第十三話 討ち漏らし
主人公のマイケルは捕えられてしまいましたが、オリンポス社にはやすやすと捕まる者ばかりではありません。
同じく研究員でより生きるのに積極的な、サブヒロインの反撃が始まります。
崩れた缶詰を蹴飛ばして、エレンは額の汗を拭った。
(どうにか、切り抜けたみたいね)
周りには、体中を穴だらけにした店員や警備員が10人近く横たわっている。
少し前、エレンたちは突然店の者たちの奇襲を受けた。
いや、エレンたちは襲われる前から囲まれたのに気付いて警戒していたので、奇襲が成功したとは言い難い。
しかし、とにかくエレンたちはたった4人で、店の者10人を相手に戦った。
エレンは初めから、何かあることを想定してたくましい男3人と行動していた。
それでも店の者の中には明らかに普通の店員や警備員と思えぬ腕の持ち主がいて、エレンたちは苦戦を強いられた。
最後は、エレンの女の武器で勝負がついた。
味方の一人が倒れた時、エレンは露出したビキニの胸の留め金を外した。
その瞬間、敵の多くはエレンのたわわな胸に釘付けになり、銃撃が止んだ。
そのスキをついて、エレンたちは敵を蜂の巣にして一掃した。
女の色香とは、時にそのくらい威力があるのだ。
不幸にして致命傷を負ってしまったエレンの愛人も、それを見たら笑って許してくれた。
「あーあ、本当におめえは運命の女神だなあ。
まあ、いいや……最後にいいもん見れたしな。
ついでに、このままおめえのいいもん見たまま頭をブチ抜いてくれや。でないと、そのうちおめえの胸に噛み付いちまうぜ」
「そうね、さようなら」
エレンはその男に膝枕をしたまま、口に銃を突っ込んで引き金を引いた。
非情なようだが、これはやらなければならない。
エレンたちは知っている。
今や太陽の光を浴びた者は、全員が体内に異常細胞を持っている。つまり、頭が無事なまま死ねば、誰でも食人鬼……ゾンビになり得る。
エレンは安らかに眠った愛人のために、静かに十字を切った。
「さてと、これからどうする?」
エレンが一人を送り終えると、同じく愛人で仲間のマックスが言った。
「奴らはおそらくここだけじゃない、他の仲間もきっと襲われてる。
ここだって、じきに援軍が来るぞ」
「そうね、一時どこかに身を潜めた方が良さそうだわ」
エレンはそう答えて、死んだ仲間が身に着けていた弾薬をはぎ取り始めた。
少し離れたところで、もう一人の仲間であるボブが敵の死体を見下ろしてぼやいた。
「なあ、こいつらも頭をブチ抜いた方が良くないか?
死んでる奴も生きてる奴も、このまま放っといたら確実にまた起き上がるぞ。これ以上敵を増やす訳には……」
「いいわね、それ!」
とたんに、エレンの目が何かを思いついたように光った。
エレンは男二人を手招きして呼び寄せると、息がかかるくらい耳に口を寄せてささやいた。
「こいつら、このまま放置して味方を襲ってもらいましょう。
その方が、賢い敵を減らせるわ。
こいつら、たぶんゾンビは噛まれて感染するものだと思ってる。だったら、噛まれていない死体には無防備なはずよ!」
その恐怖の作戦に、男たちは思わず感嘆の息を漏らした。
エレンはゾンビを利用して、敵の力を削ごうと言っているのだ。
エレンたちもこのショッピングセンターの役割は店員から聞いている。
感染者をカナダに入れないための集蛾灯……つまり、店員たちはゾンビに噛まれて感染した者のみがゾンビになると思っているのだ。
だが、実際はゾンビになるのに噛まれたかどうかは関係ない。
それを知っているのはおそらく、オリンポス社の社員のみだ。
その点で、オリンポス社の社員は一枚上手だ。
たとえ地の利が敵にあっても、味方が分断されていても、ゾンビを発生させて知識も勝負の要素に加えればまだ勝機はある。
「やれやれ、残酷な女神さんだな」
男たちはこっそりとぼやきながら、エレンとともにその場から立ち去った。
「遅かった、みんなやられている!!」
苦戦を聞いてかけつけた店の者たちは、目の前の光景に唖然とした。
奇襲をかけた10人の味方は、皆体中穴だらけにして床に伏している。
敵の死体は、一人しか見当たらない。
「ちくしょう、まだ遠くには行ってないはずだ!」
「待って」
血気にはやって走り出そうとした男を、若い女が止めた。
「危険だわ、ここで味方の応援を待ちましょう。
隊長も言っていたけど、隊長と同じくらいの腕を持つこっちの隊長を含めて10人でも負けるような相手なのよ、私たちだけで敵う訳がない。
それに……彼らをこのままにしておけない」
若い女は悲しげに、足元の仲間たちに目を落とした。
仲間たちの多くはすでに動かない、おそらく死んでいる。
しかし、よく見ると3人ほど、まだ胸が動いている者がいる。ひどく撃たれてはいるが、急所を外れているのだ。
助かるかは分からない、しかしできることなら助けたい。
若い女は腰のポーチから包帯を取り出し、どうにか生きている者たちの手当てを始めた。
無線で連絡をとっていた男が、悔しそうに顔をしかめる。
「あいつら、この近辺の監視カメラをほとんど壊していきやがった。
おかげで、おれたちの姿が監視室から見えないんだと。
応援は一応求めてみたが、今はみんな捕まえた社員どもを一ヶ所に集めてる最中だ。手が空いたら来るらしいが、時間はかかりそうだな」
「じゃ、やっぱり待つしかないわね」
かすかに息をしている仲間に気休めのような包帯を巻きながら、若い女はため息をついた。
(やっぱり、戦いはプロに任せるべきだったのかも……)
彼女は切実にそう思っていた。
元々、彼女はこのショッピングセンターで働いていた店員である。
命を落として周りに散らばっている者も、大多数は彼女と同じだ。
だから、彼女は仲間の死が悲しくてたまらなかった。
だから、死んだと思っていた仲間が動いた時、彼女は大喜びで駆け寄ってしまったのだ。




