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黒板消しトラップ編

お久しぶりです



 がちゃ


 ぼすん


「へっ!?」


 何気無く部室の扉を開けて入室した僕は、直後柔らかい物体に襲われた。


 なんだなんだ。


 後ろを振り向けば、


「ぬい、ぐるみ?」


 国民的RPGに登場する雑魚キャラ、愛すべき玉葱状の青いアイツが、つぶらな瞳でこちらを見詰めて居た。


 僕を襲ったのは、お前か。


「はいはい、ドアで立ち止まってないでさっさと入ってー」


 思わず呆然と青いアイツを見詰めて立ち尽くした僕を、部室に居たらしい先輩が部室内へと追い立てた。


 わしっとぬいぐるみを掴むと扉を閉め、椅子に登って何やら扉上に作られた装置に青いアイツを乗せる。


 …やっぱり、このひとの仕業か。いや、わかってたけどさ。


「なんなんですか、一体」


 痛くはないけれど何と無く頭をさすりながら、先輩に尋ねる。


 ぬいぐるみを設置して戻って来た先輩が言う。


「んー…、実験?」

「何の」

「黒板消しトラップの」


 相変わらず、何やってんだ、このひとは。


 呆れて言葉を失う僕を気にした様子も無く、先輩は語り出した。


「肝試しの蒟蒻並みに古典的な悪戯だけど、実際引っ掛かるの?みたいな意見結構あるでしょう。漫画や小説とかでも、扉の空き具合が不自然でばれたり、対象の目の前に黒板消しが落ちちゃったりで。だから、本当に引っ掛かんないものなのか、実験してみてる」


 謎の装置を指差す先輩。


「引き戸なら多少開いてても不自然じゃないけど、流石に開き戸が開いてたら疑われそうだから、ちょっと工夫してるけど、今の所みんな引っ掛かってくれてるね」

「…色んな人を引っ掛けてるんですか」

「試験の過去問コピっといたから取りにおいでってね」


 先輩が指差す長机の上には、確かに試験問題らしいプリントが置いてあった。


「…取り敢えず、本気で黒板消し置かないだけの常識が先輩にあって良かったです」

「黒板消しは、持ち出すと備品の窃盗になるからね。部室のホワイトボードは、クリーナーじゃなく雑巾で消してるし」

「理由そっち!?」


 被害者への配慮じゃなく、手に入らないからなのかよ!?


「あと、こんな狭い室内でチョークの粉散乱させたらわたしにもダメージあるし」

「あくまで利己的理由…!」

「万一サークル見学希望だったら、心象が絶望的になるしね」

「そこの配慮してくれただけで、感謝しときますよもう…」


 ぬいぐるみなら、身体的にも精神的にもダメージが少ない。服も汚さないし。


「うん。同じ理由でバケツも却下したからね」


 先輩がちらりと、部室の隅にある金属製のバケツに視線を投げた。


 待て待て待て待て!!


「それはガチで危険だから絶対やめて下さいね!?」

「うん。バケツは流石に危ないよね。怪我させたら駄目だし」

「−っ!」


 何だろう。先輩が極々当たり前の一般常識を口にした事に凄まじく感動してしまって、それが凄く敗北感を抱かせる。


 このひと、全く以て感動すべき事なんて言ってないからな!?


 …気を、取り直そう。


「…古典的でも、引っ掛かるものなんですね」

「まあ、メディアの影響でなく有名なら、或程度効果的でメジャーな悪戯だったのだろうからね。詳しく調べた訳じゃないから、もしかしたら卓袱台返しみたいに有名になる切欠があったのかも知れないけど」

