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勇者召還の無双魔王  作者: 織田 伊央華
第一章「帰還の魔王」
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第5話「寮でのこと」

おまたせいたしました。今回は少し短いです。次の6話と続けて読むとよいかもです。

2016年12月28日修正-行間の修正-


「さて、ではここからは(わたくし)、フレデリカ・ローウェルが案内させていただきますわ」


 そう言葉が響くのは先ほどまで雫との摸擬戦闘試験の会場。


 雫が頭を抱えながら去り、数分と立たずに目の前の少女が現れた。長い金髪を縦ロールに巻き、両サイドに垂らしており、上品な佇まいを持つ目の前の少女はにこやかな笑顔を二人に向けていた。


「・・・叶斗よ、典型的な貴族の娘が目の前におるぞ?」


 異世界では何度か目にした貴族。その娘などの令嬢の事をあまり好いていない紅華は苦笑いをこぼしている。


「よろしく」


 そんな紅華を無視し、叶斗は挨拶を返した。


「はい、では私について来てくださいな」


 そう言うと縦ロールを揺らしながら回れ右するとすたすたと歩いていく。そんな彼女の後を何食わぬ顔で付いて行く叶斗と苦々しい表情の紅華。傍から見たら何か芸人の一行のようである。



「葛城・・・叶斗さんでよろしいですわよね?」


 歩き出してしばらくすると振り返ることなくフレデリカが尋ねる。


「ああ」


 それにそっけなく返事を返す叶斗。視線はどこを向くこともなく宙を向いている。


「一応、ご説明しますが、すでに寮の事はお聞きになりましたか?」


 なにかためらうような問い。


「ん?何もきいておらんが」


 その問いに返事を返したのは紅華。流れていく廊下の景色に飽きたのか話に食いついてきた。


「どうやらお聞きになっていらっしゃらない様子ですわね」


 そういうと一度ため息をこぼし、フレデリカは続ける。


「元来寮というものは男女で分かれており、それぞれが学業以外の場で協力し生活してゆく場所ですわ。そしてそれはここバベルでも同じこと。右手に見える建物が男子寮ですわ」


 そう言いながらガイドのように右手を向けるフレデリカ。その先にはいつの間にか出現していた広い中庭とその先に見える洋館のような建物が廊下の窓から見えていた。


「そしてこの先が女子寮になります」


 そう言いながら進む。そして先ほどと同じようなため息がフレデリカの背中越しに聞こえてくる。


「今日から生活していただく寮と部屋。それがこの女子第一寮(・・・・・)となります」


 その言葉を聞いた叶斗は固まった。いや、固まったのは表情だけであり、行動そのものは止まっていない。


「おい、今女子寮って言わなかったか?俺はここに入る条件で紅華と同じ部屋だという事を条件にしたはずだが」


 叶斗が思い浮かべるのは紅華との別々の部屋、その状態だ。しかしフレデリカは再度その姿に似合わないほどのため息を吐きながら言葉を続ける。


「そうですわ。そこの紅華さんと叶斗さん、あなた方お二人(・・・)が生活する女子寮ですの」


「・・・はあ?」


「ひっ!」


 いきなりの言葉で軽く怒気と殺気が漏れる叶斗。そのわずかなものでも目の前の金髪縦ロール少女を怯えさせるのには十分だった。


「おい、なんで俺まで女子寮(・・・)なんだ?」


 聞いていた話とは違う。正確にいうのであれば香の口からは聞いておらず、かつ叶斗も指定しなかった。だからと言って己が女子寮に住むことになるとは思ってもみなかっただろう。


