年。そしてその沈黙からどれほど立っただろうか。その間一度もイレーネは声を掛けることは無かった。




「・・・異世界召還、ですか?」


「さすが魔王様。もうご理解なされましたか」


 そしてそのイレーネの返答によって少年の表情が僅かに引きつる。


「魔王城と聞いたときはまさか、と思ったけど。もしかして俺、魔王として召還しゃれちゃったパターン?」


 通常の召喚もの定番と言えば勇者として召還され、その世界で脅威である魔王を倒し、英雄となる。それがほとんど王道パターンであり、常道だった。しかし少年が遭遇したこの召還はそれらと違い人類の敵である魔王として召還されたようだ。


「はっ。まさにおっしゃる通り、我々が魔王様を召還させていただきました」


 という返答。


「やっぱりそうか、勇者じゃないのか」


 少年の妄想でよく自分を勇者に見立てて異世界を旅した記憶がよみがえる。それは男子であるならば一度はしたことがあるであろう妄想であり、その数が少々多いだけの少年だ。


「・・・それで、召還したってことは何かしてほしい事があるんですよね?」


 質問を飛ばす少年、その視線の先にはイレーネの姿がある。


「はっ、我々の世界を救っていただきたく思っております」


 その答えに少年は乾いた笑い声をあげた。


「ははっ、やっぱりテンプレの世界を救う、か。でも魔王ならいつもとは逆に人類を滅ぼすとか?かな」


 独り言のように呟く少年。だがその言葉をイレーネは独り言だとは受け取っていなかった。


「まことに申し訳ありませんが、この世界に人類は少数程生息しております。しかし我々の敵は人類ではなく、また人類とは共闘体制をとっておりまして。もし魔王様が人類を滅ぼすとおっしゃるのであればすぐさま滅ぼしてごらんに入れますが」


 しれっと恐ろしいことを口にするイレーネ。その表情はなぜか恍惚に笑みを浮かべている。


「い、いや別に滅ぼしたいわけじゃなくてですね。もともとこういう異世界召還もの敵って言うと魔王であり、その逆パターンである現状では人類が敵なのかなって思っただけで」


 手をぶんぶんと振るように急いで否定した少年。その様子に少々残念そうな表情をしながらもイレーネは畏まりました、と一言だけ了解の意を示す。


「じゃ、じゃあとりあえずいろいろな常識とか、現在の状況とか敵の事とか聞きたいんだけど・・・」


 どんなRPGなどのゲームしかり、異世界ものをよく読んできた少年にはやるべきこととしたいことが頭の中に山ほど浮かんでいる。


「はっ、ではここでは何ですので別の部屋に食事やほかの部下たちを待機させておりますのでそちらに移動願えますか?」


 先ほどから同じ姿勢のままで話を続けるイレーネ。その姿に多少申し訳なさを感じながらも自分は魔王であるという事が少しづつ理解してきた少年は快く返事を返す。


「ではこちらに」


 そういい立ち上がり、少年を先導しようとしたイレーネ。しかし彼女はその場で一度止まり、少年の方を再度向く。


「御一つよろしいでしょうか?」


 どうやら何か質問があるようだ。そんなイレーネの態度にそう言えばいままで質問されなかったな、と思った少年はすぐさま了解の意思を込めて軽く頷いた。


「魔王様の、我らが主のお名前をお聞かせ願いたく・・・」


 少年はその言葉によってはっとした表情になる。


「そう言えば一回も名乗ってなかったですね」


 照れくさいような、なんとも言えない雰囲気になる。その雰囲気を自ら壊すように大きく息を吸い込み、心を落ち着かせると同時に少年は自らの名を名乗った。


「葛城、葛城(かつらぎ) 叶斗(かなと)って言います」


 面と向かっての美女との会話は今まで彼女もおらず、インドア派な少年にとってはハードルが高かったようで顔を僅かに赤く染めている。


「カツラギ様、カツラギ様ですね」


 その返答を聞いてあっ、と少年、叶斗は言葉を漏らす。


「あ、それは苗字で名前はかなと、叶斗です」


「はっ、申し訳ありません。カナト様ですね」


 アメリカなど外国と同じようにどうやらこの世界でも頭の方が名前になるようだ。それに気づいた叶斗はすぐさま自分の名前を修正した。


「はい、叶斗です。それに魔王様ってのかちょっと恥ずかしいからできれば名前で呼んでほしいんですけど」


「はっ、了解いたしました。以後カナト様とお呼びいたします。それと、我々はカナト様の忠実な(しもべ)でございます。ですので誠に差し出がましいですが、我々に敬語をお使いになるのはおやめになったほうがよろしいかと」


