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[extra14 拒絶]


桐谷先輩からのメッセージが溜まっていく。


「大丈夫か?」「いまどこにいる」「忙しいのか?」「返事してほしい」「何かあった?」「電話だけでもでてほしい」「父が謝ると言っている」「話がしたい」…


土日中ずっと私の携帯はメッセージを受信続ける。とても連絡を取る気になれなかった。ひどいとは思うけど、もうちょっと桐谷先輩とは関わりたくなかった。


桐谷先輩に会いたくない。先輩は悪くないが、私がつらい。結局愛されて大事にされていた先輩を、妬んでしまう自分が嫌だ。

私はどこか先輩を見下していたのだと思う。

あんなに頭が良くてお金持ちなのに、すごく不器用で色んな事を知らないから、私が守らなきゃ教えなきゃと思っていた。仲良くなる事を純粋に喜ぶ桐谷先輩を見て、馬鹿らしいほどの優越感を感じていた。


ただ、それが勘違いだっただけなのだ。

桐谷先輩は最初から一人でもなんでもないし、本当はなんでも出来る。

私がいなければいけないなんてありえない。



明日は月曜日だ。学校に行かなければ。そうしたら桐谷先輩に会うかもしれない。そう思うと憂鬱だった。こんな気持ちを全部押し込めて、いい友達として接しなきゃいけないのはなんだか重労働だ。


明日にそなえて、今日はもう寝よう。

ゼロがまた茶々を入れに来る前に。ああ、嫌だな……。







桐谷先輩が私の教室まで来たのは、予想外だった。

「やっぱりあんた、桐谷先輩に何かしたんじゃ…」と沙耶ちゃんが怯えていた。


しかし、直接来るか…。対面するにしても、もっと偶然ばったり的な事になると思ったのに。まだ心の準備が出来てない。



「鬼丸君。今日一緒にランチでも」


「えっ…」


ちらりと振り返ると、犬塚君が手を払っている。「行け」と言っているのだ。犬塚君は基本的に桐谷先輩を尊敬しているのだ。


いつもの校庭のベンチでお昼を摂る事になった。

チワワ弁当と千津子お重が並んでいる。今日この時間に限ってポン太がいないから、話を逸らす事が出来ない。


「すいません、ちょっとあの時は急にお腹が痛くなっちゃって…」


あはは〜と愛想笑いを浮かべて、我ながら苦しい言い訳だなぁと思う。大体それなら事情をちゃんと説明して帰ったはずだ。


「そうか、身体は大丈夫か?」


あー、先輩ってほんといい人。ピュアフェアリー。


対して、私は。


「それで、体調が整ったら、また仕切り直してパーティをしないか?」


「いやです」


なんて、いやなやつなんだろうか。


「折角家族水入らずななんですから、私なんかいたら邪魔になりますよ」


「そんな気遣いしなくていい。そもそも、君と計画した事だろう?」


「えー、そうでしたっけ。でも気遣いとじゃなくてもういいでしょ、私いなくてももうお父さんが怖かったり気まずくなんかないですよね?」


早く引き下がってほしい。ちゃんといいこの振りをしているうちに。桐谷先輩にひどい事を言わないうちに。


「僕は君といたい。鬼丸君」


「……」


「君がいないと寂しい」


「……」


「君が、一緒にいてくれると言ってくれた時、すごく嬉しかったんだ」


「……」


「君の、君の事が知りたい。時々、なぜ君は辛そうな顔をしているんだ。どうして君は、自分の話をしてくれない?なぜ今、目も合わせてくれないんだ?」


そういう直球なところが苦手だ。私にはない、一番怖いもの。弱点。

私は後悔していた。選択を誤った。最初に桐谷先輩に遭遇した時に変なお願いをしなければ良かった。友達になんかならなきゃ良かった。

そうだとしたら、私もその他大勢みたいに桐谷先輩を遠ざけれたのかもしれないのに。


「君といて、少なくとも僕は救われているよ。父の事も、一人じゃ何もしていなかったと思う。それ以外にも、君といると楽しい。君と話していると、時間が止まってほしいといつも思っている」


それは、ただの、嘘だから。


「君が好きだよ。本当に。鬼丸君に会えて良かったと思う。だから、僕だって君の力になりたい。君が困っていたら助けたい」


「いらないです」


ごめんなさい。そういう事なので。

桐谷先輩のいう「好き」の範囲も程度も分からないけど、私は誰にも救われたりなんかしない。


「そういうの、いらないんです。あと、友達ごっこもやめましょう。メールもラインももうしてこないで下さい。私もしません。話しかけるのも今日で終わりにします。先輩もそうして下さい」


「待っ…どうしたんだ?鬼丸君?何か気に障る事でも言ったか?」


気に障る事しか言ってませんよ。


ああ…なるべく減らしたくなんかないのに、友達。私の時間を埋める為にも。孤立しない為にも。あと、こんなに善良な人をなるべく傷付けたくなかった。

でも、今回は仕方ない。切るしかない。

だって危険分子だ。桐谷先輩といたら私は壊れてしまう。救おうとなんかされたら死ぬしかない。


「そんなの、嫌だ」


「私、猿河君と付き合ってるんであんまり他の男子と仲良くできないんですよね。だから、桐谷先輩に周りうろちょろされると困るっていうか」


「えっ…?」


「折角、イケメンのカレシが出来たから絶対失敗したくないんですぅ。じゃ、またこれで」


まさか、話題だけでも猿河氏を利用できる日がくるとは。まぁ、外見はいいし納得出来ない話では、ない。

氏と交際している事実は誠に不本意だけど、まぁカードとしては役に立つ。




桐谷先輩。たくさんたくさんの優しい気持ちをありがとうございます。


本当に、ごめんなさい。

私なんか好きにならないで下さい。



「生徒会長、続けて下さい。私、壇上に立つ桐谷先輩は凛としててすきですから」


押し付けがましいし、皮肉だ。

後は先輩自身の選択だ。先輩が自由の身になって私に構いにくるのはちょっと勘弁願いたいし。


この場面を花巻先輩に目撃されたら、パンチくらわせられるだけじゃ済まないだろうな。

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