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episode14 和解と救い


桐谷先輩は次の生徒会選挙に立候補しないらしい。

それに私の立場では否定も肯定もしかねる。だって私はただの一般生徒だし、桐谷先輩とは友達なだけだし。


「はぁぁ!?ふざけないでよ!」


花巻先輩は、しかし怒りを露わにしていた。少しも包み隠したりせずに。


「どういう事よ、桐谷。二期通しでやったんだから、最後までやり通しなさいよ!今更、降りるとかあり得ないでしょう」


こんな風に直談判出来るのは花巻先輩くらいだろうけど、きっとそう思っている生徒や先生も少なくないだろう。

後任の生徒会長二期なる人はさぞややりにくいだろうに。あまりにも、桐谷先輩はウチの学校の顔として浸透しすぎた。


「いち生徒に過ぎない僕にそれをしなければいけない義務でもあると?」


冷ややかに(しているように見える)正論で切り捨てて、桐谷先輩は鋭い目付き(目を細めただけでかなりの威圧感が出る)で花巻先輩の方へ向き直った。


「引き継ぎの準備は出来ている。君が言うように途中で投げ出す訳ではない。勿論、今の任期中は務めあげるつもりだ」


「だから、そういう話じゃ…」


「では、どういう話だ。花巻」


花巻先輩の喉が「くぅー」と小さく鳴った。桐谷先輩は眉ひとつ動かさない。


「なんでよ…。あんただって今更普通の生徒として溶けこめるとか本気で思ってんの。桐谷の居場所なんか、この学校じゃ生徒会しか無いじゃない」


それでも尚、花巻先輩は食い下がった。


「それは、そうかもしれないな」


桐谷先輩が否定しなかった事で希望が見えたのか、花巻先輩は頭をすっくと上げた。


「でもだからと言って何だ?居場所はそこにあるものでは無く、作るものだと思うのだが」


無理だ。桐谷先輩はもう既に自分の中で意見を持っている。そしてもうそれは、他人の意見を取り入れたいとは思っていない。

桐谷先輩は純粋ゆえに精神的に潔癖なところがある。


「…君がなればいい。去年は花巻も立候補していただろう。君ならば職務内容もよく理解しているし、今より放送局との連携を取りやすくもなる。上手くいけば希望を全て叶えられる」


「は…?」


まずいと思った。花巻先輩がキレそうだ。

彼女の顔色を伺わなくても容易に感じ取れる。肩が僅かに震えいまにも爆発しそうに見えた。

たまらず傍観していた私が割って入った。

桐谷先輩の膝の上で丸まって寝ていた三毛猫のポン太が驚いて逃げて行ってしまった。


「は、花巻先輩は、桐谷先輩が心配なんですよね?いままで生徒会の仕事で行事ごとにあまり参加出来なかったし、浮いちゃうんじゃないかとか気になってるんですね」


矢も盾もたまらず次の言葉を発する為に、浅く息継ぎをした。


「それに、いざ桐谷先輩ともう一緒に仕事出来ないとなると寂しいんですよね。分かります。なんか私も桐谷先輩が生徒会長じゃないなんて結構喪失感あります」


立て続けに口を滑らせると、花巻先輩に頭を鷲掴みにされた。眼鏡越しに血走った目で睨めつけられ「勝手な事を言ってんじゃないわよ…」と耳元で低く囁かれた。


「まぁまぁ、まだ選挙立候補者の受付は終わってないわけですし、桐谷先輩も今早急に決断しなくてもいいじゃないですか?ねっ、花巻先輩もそう思いますよね」


でしゃばり過ぎた自覚はあるけど、こうでもしなきゃ花巻先輩は引くに引けないだろう。


「鬼丸君…」


桐谷先輩はやんわりと花巻先輩の手を私の頭から離すと、少しの間のあとに口を開いた。


「…わかった。もう少し検討しよう」


桐谷先輩も私の意向を汲んでくれたらしく、静かに頷いた。

私に出来るのはそれくらいだ。後は、何一つ私に関与できる権限はない。結局なぜ桐谷先輩が生徒会長続行をしないのか理由も分からない。分かったところで何をすべきか桐谷先輩をどう導くかなんて知らない。



なぜなら、桐谷先輩にとって私は友達にすぎないから。


友達とは、一言で言えばその場しのぎに付き合う関係の人間だ。

日常の寂しさや退屈を埋めるために作り、それ以上でもそれ以下でもない。なぜなら他人だから。独りぼっちになってしまわないように一緒にいるのだ。

きっと年月が経ってお互い違うコミュニティに所属すれば、段々と相手を忘れてしまうけれどそれはそれでいい。友達にそこまでの繋がりなんかもとめていない。


だけど、本音を言えば今現在において友人関係にある人をどうでもいいなんて考える事はまず出来ないし、特に桐谷先輩はまず無視は出来ない。先輩に嫌悪されたり無関心になられるのだって勿論怖い。


他人に踏み込むのは見過ごすのと同等のペナルティがあるのを私は知っている。




「何があってもずっと、私は桐谷先輩の友達ですから」




その言葉は聞こえは良いけど、実際にはある種の突き放しの意味合いがある。けれど、卑怯な私は笑顔で無邪気を装って、まるで先輩の唯一の理解者みたいな態度を取るのだ。


それは洗脳だ。詐欺だ。まやかしだ。


花巻先輩が何となく私に不信感を持っているのは、それに気付いているからかもしれない。

二人の事は深くは知らないけれども、言いたい事をしっかりはっきり伝え教えようとしている花巻先輩こそがきっと桐谷先輩の本当の味方なのだ。


それはいつか白日のもとに晒される事実で。そうなればきっと偽物は消えなければならない。そうすれば、もう友達でもいられないだろう。

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