「確かに魔王だったらそうかな」


 と自らの記憶と照らし合わせ、暴虐非道な魔王というイメージが呼び起こされる。しかし叶斗はそこまでひどくしなくとも、少なくとも敬語をやめ、部下を使う上の立場になればいいと短く決めた。


「では、お部屋の方にご案内いたします」


 そう言うとイレーネは踵を返し、綺麗な回れ右をして扉の方へと歩きだした。その動きによってたわわに実った胸部が揺れ、それに思春期の少年の視線が誘導された事実は隠蔽しておくべきだろう。彼の名誉のためにも。


 そんなことをしながらも二人は召還された部屋から出たのだった。





―なぜ、こうなった―


 現在叶斗は一人で頭を抱えていた。正確に言えば、豪華な装飾が施された廊下を美女の竜人を先頭に歩かせながらその後ろで思考にふけっていた。


―確か、最後にある記憶はいつも通りに学校に向かい、校門をくぐり自分の席に座ったことまでは覚えている。そしてその直後に座ったお尻の下になぜか熱を感じ立ち上がる寸前、目の前が真っ白になった。そこまでは覚えている。―


 叶斗に残った記憶。それは召還される寸前までの確かな記憶であり、その直後に召還され、その反動により意識が飛ばされた直前までが残っている。


―まさか異世界召還なんてどんなラノベ?アニメ?マンガ?だよ。いっそ夢だったら覚めてほしくないけど、覚めてほしい。―


 そんな禅問答を繰り返しているうちにその部屋に着いた。


「こちらになります」


 そう言うとイレーネは恭しく両開きの豪華な扉を開けると一声中に向かって叫んだ。


「魔王カナト様がお見えになりました」


 その声は大きくなく、普通の声。しかしその透き通った音色は開け放たれた巨大な部屋の隅々まで届き、その直後一斉に椅子を引く音が聞こえてきた。


「どうぞ、こちらです」


 そういいイレーネは叶斗を先導する。


 その部屋は一言で言ったら巨大食堂のような場所だった。中央に長大な長机。それはとても厚く、材質も木ではなく一つの石を削りだしたものだった。


 そんな机の周りにはぐるっと異形の集団がそれぞれ椅子から立ち上がり、叶斗に向けて腰を深く折り畳んでいる。一部体の構造からか折り曲げられない者も見えるが彼らは彼らでそれなりの敬礼をしている。


 そして彼らの背後にはそれぞれに一人づつつくように人間(にんげん)のメイドが控えており、彼女たちも最敬礼の形を取り、腰を45度に綺麗に曲げている。


 そんな中をまるで社長以上の気分で誕生日席である魔王の王座へと向かう叶斗。


―うー、これは慣れないといけないな。―


 顔が熱くなるのを感じながら叶斗はイレーネの後に続いて席まで歩く。


 食卓を囲むように並ぶ異形の集団は全員で9人。


―おそらく彼らが魔王の部下で最上位にいる人たちなんだろうな―


 そう率直な感想を抱きながら叶斗は席に着く。通常の貴族や会社などの常識に当てはめれば目上の人物が座れば一同は座るはず。しかし、叶斗の目の前の異形の集団は誰一人座ることなく叶斗の方を向き、一礼したままだ。


「では、まず我々のご紹介をいたします」


 その言葉によってようやく全員が顔を上げる。その顔や姿を要約全貌をもって見ることが出来た叶斗は内心少し驚いていた。


「では私に次ぐ第二位の僕、カイル・アルバーン」 


 そのイレーネの言葉でイレーネがついた席の真正面、叶斗からしたら左側の席だった。その席から立ち上がるのはほとんど人型だが背中に黒い翼を生やし、片眼鏡(モノクル)を掛けたイケメン。その瞳は爬虫類のように縦に割れ、わずかに覗いた口からは白い尖った歯が見えた。


「ご紹介に預かりましたカイル・アルバーンと申します。内政をお預かりしております」


 そう言うとそのばで跪き、頭を垂れるように一礼する。


「では次に第三位の僕、ロイド・ゲルバシカ」


 次に立ち上がったのはイレーネの席の隣、叶斗の右側の列の席だった。どうやら序列順に並んでいるようだ。よく見てみると座っている席の装飾も僅かにイレーネより質素になっている。


「紹介に預かりました、ロイド・ゲルバシカと申します。軍の総責任者をお預かりしております」


 そう挨拶をするのは見た目は初老の人型の魔人。跪く姿は人そのものだが頭の上に猫の耳のような三角の耳が見えており、背後には尻尾も見える。恐らくは獣人の類だろう。


「では次に第四位の僕、アルル・ワイバーグ」


 その次に紹介された魔人は大きかった。体長は先ほどまでに紹介された誰よりも大きく、人ではない。硬い鱗に覆われた盛り上がった筋肉。そして鋭い爪を見せている手と足、背中に生えている大きな翼。現在はたたまれているが、おそらく広げると数メートルの大きさになるだろう。いわば竜そのものである。それも日本のように体が長い龍ではなく、西洋などで知られている恐竜型の竜だ。