「ひっ、し、仕方がありませんわ。な、なんせ見た目小学生ほどの可憐な少女をあの飢えた獣たちが徘徊する男子寮に入れるわけにはいきませんもの」


 最後の方でようやく元のフレデリカに戻って来た少女は小さな胸を張りながらどや顔を向ける。先ほどまでの怯えた可愛らしい少女はどこにいったのやら。


「・・・男に対する偏見が激しいのう」


 そう言う紅華とため息を吐きながらそんな言葉に同意の視線を向ける叶斗。


「まあ、そうはともあれ叶斗よ、前途多難じゃの?」


 紅華はそう言うとコロコロと笑い声を漏らした。


「笑い事じゃないんだがな。まあ生活に関してはどっちの寮でも変わらんだろう」


 小さいことは気にしない。叶斗が幼いころから何かあるとそう言い、ポジティブに生活してきた一種の格言だ。それは魔王となり、正確が攻撃的になってからは自分の力でどうとでもしてしまえる、とそういう風にとらえるようになった。しかしそれを知っているのはここでは紅華のみだ。


「あら、意外と呑み込みが早いようで何よりですわ。それではお部屋にご案内しますわ」


 そう言いフレデリカは再び先頭を歩き、案内を再開する。



 

「外から見た時は一つの建物に見えたが、これは魔法の・・・いや視覚の」


 そう言い外に出たあと紅華が一人つぶやいている。


「確かにそう言えば外から見た時は巨大な一つの建造物だと思ったが、やはり違ったようだな」


 そういい視線を向ける先には変わらず中央に巨大な白亜の塔が見えている。しかしその周りに建てられているのはそれぞれが独立した建築物。まるで広々とした土地に建てられた大学の施設のようにそれぞれが巨大であるが独立した建物となっている。


「そうですわ。このバベルは建造時に複数の魔法陣を描くように建造されていますの。その効果というのも・・」


「空間拡張じゃの」


 まるで答えを先に言われたような子供の表情をしているフレデリカを無視するように紅華はでかでかと胸を張っている。いや、まったく無い絶壁なのだが。


「・・・そうですわ。外から見た時と、外周を回って図った場合の約5倍ほどの敷地面積をバベルは所有していますの」


 外を歩く3人をさわやかな風とあたたかな日差しが照らす。


「それとここは一年中気候を自由に設定でき、通年を通して一定に保たれておりますの」


 科学と魔術、魔法の異世界技術の融合はなかなか革新的な技術を生み出しているようだ。


「あの疑似太陽もそう言った技術か?」


 ふと気になった疑似太陽。どう考えても現代技術では到達不可能なほどの熱量と光量を保持している。


「はい、あれは現理事長でもある榊先生が編み上げた彫刻魔法で、内部にため込んだ魔力を内部で無限分裂させ、乱反射させることであれほどのエネルギーを作り出しているのですわ」


 なぜか誇らしい層に胸を張るフレデリカ。紅華ほどとは言わないが、なぜか可哀想な感じである。


「そうか」


 その説明に納得したのか叶斗はそれ以上尋ねなかった。




しばらく中庭を歩いた3人はようやく女子寮の前まで到着した。


「こちらが女子寮になりますわ」


 目の前に構える建物は領というよりは一種のお城に近いものがあった。全体的に煉瓦を外壁として使用され、おそらく内部は最新の鉄とコンクリート製の建築法で建築されているはずだが、どう見てもヨーロッパの巨大な屋敷か城である。


 視界に収まる範囲でも5階建てで幅も200メートル以上ある。先ほどまで歩いてみてきた建物の中では白亜の塔以外では恐らく一番大きな建物だろう。


「では中にご案内いたしますわ」


 そう言うとフレデリカは綺麗な彫刻の施された両開きのドアを開けた。


 その直後少女特有の甘い香りが流れ出す。まあ叶斗にとってはどうでもいいものだったが。


 開かれたドアの先は広々としたフロアだった。西洋の内装を模倣して飾られた絵画やシャンデリア。そして一番目を引くのは5階まですべてぶち抜いた中央フロアだった。


 その奥には螺旋階段が左右に設置されており、巨大な絨毯が引かれたフロアにはテーブルとフカフカなソファーが置かれている。ここはどうやら女子寮の談話室のような自遊空間のようだ。午前中という事もあり生徒の姿はまばらにしか見えないがすでに叶斗達には興味の視線が複数向けられている。


