[extra12 猿河氏の説教部屋]
とりあえず、如月さんに写真が流出した件について小一時間くらいは問い詰めようと、放課後光画部を訪ねた。
すると、そこには既に猿河氏がいた。如月さんが椅子があるのに床に正座してプルプル震えていた。
私はその瞬間、全てを察した。
「へー。二人で僕を嵌めようと画策ねぇ」
結論から言うと、あの写真を貼り出したのは猿河氏だった。あれを撒き餌にして、昨日の首謀者を釣ったのだ。
私の周りがきな臭くなっているのを感じ取り、前々から怪しいと思っていた如月さんに探りを入れ真実を知ったらしい。それでよく昨日私を助ける気になったな。
「酷いな…。僕の純情を二人で笑いものにしてたんだ」
「そっそれは猿河氏が!」
「は?何。僕が何かした?」
さっきまでナヨナヨ〜と背中を丸めていたしのに一瞬で顔色変わるのが怖い。ニコニコしているはずなのに目が全く笑っていない。
「文句があるなら直接言えばいいじゃない。言葉くらい通じるよ、僕は。特に哀ちゃんの話はきちんと聞いているつもりだけど」
嘘をつけ、嘘を。
暇潰しで関節技きめてくる奴に対してどう会話しろと?
が、ここでもう何を言っても私の意見は叩き潰されてしまう気がして反論は諦めた。
「その通りです…。卑怯な事をして、すみませんでした。ほら、如月さんも」
如月さんは無言のままペコッと頭だけ下げた。
「すみませんで済んだら、警察や裁判所なんか存在しないんだけど」
ハッと口の端を吊り上げてゲス笑いをしだした猿河氏に、新鮮な驚きはもう無い。この男が言葉のみの謝罪を受け入れるわけが無い。
「まぁ、如月先輩は実際に手を下さなかった訳だから許してあげますよ。今後もうそこの鬼丸哀に近寄んないでくれたら」
如月さんはそれを聞いて脱兎の如くその場から逃げ出した。おい!首謀者だろ、貴様!ずるいぞ!私も逃げる!
全身全霊で後ろ側へ駆けようとしたが、あっさりと猿河氏にお下げ髪を掴まれていた。
「……私だって、如月さんの指示でああしていたわけだし私一人が悪いって事じゃ…」
一応言ってみたが全く黙殺されてしまった。
「僕は全部本当だったからね。本当に哀ちゃんが欲しかったし嘘なんか言ってないよ。純粋に君と一緒にいたかっただけなのに」
普通、エロ欲求を純粋とは言わない。
猿河氏は表情だけ眉根を寄せ悲しそうにして、その翠の虹彩は爛々と光っている。それが何とも言えず怖い。
「しかもさぁ、身を呈して君の事助けてあげたよね?それで結局ありがとうの一言も無し?哀ちゃんがした事といえば、携帯で動画撮っただけだよね」
それは……本当にすみません。つい…。
「酷くない?僕だってお礼に哀ちゃんからキスかハグしてくれたら、溜飲下がったものを。サインは出したのにそれをスルーとか…無くない?」
「えー、そーなんだー。ごめーん、気付かなかったぁ」
ビィンと髪の房を引っ張られて、リードで繋がれた犬みたいになってる。そのままずるずると引き寄せられた。
だって、一旦悪循環から抜けてしまえばまた深みに嵌るのが怖い。それに理由が無くなった今そんな事をして万が一でも何か感情が生まれてしまったら誰が責任を取るというのだ。
「猿河氏は、私にどうしろと…」
「僕は哀ちゃんに誠意を見せてほしいな」
引き寄せた私をぬいぐるみのように抱き締めた。顎が首の付け根に減り込んで痛い。
「もしや、私に丸坊主にしろと…?」
「いやそれ誰得よ。野球部じゃあるまいし別にそんなもの見たくないな」
「またパシリになれと?ペット奴隷再開…みたいな?」
「してもいいけど、君それが嫌でこんな計画乗ったんじゃないの?」
じゃあなんだよ。私、常に金欠だから集られたって無理だよ。
誠意とは何かぐるぐる思い詰めて、そこから先に進んでいかない私に猿河氏は「仕方ないなぁ」と息を吐いて私の上半身を捻り自分の方に向かせた。
「いまから僕が言うことを復唱して」
あ、それはなんか嫌な予感が。
しかし、待って、と言う前に猿河氏は話し出してしまった。
「わたくし、鬼丸哀は」
「……わたくし、鬼丸哀は」
「これまで純粋無垢で繊細な猿河修司君を弄びあげく振り回し、罪悪感を感じ大変に申し訳なく思っております」
「これまで猿河修司君を弄びあげく振り回し、大変に申し訳なく思っております」
色々省略したら頬っぺたを引っ張られた。いやだって、純粋無垢で繊細はないだろ。
「そこで、せめて償いとして修司君の傷ついた心を癒してあげたいのです」
「修司君の傷ついた心を癒やしてあげたいのです」
あー、痛かった。両手を摩り、また猿河氏の方を見上げた。
「ふつつか者ですが私を修司君の彼女にして下さい」
「ふつつか者ですが私を修司君の彼女にして……えっ?」
えっ?
今私、なんと言ってしまった?とんでもない事を言ってしまった気がする。
「いいよ、よろしくね。あ、これは繰り返さ無くて良いから」
えっ。
えっ……。




