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第一話「妖精樹林」

アーク大陸 夢幻山脈を中心とし、東にエイレーネ西にエレボスとある。


妖精樹林 エイレーネ地方の北西に分布されている大きな樹林。妖精が棲んでいる。


リン・シューリンギア 妖精樹林に住んでいる魔女の少女。澱みの研究をしており、他の魔女よりも比較的妖精達と友好的な関係を築いている特殊な人物


リーシャ エルフの少女。風の魔法を得意とする。


アズレ・バーム ドイツ語で蒼い樹を意味する葉が蒼い樹。水分や栄養を魔力に変換することによって、葉が蒼くなっているのが特徴的。


アズレ・ワルド アズレ・バームが樹林となっている地帯を指す。地方の魔力を供給できるほどのものになっている。


澱み 暗き闇の魔力が籠もった魔力物質。形状は砂に近いものであるが、触れた同時に身体へと浸透していき、対象を闇の存在にしてしまう。妖精達は忌み嫌い、澱みに触れてしまった妖精は妖精樹林の奥に追放されてしまう。


 目を閉じると彼等の声が聴こえてくる…。何かを楽しむように、何かを祝うように、地面をタッタッタッタと駆ける華奢な足は追いかけっこをしているのだろうか。軽やかに撫でる羽根は光の鱗粉を皆に振りまいてくれているのだろうか。はて?何故こうも外からの反応に対して機敏に反応をしている?…外?ここは内であって、彼等は外に居る。定義は成り立っている。いやしかし、彼等を視認することが出来ていない、故に聴覚で認めたのだ。小さな足であろう…これは妖精のピクシーか?ピクシーの特徴としては悪戯好きであり、季節の訪れと共にフェアリーサークルを作りそれぞれの歌を歌い始める。あぁ…綺麗な歌声が頭の中をたゆたっている。彼等の輪で私も歌いたい。あぁ…どうしてこちらを見ると引きつったような顔をするの?何がおかしい、何が醜い、何がそうも嫌悪感をもたらす。

 あぁ…そうか。そうだった。私は知ってしまった。彼等が見えているものは…私自身ではなく、私の総称。


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 『魔女』であるからだ。


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 妖精樹林と呼ばれるエイレーネ地方に分布される大きな森。エイレーネ地方を象徴する王国、セントエイレーネでは小鳥がさえずるが、この樹林では小鳥ではなく小さな人が朝の訪れを告げていく。極めて珍しい現象ではあるが、この樹林を訪れた旅人は不気味さを語っていた。踏み慣らされた道を歩くと、木々の茂りに混じり女の子の声が聴こえ、どこにいるかもわからないのに近くで囁かれているようで素早くその場を後にした、という。

 「あっさ~!あっさ~!」

 「お日様おはよ~!」

 樹林にも朝が訪れ、活気のいい妖精達の声が聴こえる。フェアリーサークルを作り、朝の訪れにダンスを披露している。地面でステップを踏み、綺麗な羽根を陽光に照らして眩い光を周囲にばら撒く。妖精が見えるのは魔力を持った人間、魔力によって生まれた命が視認することができる。

 「皆おはよう。」

 「あっ!エルフのお姉ちゃん!」

 そこに現れたのは新緑の生地を羽織っただけの少女であった。妖精の中でも有名なエルフは悪戯好きなピクシーとは違って常識人でもあり、外界とも顔が通っている。特徴的なのは耳がつり上がっていることと手先が器用なことである。弓の達人ともいわれる所以は手先の器用さからもきているのかもしれない。

 「昨日の夜は雨だったから草木から雨露を採取したいのだけれど、ピクシー達も手伝ってくれる?お礼に朝露のシロップをあげるから。」

 「わーい!手伝うー!」

 これが言うなれば、人でいう日常の会話ともいえる。ピクシーは季節問わずに歌い、エルフは限りない資源を採取して生活を養っている。妖精には妖精の生活というものがあるが、この森には例外がいる。妖精という種族ではなく人間も少なからずいた。

 「リン、ほら雨露を採取するって約束してたでしょ?」

 「あ~、うん。ちょっと待っててね。」

 エルフとピクシー達が訪れたのは巨大な樹木であった。一年中蒼い葉を茂らせる樹木はアズレ・バームと呼ばれ、地面から吸収した水分や栄養を魔力に変換する特殊な樹木であり、アズレ・バームがある樹林をアズレ・ワルドとも呼ばれ、魔力の供給源ともされている。樹木の入り口から姿を現したのは耳が長くはない人間であった。名をリンと呼ばれている。

