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勇者召還の無双魔王  作者: 織田 伊央華
第一章「帰還の魔王」
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第1話「帰って来た」

最初の投稿です。文字数は5000文字ほどです。誤字脱字等あればコメントでいただければ幸いです。

2016年12月1日修正‐誤字脱字等‐

2016年12月13日修正‐タイトルの修正‐

2016年12月28日修正-行間の修正-

「ようやく帰れた」


 見慣れた風景、半年近く前にもなる記憶だが今少年の眼前に広がる光景は以前のものと変わらない。


「ふっ」


 小さく笑いをこぼした少年はその漆黒の外套(マント)を翻し、歩き出した。やはり半年ぶりの故郷はうれしいのだろう。少年の頬が微かに緩む。


 歩く少年の身長は170センチと少し、同年代の中では決して大きいほうではなく、学校でも前から数えた方が早かった。体格も太くもなく、また痩せすぎてもいない。引き締まった肉体からはまるで盛り上がる筋肉は無駄だ、とでも言うようにそぎ落とされ全体がスマートにバランを取っている。


 そんな少年が歩くのは住宅街の道、車が1台ほどしか通れないほどの道幅で、今現在は深夜遅いためかまばらに設置されている街灯だけが少年を時折照らしている。


 しばらく懐かしむかのように視界に入る風景をのんびりと眺めながら歩く少年はついに足を止めた。


 深夜でも入り口をライトが照らし、その表札を浮かび上がらせている。


「変わらないな」


 小さく呟くと少年はその入り口をくぐった。閉ざされた大門からではなく、身内専用の通用門。そちらはなぜか鍵がかかることなく開いていた。


 半年ぶりの閂の感触を手に感じながらも中に入る。


 入り口を抜けた先には小さいながらも庭が広がっていた。広さにして20畳ほどだろうか。その庭には小さな池と手入れの届いた盆栽や松の樹が塀に沿うように鎮座している。


「相変わらず手入れが行き届いているな。暇し過ぎだろ(ジジイ)


 そんな盆栽たちをわき目に少年は家の入口に進む。


 頑丈な引き戸タイプの玄関扉はすべて木材で出来ており、表面は数十年の月日によって程よい光沢を放っている。そしてその木材と木材の間にはすりガラスが挟まれており、わずかではあるが玄関の内側を見せている。


 そんな扉を少年は強引に開け放った。


「今帰った!」


 決して大声ではない。しかし少年の声はまるで糸を伝うかのように鋭く、だか広く玄関から先の廊下を抜けて行った。


 数拍の沈黙、だがそれはすぐに慌てた足音と点けられた明かりによって打ち消された。


 一気に明るくなる廊下と玄関。暗闇からの反転で少年は瞳孔を細める。そしてその先、廊下の端から飛び出してきた影を捉えた。


「誰じゃ!」


 それはとても聞きなれた声であり、しかし半年ぶりの家族の声。少年はそのことで表情が緩みそうになるが、プライドでそれを阻止する。


 走り込んできたのは右手に木刀を持った初老。今年で70歳に突入するとは思えないほどの軽やかな足取りで廊下を走っている。着ている服装は浴衣であり、この初老“葛城(かつらぎ) (つよし)”のいつもの寝間着姿である。


「何者じゃ?」


 再度剛は右手に木刀を構えながら半身の構えを取りながら問いかける。その年齢からはとても感じ取れないほどの覇気を感じる。


「まあこの姿じゃわかりにくいよな」


 少し落胆の声と、目に見えて落ちる肩を訝しむような視線で眺める剛。しかし未だにその瞳には警戒の色が見える。


「その声、まさかおぬし叶斗(かなと)か?」


 視線が警戒から疑問の色に変わる。だが、それも仕方のない事。剛の記憶の中では背丈は一致している、そして顔立ちも確かに言われてみれば孫のそれだ。しかし決定的に違うのは真っ白に脱色された髪。そして漆黒に塗りつぶすかのようなコートと、色が違う右の瞳だ。


