公爵令嬢殺人事件 ~解決編~
短いので、気楽にお読みください。
「――以上の証拠から、アクデス・アーク公爵令嬢を殺害した犯人は……キャサリン・ロッテルア男爵令嬢……貴女と言うことになります」
エドガー・ランボー侯爵子息が城のパーティホールで宣言した途端、キャサリンを取り巻いていた者たちが、一斉に彼女から距離を取った。
少しして、取り巻きの中の一人であるカートン・レイルス第二王子が、キャサリンに詰め寄った。
「キャサリン! なぜ君が、アクデス嬢を殺す必要があったんだ!? 一体どうして!?」
「許せなかったの……アクデスが、私の愛するカートン様と婚約を結んでいたのが……許せなかったのよ!」
カートンはキャサリンの、心からの叫びを聞いて目を見開いた。
そして、ゆっくりと言葉を紡ぐように、独り言のように呟いた。
「キャサリン……何を、言っているんだ? 私は、アクデス嬢とは、婚約など結んでいなかったぞ?」
キャサリンはそれを聞くと、口を半開きにして呆然とした。
そして、彼女は目尻に涙を浮かべ、口を手で覆ってゆっくりと俯く。
「う、嘘……嘘でしょう……ねぇ……? そ、そんな展開、このゲームのシナリオでは……なかったはずなのに……?」
エドガーはキャサリンに、無情な言葉を突きつける。
「殿下のお言葉は、事実です。嘘をついていたのは、アクデス公爵令嬢だったのですよ……」
「そ、そんな……じゃあ、私は……? この世界は…………」
崩れ落ちてからも呟き続けるキャサリンを、誰もが遠巻きに見つめる。
その眼に宿るのは哀れみの感情だろうか。それとも、奇妙なものを見る好奇の感情だろうか。
いずれにしても、彼女の手を取る者は誰もいない。
やがて、彼女がすすり泣く声をBGMにして、城の兵士たちがやってくる。
「その女を……連れていけ……」
カートンの力ない声が、兵士たちの耳朶を叩く。
キャサリンは顔中を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして、ときおり嗚咽を漏らしながら、兵士たちに連行されていった。
「キャサリン……どうして……どうしてなんだ……」
カートンだけではない。
彼を始めとした彼女の取り巻きだった者たちは皆、肩を落として声を殺し、そして彼女と同じように泣いていた。
エドガーはそんな辛気臭い場所からバルコニーに出る。
空は酷く曇っていて、今にも雨が降り出しそうだ。
「今日も、事件は解決した。だが……僕は、僕は無力だ……。残された人たちの悲しみを和らげることすらできないのだから……」
エドガーは空を見上げる。
やがて、彼の顔に一粒の雨が落ちてきた。
降ってくる雨粒は徐々に増え、地面を激しく叩きつける。
エドガーは首を弱々しく振り、目元を拭い、ホールに戻っていった。
この雨はしばらく降り続き、国土を等しく濡らすこととなるだろう。
だが、雨はいつまでも降り続けるものではない。
いずれまた、雲が晴れ、温かい太陽がこの地を照らしてくれる日がやってくる。
皆はその日がやってくるのを信じ、今日の雨をやり過ごすのだ。
だが、エドガーは知っている。
この地が晴れている時には、別の地にて雨が降っていることを……。
悲しい事件でしたね……。