 「ごめんね、待たせちゃって。」

 「また魔法の研究?いくらアズレ・バームに住んでるからって徹夜で研究するのは身体に堪えるよ?人間なんだから。」

 「てへへ…。ついつい、ね。」

 「はぁ…呆れた。でも、ちゃんと睡眠は摂らないと。雨露から温かい飲み物作ってあげるから、ほらいこう。」

 「うん!リーシャは優しいなぁ♪」

 リーシャと呼ばれたエルフは深いため息を吐きながらも雨露が採れる場所へと向かう。


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 「天におわします神より賜ります恵みに感謝を。」

 「感謝ー!」

 「感謝します!」

 雨露は単に草に付着している露を採取するといった過酷なものではなく、草木から垂れた雨露がある一点の溜池に溜められる。採取というのは雨露であってもそのまま飲むにはあまりにも危険であるためある程度の魔力による施しが必要である。

 「迸る潤沢な雨露に蔓延る邪を祓い給え!エアロビジョン!」

 リーシャの掌に集約する風は蛍の輝きを灯し、溜池の上へと放たれると弾け、溜池の周りを蛍のような光が漂い始める。

 「さぁ、雨露を採りましょうか。くれぐれも水遊びはしないように、ね?」

 「はーい。」

 小さな木桶を担ぐピクシー達は溜池を飛び跳ね、それぞれのやり方で汲んでいく。リーシャは手で掬いながら木桶へと汲んでいく。

 「いつも思うけど、リーシャは慎重だね。」

 「そりゃそうよ。溜池の底には澱みがあるんだから。」

 澱み、妖精達が最も恐れている魔力の一部である。澱みに触れてしまった妖精は異端と唱えられ、樹林の奥へと追放される。リーシャが始めに行った魔法は雨露に澱みが混じらないようにするためのものである。

 「ふとした拍子に澱みなんか掬っちゃったら木桶もダメになっちゃうんだから。…でも、リンは大丈夫だもんね。」

 「うん、人間だからね。」

 そういうと豪快に掬う。澱みが掬われていないのはわかっているつもりであるが、大胆な振舞いには毎度溜息を洩らすリーシャ。

 「あ、あと魔法解いておいてね。澱みも掬わなきゃ。」

 「そうだったね。じゃあ、ピクシーが汲み終わる時に解こうかしら。」

 

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 ピクシー達が汲み終わると同時にリーシャとピクシー達は距離を保つ。

 「魔法を解くよ?」

 「うん、よろしく。」

 リーシャが魔法を解くと、普段と変わらない溜池になるが、溜池の底を覗けば暗闇が広がっているのがわかる。リンが構える。

 「深淵に侍る澱みよ、我の手元へと掬われ給え!アビソープション!」

 リンの手にはガラス製のビンがあり、魔法はビンの中で発動した。すると、魔法陣が展開され、溜池の奥底から引きずり出された澱みが渦を巻いてビンへと吸い込まれていく。ある程度溜まると魔法陣は解除され、ビンの中には黒い液体が満たされた。

 「研究だからといってそこら中にまき散らさないでね?」

 「わかってるよ。要らなくなったらアズレ・バームに吸収させるだけだからね。」

 コルクで栓詰めし、懐へとしまい、リーシャへと歩みを進める。

 「途中で落とさないでよ?」

 「もぅ心配性なんだからぁ。でも、そこが好きなんだけどね♪」

 「か、からかわないの!ほら、帰るよ!」

 「あいあいさー♪」

 それから彼女たちは他愛のない話を交わしながら帰路へと付いて行く。溜池の澱みは流水に揺蕩いながら底へとゆっくりと沈んでいく。誰を待つとも知らず、砂と同化し本来在るべき状態へと戻っていった。

 

 第一話を読んで下さりありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。

 さて、新しいお話へと変わりましたが、まだ前回のお話を読んでいないという方は『神に選ばれた者達のお話』を読んで見てください。

 今回のお話はリン・シューリンギアを主人公とした物語です。舞台はエイレーネ地方にある妖精樹林という場所です。前書きにも書いてあるように、澱みという魔力を研究しているのが彼女であり、忌み嫌われる魔女という立場であります。これから訪れる運命にどう立ち向かっていくのか?

 では、次回のお話でお会いしましょう。

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