episode12 猿河事変
まさかの連続猿河編
だんだん慣れてきたけど、なかなかに変なやつだ。
改めて思う。
猿河修司というやつは。
黙っていれば完全無欠のハーフ顔の王子様なのに。非常に勿体無く思う。
「猿河氏、車のサイドミラーで自分に見惚れるの止めようよ。運転手さんが発進できなくて困ってるじゃん」
あと、最近私のLINEアカウント見つけたからっていって、自撮り写メアップしてくるのやめようか。
猿河氏は極度の自分大好き人間である。
人間、美貌が行き過ぎるとこうなるのかもしれない。
「うん?僕が異常行動してるような言いがかりこそ止めて貰える?僕はただ違法駐車している車に物申そうとしただけだから」
「よくいうよ、そんな正義感あふれるタイプじゃないくせに…」
ボソッとつぶやくと、フフフ…と猿河氏は爽やかに微笑んだ。
私にアームロックかけながら。
「がああああ!猿河氏っごめん!私が謝る理由ぜんぜんないけどごめん!だから離してあたたたたたたた」
「ほら、僕繊細じゃない?だからそういう心無い一言で簡単に傷ついちゃうんだよね。はぁ…」
何が、はぁ…だよ!繊細な人はいたいけなJKにアームロックかけたりしないよ。
バイオレンス。特に私に。
氏曰く、イラッとした時にいい感じに私が技をかけやすいポジションにいるらしい。
でも、この溢れ出ん個性を猿河氏は人前では巧妙に隠している。
だから、多くの人が猿河氏は一点の曇りもない麗しの爽やか王子様だと思っている。
◆
「ごめんなさい」
杉田さんに急に頭を下げられて、唖然とする。
「どうし…」
「水着の件、貴女が犯人じゃないとは分かっていたの。でも、私は会と修司の信頼を優先してしまった。それはとても褒められることじゃないわ」
思ってもない発言にぎょっとする。
とりあえず、杉田さんが謝るのは何か違う気がするので、頭を上げてくれるように頼む。
「犯人は分かっているの。話をして、犯行は認めたわ。鬼丸には酷い仕打ちしたわ。ごめんなさい」
「い、いえ…」
犯人分かっているのか。
胃が痛む。あの中にあんな事をやった人がいると考えただけで。
「何なら会も解散しようかと思ってるの」
「…え」
どきり、と心臓が大きく跳ねた。
「鬼丸、修司と付き合っているんでしょ」
「ぅえ?」
予想外な発言にパニックになる。
違うけど?違いますけど?
「…見たの。その、理科室で、色々してる所。ごめんなさいね、鬼丸の跡つけちゃって」
「……」
言葉を失うとはこの事だ。
マスクの下の皮膚に物凄い早さで血がのぼる。
「べ、別に怒っているわけでも、反対しているわけでもないのよ?修司が鬼丸を気に入ってたのは知っていたし」
「…杉田さん、あれは」
「え?」
言えない。言えるわけない。
ただのお遊びだったとか、言えるはずがない。猿河氏のイメージも多分瓦解する。
「なんでもないです……」
そりゃあそうだ。
あんなエロ行為、恋人同士でしかやらない。
当たり前のはなし。
むしろ、よく愛でる会会長である杉田さんに殺されなかったのか不思議なくらいだ。
「本当なら修司とか呼ぶのもおこがましいわね。…鬼丸、猿河君をお願いします」
「あ、う、ハイ…」
お願いって何を。
でも、切実な杉田さんを見てたら返事せざるおえなくなってきた。
どうする、如月さん。
いや、如月さん的には結果オーライなのか?
でも、私だけ被害被ってる気が…。
誤解を説かなければいけない気もするし。
どうしよう。ねぇ、どうしよう…。
私は一人頭を抱えた。




