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49:

「はぁああ!?」


ハギっちが怒りの咆哮をあげている。

二人三脚の組み合わせが勝手に決められていたからだ。


「まじでふざけんな!ていうか何であたしが男子とペアになるわけ!?」


昼休みの話し合いの時、部活のミーティングでハギっちは不在だったのだ。

決して嫌がらせではない。私の友達でもあるハギっちは身長が他の女子よりも圧倒的に高く、スレンダーな体型の為身軽で脚も速い。普通の女子と組んだら折角のその性能が活かせない。


そういう理由で、全会一致で決まったのだ。そして、その決められた相手の男子が犬塚君だ。


「ま、まぁ、男子って言ったって犬塚君だよ?ほとんど女子みたいなものじゃん。ねぇ…」


下手にフォローしてしまい、「ほとんど女子で悪かったな」と今度は犬塚君が超不機嫌になってしまった。


私と沙耶ちゃんが二人掛かりで必死に説得したりヨイショしたりして、一応はハギっちは了承した。




だが、その後も現在進行系でハギっちは不機嫌で不貞腐れていて、体育祭の練習も参加しなくなってきた。


「てか、何なの?犬塚は。いきなりしゃしゃり出てきてリーダーぶって偉そうにしやがって」


ハギっちは犬塚君に対する不満をこぼす様になってきた。それまで何かうちのクラスでは決め事をハギっちが女子代表として意見を纏めたりツッコミを入れたりする役割だったから、それを犬塚君がしているのも気に入らないのかもしれない。


「うーん、まぁ、今回は犬塚君が体育祭番長だからね」


番長の定義とはよく分からないが、この学校で伝統的に呼ばれているらしく、体育教師の重じいが「番長」「番長」と呼びだしているから体育祭競技の戦略担当を体育祭番長としている。普通に体育祭実行委員の事である。


「今回は犬塚君に任せた方がいいと思うなぁ。せっかく一致団結して頑張ってるんだからさ。私は、犬塚君の言ってる事はそんなにおかしくないと思うけど」


「ふーん。やっぱり鬼丸は好きな男の肩を持つんだ…」


「いや、そうじゃなくてね?ハギっち?」


どうにも会話が思う様に出来なくてハギっちの座席の周りをうろうろしていたら、沙耶ちゃんに止められ首を横に振られた。


「無駄だって。ちょっと放っておきな」


有無を言わさず、そのままグラウンドまで引っ張られた。ハギっち一人教室に残したまま。





「今はあんな状態だけど、ハギっちだって一回キレた手前簡単に素直になれないだけなんだって」


犬塚家で半熟とろふわオムライスを頬張り、熱弁するも犬塚君には「飯食いながら喋るな。行儀が悪い」と怒られた。


性懲りもなく、また犬塚家にお世話になっている。ただ、自分の分食費はちゃんと支払わさせて貰っている。


「なんか青春って感じだね。ヒューッ」


犬塚家の母、祐美ちゃんは私と犬塚君の話を聞いて、きゃらきゃら笑いながら足をばたつかせて犬塚君にさらに強く窘められていた。


バイトや夜の仕事を掛け持ちしている祐美ちゃんは、今日は珍しく丸一日オフなのだそうだ。そんな祐美ちゃんから「おいでよ☆」とか言われたら断れっこない。ありがたくお邪魔した。


「別に萩原がどうだろうが関係ないし、どうも思ってない。つーか、あいつが練習に来ないとどうも出来ない。そんなに嫌なら他の奴と変わればいいのに」


「おっ、いつになく冷静だー。大人になった?」


いつもの瞬間湯沸かし器ばりのキレ癖を克服したのかと思い、よしよしと頭を撫でたら「う る せ え」と鼻をつままれた。

チビとか小型犬風情がとか口煩いおばさん男子とかハギっちが悪口を色々言ってた事はこの際敢えて伝えないでおく。言ったら犬塚君まで怒って意地を張り出すだろうから。


「別に総合優勝とか狙ってないし。昼からの騎馬戦に全力をかける。絶対C組…猿河と倒す」


「あー。なるほど。確か一試合目がいきなりC組とだっけ」


男子のみの競技で、確実に猿河氏も出てくるだろう。あの恵まれすぎた体格なら確実に騎馬役だと思う。しかし対する犬塚君は男子では小柄なので騎手だ。なので勝負になるんだろうか?と少し疑問だ。そしてあのプライド高い猿河氏が他人に上に乗られながらモチベーションが上がるのかとか考えてしまう。


