episode13 芽生え
体育祭も大分近付いてきた。
うちのクラスだって練習を頑張っているが、他も負けていない。桐谷先輩だって準備を頑張ってくれている。忙しそうにしている姿よよく見かける。
男子達が騎馬戦の模擬試合をしているのをひと休みして草原で体育座りして眺めていたら沙耶ちゃんが話しかけてきてくれた。
「そういえば、哀。結局あんた犬塚君とどこまでいったの?」
「へっ?」
「いやわざわざ変顔しなくていいから。だから犬塚と付き合ってるんでしょ?」
左からハギっちめ会話に参戦していた。
なんでそんなワクテカした顔してるのよ…。女子は恋バナが大好きだ。
「いや、付き合ってない。犬塚君とは…」
危険を回避しようとビビって即座に否定したが、二人に同時に「いやいやいや〜」と嘘をつくなと言われた。
付き合う…嘘…誠意……うっ、頭が。
「じゃあ何。やっぱり猿河君が忘れられないわけ?やめときなさいよ~、あんたあれ絶対遊ばれてるだけだって」
猿河氏との画像流出で、私との噂は一瞬広まりかけたがやがて人前で接触を殆どしていない状況から、最終的に私が猿河氏に引っかかって騙されていたのだという結論に至った。真実は今のところ、私と如月さんと杉田さんと猿河氏しか知らない。
先日の事件以来、猿河氏の人望はあっけないほど失われた。
今ではただの美形の変態扱いだ。猿河氏ももう全く猫を被って取り繕う気ゼロで平気で毒を吐くし、ナルシストを隠さなくなった。
「そうだね…」
最近、猿河氏の名前が出ると胃がシクシク傷んでくる。
私のせいだと思うと被害が大きすぎてどう償うべきか分からなくなる。そういう事を言えば猿河氏は物凄く嬉しそうな顔をするから奴はきっと本当は悪魔かなにかなんだろう。
「…で、話は戻るけど」
戻らなくていいです。
「大丈夫だって。体育祭終わったら告ってみなって、犬塚もあんたの事好きだよ。あんなに気にかけているんだし」
「そうだったら困るんだって!」
「えっ何で」
何でって…。きょとんとしている二人にどう説明すればいいか分からないから、「私、実は女の子の方が好きだから!」とふざけて沙耶ちゃんに抱きついた。キャー、と沙耶ちゃんが笑いながら転げた。
「あっ、沙耶ちゃん。沙耶ちゃんも結構お胸が…乳神様…」
「ええっ、嘘。ちょっと望月って着痩せするタイプ?おおっ」
「変態!やっ、ちょっと、乳神って何?」
私の知らない所で色々なものが芽生えようとしている。
もうそれは気付いた頃には摘んでしまえないほど大きくなってしまっているのだろう。
変化なんかなければいいのに。時間なんか進んでいかなきゃいいのに。
私だけがそう願っている。
どうか今私の手の中にあるものが、消えたりしませんように。