 そんなフロアで叶斗達に近づく複数の姿があった。


「貴方が葛城 叶斗くん?」


 声をかけてきたのは長身の少女。黒髪を腰まで伸ばしたストレートでそれと相反するように白く透き通る肌を持つ可憐な少女だった。


「ああ」


 そんな男の誰もが見ほれるほどの美人を目の前にしても叶斗の態度は変わらない。


「私が女子第一寮の黒木(くろき) 彩奈(あやな)、4年生よ」


 そういう少女の口調は穏やかで優しさを感じる。


「ここで生活するにあたり色々と説明したいのだけど、まずはお部屋に行きましょうか」


 不躾なほどの好奇な視線。それは彩奈のはいごから遠慮なく叶斗達に注がれていた。


「ごめんなさいね。彼女たちも悪気があるわけじゃないのよ。なんせ女子寮に男子が入るんだもの、興味がないわけがないわ。それに昨日の午後に通達があってからまだ一日、まだ心の整理が出来ていない子もいるのよ」


 多少の苦笑いを溢しながら彩奈は叶斗達を先導する。


「それはよい、慣れておるからの。それよりおぬしの後ろに折る二人、名は何と申す?」


 先頭の彩奈、そして叶斗達3人を挟むかのように背後から二人の少女がついて来ている。


 彩奈と同じく制服に身を包み、少し低めの身長の少女。肌は日焼けか、それとも元々なのか褐色で焼けており、ブレザーの袖を下のシャツごと曲げている。また履いているスカートも彩奈と比べ短く、足首までの靴下のせいで引き締まった生足が露出している。


 短く切られた頭髪はぼさぼさでありながらも寝ぐせのようなものはなく、健康的な整った顔立ちにはまだ幼さを残している。典型的なスポーツ少女だ。まあ、この学園でスポーツ少女が存在するかどうかは議論の余地があるかもしれないが。


 そしてもう一人の少女は彩奈やスポーツ少女と違い、フワフワした感じのある少女だ。身長は彩奈とほぼ同じくらいの165センチほど。体格もスレンダーでモデル体質ながらも出るところは出ており、緩く着られた制服を押し上げている。くるくるとした明るい色のくせっ毛をショートの長さで切り、いわば天然少女の代名詞ともいえるような少女だ。


「あら、紹介するのを忘れていたわ」


 そう言うと彩奈は立ち止まり、振り返った。


「そちらの焼けた彼女は嵐山(あらしやま) (ゆき)で」


 そういい手を向けるのはスポーツ少女の方だ。


「そしてそっちのくせっ毛の彼女は桃屋(ももや) (はな)よ。二人とも私と同じ4年生で副寮長をしているわ」


「よろしくねっ」


「お願いします」


 二者二様の挨拶を返す二人は、挨拶が終わるとそそくさと後ろに下がった。そんな彼女たちを確認した彩奈は再び進み始める。


「ここバベルには現在生徒が約1000人ほど在籍しています。その中で女子生徒の数は7割に近い689人、そして紅華さんで690人になります。その大半はここ女子第一寮にて生活を共にしています。部屋の割り振りは基本的にその階が学年に相当し、学年が上がると同時に階を上がることになります」


 そう言うと一つの部屋の前に止まった。


「ここが叶斗さん達が今日から使う部屋になります」


 1015号室、それが叶斗と紅華に与えられた寮の部屋だった。


「では先ほど貰ったカードをお二人とも出してください」


 部屋の中に入ると思いきや入り口の前で立ったままの彩奈は二人にそう促す。紅華は多少不思議に思いながら、そして叶斗は何の疑問もなくさっとカードを取り出した。


「ではそのカードてに持ったままこのドアノブの上にかざしてください」


 そういい彩奈は1015号と書かれたドアのドアノブよし少し上にあり、ドアそのものに埋め込まれている金属板のようなものにかざすように指示した。


 二人でかざすカード。ふれるか触れないかほどの感覚になった時不意にカードに電気が走ったかのような感覚があった。それは静電気のような感じであり、またそこまでの痛みはない不思議な感覚。筋肉が電気刺激でぴくりとわずかに動いただけだったがその直後ドアのロックが外れるような鈍い金属音が聞こえてきた。