「うっおぅいぇー!?」


 突然響き渡る奇声と視界に飛び込む青色の物体。


「…珍しく目立つ登場だな高橋」

「あっ、おー。つーか何、何なのー」


 右腕をフルスイングした状態で固まった高橋が、扉の所に立って居た。


 落ちて来たぬいぐるみを、咄嗟にぶん殴って避けたらしい。


「ナイス回避」

「あっ、どーもー」


 こちらも珍しくちょっと驚いた顔をした先輩が、ぬいぐるみを拾いつつ言った。


 ぺこっと会釈して、部室に入って来る高橋。


「今日は黒板消しトラップですかー?」


 再度ぬいぐるみを設置する先輩に尋ねる。


 何で直ぐにその結論に至るんだ。エスパーか。


「うん。ぶん殴ったのは初めてだなー」


 戻って来た先輩が高橋の頭をどこからか取り出した二匹目の青いアイツでぽふぽふと叩いて居る。


 ちょっと悔しかったらしい。


「いや、あのー、なんか…すんません」

「何で謝るのー?わたし別に怒ってないよー?」


 ぽふぽふぽふぼふ


 いや、怒ってるだろ。


「つーか、黒板消しトラップ成功させるって流石ですねー。俺、小学校の時やったけど失敗しましたよー。人が入るより先に黒板消しが落ちちゃってー」

「ああ、そうなんだ。うーん。やっぱり現実的じゃないのかな」


 先輩が首を傾げて考え込む。


「え、でも成功してるんですよね?僕も当たったし」

「ヴルゥトゥース、お前もかー」


 やたら力強く巻き舌まで入れて言う高橋。


「煩い高橋。僕の時は、ちゃんと頭に当たりましたよね?」


 頭に当たって、後ろに落ちた。


「うん。入室者の頭上に落ちる様に、調整してあるからね」

「あ、」

「扉に挟むだけの黒板消しトラップと、同じとは言えないんだよ」


 むー。と考え込む先輩を横目に、扉を眺める。確かに扉に挟むだけよりは工夫されているが、そこまで凝った仕掛けと言うわけでもない。


 だが、扉に挟んだだけのものと違うのは明らかだ。


東雲しののめは自分ではやった事ないけど、やってるの見た時は普通に挟んだんじゃ当たらないから、ベーゴマの紐でバンドを括って吊してたって。やっぱりそうじゃないと無理なのかなー」


 前に見た東雲さんの真面目そうな顔を思い出して、もの悲しい気持ちになる。

 眉目秀麗イケメン頭脳明晰エリートな常識人なのに、研究室が被ったばっかりに先輩なんかに絡まれて、哀れな…。なまじっか面倒見が良いから、無駄話でも突き放したり出来なかったんだろうな。


「それぞれ各自で色々工夫してたんじゃないですかねー。確か、ドラマになった漫画でそう言うシーンがあって、それで流行ったって話ありましたしー」

「あー、なんだやっぱり有名になる切欠があったんだー」


 高橋の指摘に少し残念そうな先輩。


「そっかあ。メディア発かあ…」


 ならそれで結論かなぁと呟いて、どうやらトラップを回収するらしく扉に近付く。

 メディア発と言うことで、興味が失せた様だ。


 その時、


 がちゃ


 ぼすん


 かちゃん


「うわ、なんだ?」


 開いた扉の先に居た人物が顔面に青いアイツの襲撃を受けた。

 衝撃で掛けて居た眼鏡が落ちる。


「あ、東雲…」

「ん?お前か。一体何を、」

「あー、動くと、」


 ばき


 眼鏡を探そうと一歩踏み出した東雲さんの足が、眼鏡を踏み割る。


「あー…(´・ω・`)」

「( ´・ω・`)」

「( ´・ω・`)」


 先輩がやっちまったと言う顔で呟き、ふたり分の無言の視線が先輩に向かう。


「…ごめん東雲…弁償するから」


 額を押さえた先輩が、低い声で言った。


 東雲さん=不憫。僕の中で、哀しい方程式が完成した瞬間だった。


 悪戯は物的被害が出ない様、細心の注意を払って。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


作者は仕掛けられて引っ掛からなかった経験しか無い黒板消しトラップ

なにか経験おありの方は教えて欲しいです!

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