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檸檬爆弾編

檸檬爆弾は浪漫だと思うんです

 

 

 

「檸檬爆弾だよ!」


 唐突に先輩が叫んだ。


「は?」


 僕の反応は、至って常識的なものだったと思う。

 間違っても、今目の前で先輩がして居る様な、『え?コイツ何言ってんの?』的な顔をされる謂われは無いはずだ。と言うか、寧ろ僕が問いたい位なんだが。


 何を言って居るんだ、このひとは?


 何だろう。嫌な予感しかしない。



 良く晴れた日だった。

 本当に、本当に穏やかな、とても平和な日だと言うのに。


 どうして僕は、こんなに、嫌な予感に苛まれなければならないのだろうか。


 まず、この部室に来たのが間違いだったのか?


 ああ、いくらバイトが無いからってこんな所になんか来ないで、大人しく家に帰って居れば良かった。



「だから、檸檬爆弾だって」


 先輩は、僕が理解しないのがおかしいと言いたげな表情で繰り返した。


 …断じて、僕がおかしい訳じゃない。

 おかしいのは、目の前に居るすっとこどっこいだ。


「…檸檬爆弾って、高校の教科書でも読み返したんですか?」


 確かそんな感じの小説があっただろう。

 僕を教えた国語教師はその小説を華麗にスルーしたから、詳しい内容は知らないけど、檸檬爆弾が出て来る話。


「違うけど?」

「違うんですか」

「まあ、発想の切欠ではあるけど」


 先輩は手の中の檸檬を見詰めて微笑んだ。


「盲点だよね。確かに言われて見れば爆弾に見えなくもない。形的にも、手榴弾に似て居るし」


 …何でこのひとは檸檬を持って居るんだ?


「わたしのバイト先、とんかつ屋だったでしょう?」

「ですね」

「潰れたんだよね」

「へー」

「で、檸檬の在庫がやたら余った訳だ」

「そーなんですか」


 自動相槌マシンとなりながら、ふと、先輩の後ろに見慣れぬ物体がある事に気付く。

 …大量の箱。なんだアレ。


「と言う訳で、此処に八箱の檸檬があります」

「はぁ!?」

「買い取った」

「買い取ったぁ!?」


 何やってんだこのひとは。


「定価総額八万円の所、なんと半額の四万円」


 何やってんだこのひとは!!


 四万って、四万って、余裕で一ヶ月の食費じゃねぇか!!


「どーすんですかその檸檬。つか、何個あんの?」

「一箱150個。全部で1200個だね」

「どーすんですかその檸檬」

「だから、檸檬爆弾」

「どーすんですかその檸檬」


 先輩が、くいっと首を傾げて言葉を止めた。


 …流石に三連続で同じ質問は怒られるか?


「檸檬は1200個ある訳だ」

「はぁ」

「ウチの大講堂の収容人数は?」

「知りませんよそんな事」

「1195人だよ」


 何でこのひとはそんな事を知ってるんだ。


 って、


「大講堂と檸檬に何か関係が?」

「檸檬は1200個。大講堂の椅子は1195脚。一脚一個檸檬を置けるだけの在庫が、今ここにある訳だ」

「…どーすんですかその檸檬」


 嫌な予感しかしない。


「ふふ。檸檬爆弾は設置しないとね」

「大講堂の椅子に?」

「大講堂の椅子に」

「無理でしょう」


 大講堂の椅子は映画館で良くある収納タイプの椅子だ。映画館と違って木製だけど。

 或程度の重さのものを乗せないと、ひとりでに閉じてしまう。


「檸檬の重さじゃ椅子を開いて居られない」

「ふん。そこは抜かり無いよ」


 先輩が薄い胸を張った。


「ここに、大量の瞬間接着剤がある」

「…」


 見覚えの無い箱が二種類の上に八箱より多いと思ったら…!