「おう、俺だ。今帰った」


 そして口調も違う。もし普通の友人だとここまで印象が変われば全くの別人だと言っても遜色なく、信じることだろう。しかしそこは生まれた時から面倒を見て、かつ稽古をつけてきた自分の孫だ。だから剛は何の根拠もなく、実感した。


「やっと帰って来たか」


 そう言い見せる瞳は安堵の表情と困惑の色が混ざり合うが暖かい瞳だった。


 そして次の言葉を紡ぐ前に剛の言葉を打ち消すように大声が轟く。


「お兄ちゃん!!!!」


 剛ですら反応が遅れるほどの速度で左の通路から現れた小さな塊は叶斗の腹部に着弾した。


「久しぶりだな、ユズ」


 叶斗の実妹である“葛城 柚葵”。今年で13歳であり、中学生であるにもかかわらず身長が145センチと小さく、また体も小さい。その為未だに家族からは小学生の扱いを受けているがそれはまた別の話だ。


「おかえりなさいっ!」


 己の顔を叶斗の腹部に埋めながら上げるくぐもった声は少し震えている。


「なんだユズ、泣いてるのか?」


 からかい半分で叶斗はそう問いかけた。しかし柚葵からの返事はなく、その代わりに抱き付いた両手がさらにきつく締まった。


 叶斗はそんな状況に苦笑いしながらも視線を祖父である剛へと向ける。いつの間にか剛の背後には無言で佇む父である“葛城(かつらぎ) (たける)”と目元に涙を浮かべた母の“美咲(みさき)”が立っていた。


「・・・ただいま、父さん母さん」


 叶斗の言葉は短く、だが家族にはそれだけで十分すぎた。


「うん、お帰りなさい」


その短い母親の声は叶斗の心に染みわたった。



「で、お前が消えた半年間のことを話してくれるかの?」


 感動の再開からゆうに30分が経過し、すでに時刻は2時を回っている。しかし葛城家の住人は誰一人として眠そうな顔をせず、居間に並んで座っている。


 全員が座る中、代表して口を開いたのは祖父の(つよし)。すでに還暦を越えた初老でもその威厳と迫力は未だに葛城家の大黒柱であり、家主でもある貫禄を見せている。


「そうだな、一つ一つ順を追って説明したいのは山々なんだが」


 そういう叶斗の表情は明るくない。


「その前に一応紹介しておいた方が説明が楽になる」


 そう言うと剛の目をしても追えないほどの速度で虚空(・・)からそれを取り出した。


 何処からともなく取り出されたのは長さ1.3メートルほどの刀。真っ黒な鞘に覆われ、その表面には赤黒い稲妻のような模様が走っている。


「なんじゃ、その見るからに毒々しい妖刀のような類は」


 開口一番祖父の声でその場にいた叶斗以外の全員がそれがただの刀でないと構える。


「うん、言葉で説明するより早い、紅華(べにか)


 その直後、刀が変化した。眩い光と、わずかな波動と共に刀があった場所に一人の少女がまるで先ほどからいたように鎮座していた。眩いほどの赤髪を腰より下まで伸ばし、妖艶な色気を醸し出す黒の着物を身に着け、見た目は10代の少女のそれである。白磁器のような透き通るほどの白い肌をさらし、潤いのある唇と蘭々と輝く瞳は頭髪の色と同じくルビーのようだ。