「これで部屋鍵の登録は終了です。これからはあなた方お二人が明けない限りこの扉を開けることはできません。もちろん寮長である私はスペアを持っていますが、緊急時以外に使用することはありませんので」


 そう言うとわずかに開いていた扉を押し、部屋へと入った。 


 中は一言で言うと高級ホテルのようだった。


 広さは20畳ほどで目の前には大きなガラス製の窓が広がり、左側の壁には50インチを越えるテレビが埋め込まれており、その正面には数人が座れるほどのソファーとテーブルが置かれている。そしてその反対側にはダイニングキッチンが置かれ、家電製品も一通りそろっている。


「ここがリビングになります。通常お友だちの方や来訪者にはここでお相手します」


 そう簡単に説明すると左側にあったドアを開けた。


 その先にはバスルームになっていた。


 広さは10畳もないが、大きな鏡がはめられた洗面台にはゆうに3人が並んで使用できるほどの幅がある。またその奥にはガラスの扉が設置されており、その先にはバスタブが設置されていた。


 まるで大浴場とまでは言わないが一人では大きすぎるほどの広さを持ったバスタブ。


「こちらがお風呂になります」


 そんな高級マンションを連想させるかのような部屋を見てもさも当たり前のように淡々と説明をしていく彩奈。それに二人はもくもくとついて行った。


 バスルームを出てその隣のトイレを案内した後、一行はリビングの右奥へと向かう。


「ここのキッチンは自由に使用してください。学内に複数の学食や24時間営業の飲食店もありますので使わなくても構いませんよ?」


 軽くキッチンの使用説明をした彩奈。途中何か真剣に考えるような紅華を苦々しい表情で叶斗が見ていたがそれはおいておこう。


 キッチンの後はその横にある扉を開く。この部屋にある扉はこれで最後だ。


「こちらが寝室になります」


 そういい開け放たれた扉の先にはキングサイズのベッドが二つあった。部屋の広さはリビングとほぼ変わらないが、大きなベッドで少し狭く感じる。またリビングと同じ面に大きなガラス製の窓があり、そちらに足を向けて寝るようにベッドは設置されている。そしてそのベッドの奥にはクローゼットもあり、天井には華美ではないが綺麗なシャンデリアが吊るされている。


「ほう、大きなベッドじゃのう」


 まっさきに反応したのは紅華。腕を組み、悪くないのうと上から目線で評価している。そんな可愛らしい光景を後ろから見ている雪と華が微笑ましい視線を向けている。彼女が相当年上であることを知ったらどう思うだろう。


「一応これで部屋の説明は以上です。なにか質問はありますか?」


 そういい彩奈は叶斗に微笑を浮かべながら問いかける。


「とくにはないが、服などを売っている店は町にあるのか?」


 ふと自分の服装を見下ろす叶斗。異世界から帰還し、そのままの格好でここまで来た。決して自分では恥ずかしいとも何とも思っていないが全身黒ずくめは意外と目立つようだ。


「そうですね、一応ここのクローゼットにはすでに制服は用意されていますが、見たところ私物も全然ないようですし・・・」


 彩奈の視線はクローゼットに向けられ、その後叶斗を上から下まで眺める。


「確かにその恰好は少し目立ちますね」


 にこやかな笑顔でそう言う彩奈。そしてふと思いだしたように胸元から端末を取り出し、何やら確認しだした。


 疑問の視線を投げかける二人。しかしすぐに彩奈は顔を上げ、言った。


「今日は時間があるので私が案内しましょうか?」


 そういう彩奈の表情はとてもうれしそうだった。


お読みいただきありがとうございます。ブックマーク7件を超えていました。有名なタイトルの作者さんたちにはまだ遠く及びませんが、ささやかながらに増えていくと嬉しいです。


では次の第6話はあの人の本性が・・・


という事で明日の更新ですが明日は少し忙しいので短いかもしくは遅い更新になるかもしれません。

では更新まで今しばらくお待ちください。

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