「お初にお目にかかる、飛竜軍をお預かりしておりますアルル・ワイバーグと申す。以後お見知りおきを」

 まるで日本の武士である侍のような堅苦しい口調。それが見た目完全な竜の口から出てくるのだから叶斗の表情が驚きに染まっている。


「次に第五位の僕、ケルア・ナザトース」


 その次に紹介されたのは女性だった。正確には人ではなく、耳がとがっており、とても整った顔立ちで身長は低い。特徴的な耳からもエルフであり、その身長や容姿からは人間でいう15歳前後の幼さが見える。


「ご紹介に預かりましたケルア・ナザトースですっ。魔法に関わる全般をまかされてますっ。魔王様の召喚にも関わらせてもらいましたっ!」


 元気のいい子供のようなあどけない口調で頬を染めながら叶斗に言葉を発する少女。その直後冷たい、まるで水が氷るかのような視線をイレーネから向けられ小さいのにさらに小さくなったケルア。それを見て叶斗は静かに自分の妹の姿を思い出したのだった。


「では次に第六位、クアラ・ラプール」


 つぎに紹介されたのもどうやら女性、のうようだった。そのどうやら、というのは彼女の容姿からもうかがえる。


 透き通る肌と、丸みを帯びたボディ、そうそれは饅頭のようで、まさしくスライムそのものだった。


「クアラ・ラプール・・・です・・・」


 小さく紡がれる言葉。それはどこから発せられたのか疑問だが、確実に聞こえてきた。その声はイレーネのように透き通り、幼さが残るような声質。先ほどのケルアのような俗にいうアニメ声とは違った声をしている。


「彼女は施設の管理や地下牢獄を統括しております」


 小さな声のクアラ。もとから気弱な性格なのか彼女の代わりにイレーネが補足説明していく。


「続いて第七位の僕、ルグル・アラモンド」


 つぎに跪いたのは木だった。いや、人型をした木だった。


「ご紹介に預かりましたルグル・アラモンドと申します。樹木妖精(ドライアド)の代表を務めております」


 樹齢の長い木に宿るとされる妖精で、基本的にその木からは離れることが出来ない。それゆえ樹木妖精(ドライアド)はど一か所に集まることが無く、普段は木のままであるため人に知られることが少ない。しかし人型のルグルはその木そのそのものではなく、肉体を有している。そのことから彼が高齢の樹木であり、その樹は神樹と呼ばれるほどの巨大な樹木である。樹木の体内に蓄えられた高濃度の魔力を変換し、己の肉体へと変化させることが出来る。そんな樹木妖精であるルグルは人知れない場所に立っている樹木妖精を集め一つの集落を形成している。そこの代表であり、ほかにも魔力体であれば自由に行き来が出来る樹木妖精も複数いるが肉体を持つのはルグルだけである。


「次に第八位の僕、エルシア・ブラッドレイ」


 その少女は一言でいえば可憐だった。先ほどのエルフであるケルアと同じように整った顔立ちと体つきは妖艶なまでの魅力を放っている。そして白いワンピースのような服からは透き通るほどのまるで陶器のような白さの肌を見せている。


「ご紹介にお預かりいたしました、エルシア・ブラッドレイと申します。吸血鬼族を取りまとめております、以後お見知りおき下さいませ」


 口調は丁寧であり、かつ妖艶さを身に纏っている。それは少女の容姿で可憐なまでに美化され、不自然ながらもなぜか見惚れてしまう美しさがある。


「続いて第九位の僕、ギドレイ・アルガウス」


 そう言って紹介されたのは先ほどまでとは違い異形の姿をしたものだった。


 体格は二メートルほどの大柄であり、筋肉質の肉体は引き締まっており無駄な脂肪をそぎ落としている。


 ここまでは普通の人間とあまり変わらない。変わる点を挙げれば第一に挙げられるのが顔だろう。つぶれた鼻は大きく二つの穴が開き、人間よりも高めにある耳は垂れている。そして手は指がなく、蹄のように硬い部位が二つに割れている。いわばオークのような姿だったのだ。


「オーク族の族長をしておりますギルドレイと言います」


 あまりしゃべらないのか、寡黙な筋肉オークのギルドレイはそれだけ短く呟くと跪いた。


 そんな態度に多少眉をひそめたイレーネだったが先ほどのような視線を向けることは無かった。


「そして最後に第十位の僕、キア・イルネシア」


 最後に紹介されたのも少女だった。なぜか少女率、見た目だけだが、それが高いのはそれぞれが実力を持っているからだろう。それは第一位であるイレーネの態度からも受け取れる。