「一脚接着に10g必要と仮定して必要総量は11950g。50g入り20本一箱だから必要量は十二箱。一箱一万五千円×十二箱で、しめて十八万円也」

「あんた馬鹿だろ」

「それ程でも」

「褒めてねぇよ!!」


 心の底から呆れてんだよ!!


「つか、大講堂普段施錠されてるでしょう。どうやって入るんですか」

「ここに鍵がある」

「何でだよ!?」

「作ったから」

「は?」

「前に大講堂使った時に、ちゃちゃっと合い鍵を、ね」

「犯罪だ馬鹿野郎…!」


 何やってんだこのひとは!!


「否、わたし野郎じゃないし。女だし」


 そこは主張するのかよ…!


「鍵開いても、セキュリティとかあるでしょう」

「世の中には、ハッキングと言うものがあってだね」

「あんたのそれはハッキングじゃなくクラッキングって言うんだよ!!犯罪だこのイカレポンチが!!」

「お、詳しいね。でも、イカレポンチは男性を指す罵倒言葉でわたしに使うには相応しくないな」

「どーでも良いよそんなもん…!」


 真剣に、真剣に呆れ果てて頭痛がして来た。誰か目の前の女を止めてくれ…!!


 額を押さえてうなだれる僕に、先輩は優しげな顔で話かけてきた。


「心配しなくても君一人でやらせたりしないよ。わたしも居るし、同好の士は十二分に募ってある。セキュリティ対策も済んだし、檸檬の賞味期限もまだ大丈夫。今夜決行する準備は万端だよ」


 僕も参加するのは決定事項なんですか…?


 ぽん、と、いつから居たのか高橋が僕の肩を叩いた。


「諦めろ。此処で遭ったが運の尽きだ」




 草木も眠るけれど大学生はぼちぼち起きてる丑三つ時。

 僕たちは、大講堂裏手の非常口前に集まって居た。

 手に手に檸檬と瞬間接着剤を持った人数は、僕を除いて十五人。


 …こんな馬鹿やる大学生がこの大学だけで十五人、クラッキング班も合わせればもっとか、も居るのかと思うと、日本の未来が不安になって来た。


 先輩が、声を潜めてスマホで会話して居る。


「こちら実働班。待機中です。どうぞ」


 マイク付きのワイヤレスヘッドホンなんて使ってるから、それっぽい雰囲気が出て居る。


 何度か頷いた先輩は、


「了解。突入します」


 とマイクに囁いて、僕らを振り向いた。


「セキュリティ解除が完了した。これより、ミッションを開始する。タイムリミットは今から三時間。ノルマは渡した檸檬を設置し終える事だ。では、各位わたしの後に速やかに付いて来い」

「イエス、サー」


 流石先輩の号令で集まる人たちだ。ノリノリである。


 足音を忍ばせて講堂内に駆け込む馬鹿たちを呆然と眺める僕の肩を、高橋が叩いた。


「俺らも行こうぜ。見付かる前に、とっとと終わらせちまおう」


 先輩は総勢十六人を二人ずつペアにし、ノルマとして檸檬一箱を渡した。つまり、二人あたり150個の檸檬設置が、ノルマになって居る。

 突入や脱出、初期の手間取りも考えて、一個設置に一〜二分。現実的なんだか、そうじゃないんだか。




 結果として、僕らは見付からずに檸檬を設置し終え、見付からずに解散した。


 大講堂を占拠した檸檬爆弾は講義を受けに来た学生により発見され、暫く学内を賑わせた。


 先輩はその後数日間、いつの間に撮ったのか檸檬設置後の大講堂を写した写メを見ては、にやにやして居た。


 …何がしたかったんだこのひとは。


 何で僕、このサークル続けてるんだろう。






拙いお話を読んで頂きありがとうございました


後日談をもう少し考えたりもしたのですが

明らかに刑事事件沙汰になりそうで後味が悪くなったので見なかった事にしました

フィクションと言う事で大目に見て頂ければありがたいです

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