「なっ・・・」


 家族全員が絶句する中、その少女は輝かしいほどの笑顔を振りまきながら言い放つ。


「叶斗の伴侶である紅華と申す。以後、不束者だがよろしく頼む」


 この日二度目の驚きの声が葛城家から発されたのは言うまでもない。その筆頭は柚葵であり、また他のと違った反応であった事はこの際ふれないであげよう。




「で、説明してねお兄ちゃん」


 なぜか家長である祖父の剛を押しのけ、柚葵が叶斗の真正面に座る。そしてその目もなぜか座っているように見えるのは気のせいだろうか。


「説明するも何も、妾は叶斗の伴侶、つまり妻という事じゃ」


 その説明に頭を抱えたのは祖父と父の二人だった。


「うん?だから、せ・つ・め・いして?」


「か、叶斗よ。こやつえ、イレーネよりも恐ろしい、ぞ?」


 距離を縮めて再度問う柚葵の視線はとても冷たかった。


「まぁ、落ち着けユズ。今から説明するから」


 そう言い叶斗は説明を始めた。


 その後叶斗の口から紡がれたのはまるで物語のような話だった。


 叶斗が消息を絶ったその日。叶斗は普通通り学校へと向かっていた。妹の柚葵とは学校の方向が違うため、通学路は同じではない。その為一人での登校だ。


 いつもと変わらないそんな日常がふとした瞬間に変化した。叶斗の記憶にあるのは踏んだ瞬間に光る足元とその光を象っていた魔法陣のような模様だ。


 そして気づくとそこは見たこともないような異世界だった。


 降り立ったのはある城。そして叶斗を召還したのは魔物たちだった。


 通常であれば異世界が危機に瀕して行われる勇者召還。そのようなまるで創作物のようなことは無く、勇者ではない魔王として召還されていたのだ。


 魔王という職業と複数の固有スキルを駆使し、その世界をたった4か月で平定し、こちらの世界に戻って来たらしい。もちろん向こうの世界の住人に送り返してもらったのだが、彼らが送り返すことをそう簡単に納得してくれたわけではなかったため、合計6か月以上もの月日がかかってしまったらしい。


 そしてその異世界の旅の途中で迷宮(ダンジョン)みたいなところに潜り、当時は無名の妖刀とであい、“紅華”と名付けたこと。その後ほかの魔王を倒す過程で力を使い果たしたために白髪になったり、力を得るために右目を魔眼と交換したなど細かなことも語られた。


 間誰一人として口を挟まず、また気が利いた母がお茶とお菓子を持ってきたり、長い話は空が明るくなるまで続いた。



「空が白んできたのう」


 そう言うのは話の途中で飽きたのか、眠くなったのか叶斗の膝枕でゴロゴロとしていた紅華だった。動くたびに裾が短い着物がめくれ上がり祖父や父の視線が向きそうになるのを母が無言の眼圧で制した面白い場面もあったが、無事話は終わっていた。


「お前の話は少々信じられないものあった。しかし、目の前に証拠がいる以上信じぬわけにもいかんじゃろう」


 まとめた剛は一度大きなため息を吐く。


「それで今後はどうするのじゃ?」


 それはどのように今後を生きてゆくのか、という問い。


「それは・・」


 そのとき叶斗の言葉をまるで遮るように家の中にチャイムの音が響き渡った。


 すぐに無言で母の美咲が立ち上がり、玄関に設置されているモニターに移動する。


 時刻はすでに5時半を回っており、日の光は見えないが外は明るくなっている。しかしこんな早朝の訪問者とは通常ならばいただけない。いくら道場が朝6時から開いて、朝稽古を始めるからと言ってもこの時間ではまだ門下生も来ることは無いのだ。それに門下生であればチャイムを鳴らさず、通用門から入ってくる。そのためチャイムを鳴らしたのは紛れもない訪問客であるという事。


 そしてその疑問はすぐに晴れることになる。


「えっと・・」


 困惑した表情の美咲が居間に戻ってくる。そして後ろには見慣れない男女が二人。それぞれが黒のスーツをきちんと着こなしている。


「叶斗に用事があるらしいのだけど・・・」


 その表情は困惑と言って差し控えなく、また背後の男の方からは多少なりとも威圧感を感じずにはいられなかった。それは叶斗だけではなく武術を嗜む居間に残っていた葛城家全員と、そしていつの間にか起き上っていた紅華が証明していた。


 そして全員を視線に入れる位置まで来ると女性の方が前に出た。


「初めまして。勇者召還管理機構から参りました、畑中(はたなか) (かおり)と申します」


 これが訪問者の正体だった。


さて、この先どうしよう。すでに詰まっているよー


20日の午後までには何とか更新する予定なので、頑張ります

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