「お初にお目にかかりますわ魔王様。(わたくし)はキアと申します。御身の身の回りのお世話を仰せつかっております。細かい雑用から夜の御供(・・・・)までなんでもお申し付けください」


 その直後に部屋の中の気温が一気に下がった。それは叶斗が感じただけではなく、傍にいたカイルや特にその現象のすぐ隣にいたロイドの反応からもうかがえる。


「キア?それは必要のない事ですよ?私がカナト様の身の回りのお世話をさせていただくのです。メイド長風情がでしゃばる領域ではありませんよ?」


 その口調は冷たく、目の前に並べられた食事も一気に覚めたような感覚にさせられるほどの冷気を含んでいた。


「イレーネ様、差し出がましいようですがメイドであるがゆえ、そのような雑事はすべて私がお引き受けしたしますわ。イレーネ様はご自分のお仕事に集中なさるべきだと進言いたしますわ」


 対するキアも強い口調を崩さずイレーネと対抗している。その表情はイレーネのように冷たくはなく、微かに頬を染めており、しかし瞳には強い意志が見える。


「カナト様の身の回りのお世話が雑事ですか?それこそ不敬な言いがかりですね。カナト様に関することはすべてに関して優先されることです。ですので最下位である鬼風情が出てくる場面ではありませよ?」


 その直後熱風が吹き荒れた、ようなほどの気配が吹き荒れた。その大本はキアであり、風もないのに来ている衣服であるメイド服が静かに揺れている。そして先ほどと違う点がもう一つ。そう、それは先ほどまではなかった額に現れた二対の角。それはイレーネのような巻角ではなく、すっと上に数センチ延び、赤黒い光を放っている。まさしく鬼の姿だった。


「いま聞き捨てならないお言葉が聞こえましたが、私の聞き間違えではないかと。申し訳ありませんがもう一度仰っていただけますか、イレーネ様?」


 怖かった。彼女の笑顔が怖かった。絶対に彼女たちを怒らせてはいけない、そう心に刻もうとする叶斗の正面。そこに座る人物が半分ため息のように息を吐き出しながら動いた。


 その動作は一瞬。小さい頃から実家である葛城家の道場で武術を習っていた叶斗が視認できるかどうかというほどの速さでカイルが机を叩いたのだ。


 ずんと体の芯まで通るような衝撃に送れる形で音が届く。


「いい加減になさい、魔王様の御前ですよ?」


 そう言うカイルの瞳は笑っていなかった。イレーネやキアのような冷たさや熱はなく、ただ怒りを発している瞳。そしてその対象者である二人の女性は直後にはっとしたかのように叶斗へとしせんを向ける。


「も、申し訳ございません」


「お、お見苦しいところをお見せいたしました」


 それぞれに地面に頭をつけるような勢いで跪くイレーネとキア。その変わり身の早さはカイルの何も言わさないような迫力を物語っている。


「申し訳ございません、魔王様」


 そういい叶斗に再び頭を下げるカイル。その仕草は高貴な者の雰囲気を纏っており、すがすがしいほどに綺麗なものだった。


「べ、別に構わん。それよりも俺のことは名前である叶斗と呼んでほしい」


 いきなりの出来事で流れに乗り遅れた叶斗は急いでそう言う。


「お名前など、恐れ多いですがそれがお望みであるならば、カナト様」


 少し驚くような表情をしたがすぐにイレーネに視線を向け、無言で返事を返したイレーネを見るとカイルは素直に従った。


「ではご紹介も終わりましたので今後についてのお話をする前に、」


 そう言うと一度言葉を切るイレーネ。その視線は叶斗へと向かい、そして料理へと向けられる。


「まずは魔王カナト様のご誕生を祝しまして、ささやかながら宴を催したいと思います」


 その言葉を待っていたかのように部屋の両サイドの扉が開かれ、数十人のメイドが一気に料理を持ち、部屋に入って来た。


 その姿や料理の匂いを嗅いだ叶斗の腹が鳴ったのはこの際些事であるだろう。


終わってみて、なんでこんなに新キャラ出したんだろう。と事後ながらに思っております。キャラの性格って結構考えるのが大変で、とくに口調が難しい。私は苦手としていますね。


そんなこんなでお待たせいたしました新章である第2章第1話「召還」いかがでしたでしょうか?

この過去編は短めにする予定でしたがプロットというか、今後の展開を立てているとどうしても数話で収まりそうになかったので2章として更新することになりました。恐らくは1章の数倍のボリュームになると思います。

ではでは第2話の更新まで今しばらくお待ちください。2話ではあのメイドがまたやらかす、かも?(あくまでカモです、過度な期待はやーよ♡)


では! 

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