「ねぇ、それって仮面ファイター来る?」


「来たらサイン欲しいな!ねぇハル兄」


子チワワ、(あきら)君と昴君が顔じゅうにケチャップをくっつけながら犬塚君の服の袖を引っ張った。「来ねーよ」とそれを拭きながらうんざりしたように答えた。この前の猿川氏の変身ショーの動画を二人に見せたらえらく喜んでいた。すっかり二人はウチの学校にジャスティスもダークネスもいると思っている。子供って純粋だ。


「…そうだ、猿河といえば」


「あっ、犬塚君おかわりお願いシャス!代わりに犬塚君のお茶注ぐから!」


キッチン側にいる犬塚君に皿を差し出して、奪うようにコップに並々と麦茶を注いだ。

鼻歌を歌いながらあとはもう奴を話題に出してくれるなオーラを出す。


「鬼ちゃん、話逸らすの下手っぴ~」


と裕美ちゃんがにやにやしながら私を指差している。「それな」と犬塚君があっという間に皿を出してきて、ケチャップで『あきらめろ』と書いた。…器用だね。


「土屋達が俺を通して、鬼丸と猿河がどういう関係なのか聞いてくるんだけど。何なんだアレは」


「どういうって…もしかして犬塚君例のブツまでは見てない?」


「ブツって?」


そうだった。確か犬塚君はあの日珍しくぎりぎりに登校してきたのだった。仕事が急遽入った裕美ちゃんの代わりに双子を幼稚園まで送ってきたらしい。よって犬塚君が登校してきた頃には撤去済みだった。

大体、貼られたのは数ある際どい写真の中でも少し穏やかな部類のものだった。猿河氏もさすがに良識のひと欠片くらいは持っていたらしい。まぁ、それでも猿河氏が私を押し倒している姿がばっちり写っていたのだけれども。


「まぁ、えーと、なんていうか猿河氏とは色々あって和解したんだよ。それだけ」


「全く意味が分からない。ブツって結局なんなんだよ」


「それは機密事項です」


えへ、と取り繕うように笑ってみても、犬塚君の疑わしげな眉間の一本皺は消えてくれない。


「和解?猿河に何か弱み握られてるか脅されてるんだろ。なんか最近猿河に連れまわされてる所見るに」


「…いやぁ〜。えーと…?」


微妙に否定出来ないのが、自分でも悔しい。


「あんなクソ猿、追っ払ってやるからシカトしとけ。中途半端に構うからいいカモにされるんだよ。お前はいかにも虐めやすそうだし」


「えっ、マジっすか」


虐められっ子体質と言われれば確かにそうかもしれないが。


犬塚君は相変わらず猿河氏を嫌っている。猿河氏も猿河氏であまり好意的に思っていないようで、顔を合わす度馬鹿にしたり悪口を言ったりしている。


「へぇ〜〜、そんな苛めっ子いるの?なら、はるか君が彼氏になって鬼ちゃんの事守ってあげればいいのにぃ」


無邪気に祐美ちゃんが発した発言に、その場は凍りついた。正確にいうと犬塚君と私の間の空気が瞬間冷却した。


「あるぇ?あたし何か変な事いった?」


不自然に黙りこくった私と犬塚君に祐美ちゃんが首を傾げた。祐美ちゃんは冗談のような軽い気持ちで発した言葉なのだろうが、それは思春期を迎えた少年少女にとって爆弾発言だ。


『私、このままだと犬塚君の事を好きになっちゃうよ』


一ヶ月近く前、私がついうっかり投下した発言が未だに尾を引いている。というか、予想外に犬塚君が過敏に反応するので私も困っている。あれは牽制の為に言ったのに、逆に私から愛の告白してしまったと捉えられたと気付いた今ではただただ恥ずかしい。


「…あほか」


犬塚君は私から目を逸らして言い捨てた。

ああ、気まずい…。

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