ひよこ編
お久し振りです
短いです
部室に入ると先輩がお皿にひよこを並べて居た。
生きてる方じゃなく、銘菓の方の。
「どうしたんですか、其」
「あ、おはよう?貰った」
「お早うございます。…午後ですけど。誰かのお土産ですか?」
結構な数だ。全部ひとりで食べるつもりだろうか。
お皿の横に箱と包み紙が散乱して居た。包み紙をまとめてごみ箱に投入しながら、先輩が首を振る。
「んーん。生まれなかった日のお祝いに、兄ぃが送って来た」
「え、三六五日毎日贈り物されるんですか?」
「いや、月イチで、毎月二九日に。わたし、二月二九日生まれだから」
先輩、閏年生まれなのか。生まれた日が四年に一度。だから生まれなかった日を代わりに祝ってるのかな。
…四年に一度しか精神年齢が上がってないとか、無いよな?
「食べる?」
「え、でも、折角のお祝いなんですから…」
「否、十六箱一気に貰ったからね。一個二個あげても…と言うかもう誰かに箱で譲りたい」
先輩の兄だ。間違い無い。
「じゃあ、貰います。頂きます」
頷いてお皿のひよこに手を伸ばす。
「あ、」
「え?」
箱に残って居た未開封のひよこを手に取った先輩が目を見開く。
僕の摘んだひよこが、有り得ない強度を見せ、ぺしゃりと潰れた。異様に脆く、不自然に軽い。
「え、中身は…?」
驚いてひっくり返したひよこには、中身が無かった。
底の部分の皮が剥ぎ取られ、中がぽっかり空洞になって居る。
…なんか、誤魔化しの語源思い出した。
「そっちはわたしの食べかけだよ。流石に個包装のお菓子わざわざ開けて並べて他人に食べさせたりしないって」
先輩が僕の手から潰れたひよこ(皮)を取り、引き換えに未開封のひよこを乗せる。ついでに二個三個と僕の前に並べた。
其の儘ひよこ(皮)をもしゃもしゃと食べ、マグカップの牛乳を飲む先輩。準備万端だな。
「あ、牛乳欲しかったら冷蔵庫にまだあるから」
「否あの、なんで中身無いんですか」
「ひよこで好きなパーツが皮だから、いっぱいあるなら先に全部中身抜いとこうかと」
否、其処はおとなしく皮と中身のハーモニーを味わえよ。きのこの○のチョコだけ先に食べるひとかよ。
て言うか。
引っ掛けようと画策された悪戯なら兎も角、そんなつもり全く無いのに誰も意図せず悪戯に引っ掛かったみたいな状況になるって、とてつもなくいたたまれない。誰かの仕掛けた悪戯なら恥ずかしさを怒りに変えてぶつけられるのに、誰にも怒りをぶつけられず恥ずかしさだけを貯め込まなきゃならないこのやるせなさ…!!
「そんな綺麗に皮だけになるものなんですか」
「なるよー」
言って先輩が実演してくれる。
ひよこの側面を少し押すと側面と底の境目にひびが入るので、其処から底を剥がす。剥がして中身が露出したお腹を下にして、ぽんと手の上に軽くぶつけると綺麗に中身だけ出て来た。
「ね」
「…そうですね」
凄く、無駄な知識だ。ひよこを普通に食べるなら、人生で全く役に立たない技術。
先輩はもそもそと中身を食べて居る。本当に、中身は好きじゃないみたいだ。
つまり今回先輩は、全く悪気が無かった訳で。
やるせない。先輩と一緒に居る所為で僕、コメディ体質になって来てるんじゃないか…?
やり場の無い怒りの八つ当たりに、僕は無意味に荒々しくひよこの頭を噛み千切った。お前さえ、お前さえ居なければ…!!
拙いお話をお読み頂きありがとうございました
ひよこは先輩と同じで中身を先に食べる派です
人前でやるとドン引かれます