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47:


「…?」


遂にやられた。上靴がぐしょ濡れ、しかもなんか臭い。

靴箱に鍵をかけてないとか意識低すぎと脳内の如月さんにどやされた。頭の中でもウザいな、あの人どうなってんの。

HR遅刻なんかしたら色々面倒だとは思うが、三時間目は室内の体育だからさすがにどうにかしないとまずい。大慌てで洗って家庭科室のドライヤーで乾かした。3割ほどしか乾かなかった。取り敢えず履いてぐちゃぐちゃと音がしないからセーフ。


だんだん恐怖を感じるようになってきた。


普段、廊下を沙耶ちゃん達と歩いているだけでなんだか視線を感じたりこそこそと何かを話されている気がする。被害妄想による自意識過剰なのかな…と思ったところにこの嫌がらせとは。だんだん実力行使になってきている。しかも頻度が高くなってきてる気がするし無理矢理無視も出来なくなってきた。

他人から見れば親衛隊の皮を被って猿河氏を独り占めしてきたよく分からん奴がのうのうとしている、と思うと気に食わなくて全員が全員じゃなくても嫌がらせしてくるのも有り得ない話じゃない。そしてもうクラスと出席番号と顔はとっくに特定されているようだし。


「鬼丸。なんだよその靴」


そしてあっさり面倒なのに気付かれちゃったし。

もう隣の席でもないというのに犬塚君はきゅるるんとした顔をしながらやってきてわざわざ指摘してきた。


「なんでもないです。犬塚君には関係ない」


「なんでもなくないだろ。何かあったのか」


「超くっさかったから洗濯したんです。あまりに耐え切れなかったし」


「んなアホな…。大体夏休みに入る前に持ち帰って洗っとけよ」


すいません、犬塚君と違って私女子力低いんで。

「ていうかそんな大声で言われると恥ずかしいんですけど」とあからさまに迷惑ヅラしてみると、犬塚君は口を噤んだ。それでもドライヤーかけ直すくらいはしてきそうだったが、体育祭実行委員の打ち合わせとかで呼び出された。


もしここで犬塚君に助けを求めれば、猿河氏と違って味方になってくれるだろうし力技で救ってくれるだろう。

犬塚君は元々一匹狼タイプだから別に他の誰かから害意を持たれたって真正面から反抗できるだけの強さがある。しかし、あの犬塚君がこんなに学校行事に真剣に取り組んでいるのだ。下手したら、というか確実にその努力をぶち壊してしまう。いい子ぶっている訳ではないけど、そういうのは個人的にどうしても無理だ。だから何とか事が収束するまで隠し通したい。


「鬼丸。あんた、なんかした?」


折角落ち着いたというのに、友人のハギっちの一言でまた心臓が跳ねだした。沙耶ちゃんがそんな私を見て首を傾げている。


「な、なんかって…」


ハギっちの言葉がただひたすら怖い。


「先輩が、クラスに鬼丸って子いない?って聞いてきてさぁ。それでどんな子なのか聞かれたから、ただのアホです!って答えてやったよ」


ハギっち…。いや、適切なツッコミを考え抜いている場合じゃない。


「他に何か聞かれなかった…?」


別に。と首を横に振るハギっちからは別に嫌な雰囲気は感じない。大体彼女はそんな陰気なキャラじゃない。私に思う事があればすぐ何か直接言ってくるはずだ。それだけ今は安心した。

でもちょっとやばいまずい。思った以上のスピードで私の名前が知られているし、そのうち猿河氏との事で噂になってくるのではないんだろうか。もうなんか親衛隊を復活させるとか杉田さんの誤解を解くとかのレベルではない。


一人でいると通り縋りに小さな声で「死ねブス」「学校やめろ」とかの声が聞こえる。

別にそれほど間に受けるような事ではないのだろうけど、嫌な事を思い出して頭痛がしてくる。吐き気がこみ上げてくる。



『**の代わりにあんたが死ねばいいのに』



あの時の事を考えるだけで胃から次から次へと苦い汁が滲んでくる。

何も覚えていない私でも、そういうのだけは絶対に忘れられないのだ。多分一生。






「鬼丸、もうだめよ。変な事が起きる前に修…猿河君に助けてもらおう」


杉田さんが私にそんな事を提案してきた。

陰で事態を収めようと色々手を尽くしてくれていたらしいけど既にもうどうにも出来ない事態だったらしいのだ。

こうして早朝に掲示板に貼り付けられた『鬼丸哀は 糞ビッチ 勘違いブス』と殴り書きされた紙を片付ける手伝いをしてくれている。危険を感じて早めに登校してきて本当に良かった。いや、もう既に色々遅いのかもしれないけれども。


「無理だと思いますよ?奴は基本的に唯我独尊ですから」


なんでそんな事を僕がしなきゃなんないの?で終了だと思う。ていうかそうだった。今までどの状況下においても奴は私じゃなくても他人の為に動いた試しがない。

猫被り時もペラペ~ラと耳に心地よい事を言って実際面倒事を躱している。狡いのだ。それで誰からも好感度を下げられない。


「鬼丸、意地張ってる場合じゃないのよ」


なんか叱られた。別に意地張ってないし。

杉田さんは知らないからそんな事を言えるのだ。猿河氏に貸しなんか作った日には、100倍返しを要求されるのだ。それを払わされるのは結局私だ。そんなリスクを払うくらいなら多少の怪我はしても自力で何とかする方がマシだ。


「鬼丸なら大丈夫」


私がどんなに氏の悪行を杉田さんに説明した所で、彼女は最終的にこうやって話を纏めようとする。なかなか分かってもらえない。知ってたけど杉田さんは頑固者だ。


大体約束も破って着拒してブロックしているのだこっちは。どのツラを下げて助けを求めるべきなのか分からない。それをあの猿河氏が怒らずに此方に来ないというのはどう考えてももう既に私への興味を無くしたのではなかろうか。


「分からず屋。どうなっても知らないから」


杉田さんは紙を丸めてゴミ箱に放り込んで私に言葉を吐き捨てた。


私も自分の主張を変えたくない割に、突き放されると不安になる。

杉田さんにはこれ以上フォローして貰いっぱなしは無理。如月さんは…役に立たない。犬塚君以下クラスメート達は巻き込めない。桐谷先輩は色々影響力大きすぎてむしろ悪化しそう。実際、残るのは猿河氏だがそれは嫌だと私の理性が言う。

いっそ学校を休むか。…それはそれで暇すぎて死ぬ。寂しくてしかし気まずくて友達に連絡取れないとかどんな地獄。なんの解決にもなってないし。学校からお父さんに連絡が行ってしまうかもしれないから現実的じゃない。





そうこうしている間に事件が起きた。



閉じ込められた!しかも旧校舎の女子トイレに!

手口としてはこうだ。放課後、皆と一緒に体育祭の練習をしていて、私はまた買出し係になって自販機の置いてある購買部へ向かう事になった。

知らない女子5名(多分上級生)にヤクザばりに「オラァ来いや!!」と怒鳴られ、トイレに閉じ込められ上から冷水をぶっかけられ放置。


それから、もう周りがよく見えないほど真っ暗になってきている。どのくらい時間が経ったかも分からない。

携帯はそのまま鞄の中に入っている。ジャージはただただ濡れて寒い。


「…どうしよ」


叫んだりドアを押したり引いたり殴ったりしてみるが、半分壊れているらしく軋んだ音を立てるだけでびくともしない。


やばい、これはまずい。叫んだ所で旧校舎の奥の女子トイレの端っこじゃ誰も通る訳がない。

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