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41:

それは早朝の事。

旧校舎の光画部に呼び出された。勿論、如月さんに。


「なんですか…呼び出しておいて、なんでそんな不機嫌ツラなんですか」



如月さんはいつものようにカメラを頭からぶら下げながら、腕を組んで眉間に皺を寄せてわざとらしくため息を吐いた。イラッ☆


「お前、自分の役目を完全に忘れているだろ」


「……役目…?」


鸚鵡返しすると、くわっと如月さんがいつもの1.5倍くらいに目を見開いた。


「猿河修司を嵌める!そして、親衛隊を解散させることッツ!!!!」


いきなり大声を出すものだから、耳がキーンとなってしまった。

なんだ騒音おじさんめ。人の事言えないでしょうが、まんまと流されて親衛隊に入ったくせに。


「わ、忘れてないですぅ~。ただ、今親衛隊クビになっているだけで、猿河氏に近づけないだけですぅ~」


「アホか!そんなの単独行動できる絶好のチャンスだろうが!!」


「は?単独行動なんて、そんな高度なこと私に要求します?!」


「普通に考えて、黙ってても猿河はお前に寄ってくるんだから簡単だろうが!これで出来ないとかどんだけ頭弱いんだよ!馬鹿!クソ馬鹿女!」


「寄って来るって言ったって、そんな簡単に手に負える人間じゃないの如月さんだって知ってますよね!!」


「何でもいいから、やってこいっていってんだよ!怖気づいてんじゃねぇよ!失敗しても最悪性奴隷になるくらいだろうが!」


「せい…ならないよ!!エロ漫画の読みすぎかよ!」


ぎゃーぎゃーと、作戦会議とは名ばかりの怒鳴り合い。

やっと収まったのは、二人の喉がすっかり枯れ果ててからだった。


「今月には決めるぞ。猿河が女にうつつを抜かしてる証拠写真をゲットして、撒く。それで全校生徒の信頼を剥ぐ。俺は親衛隊に解散を持ちかける。それでいいな?」


天龍源一郎みたいなガラガラ声で如月さんがまとめに入る。


「はい、結局私はどうやって猿河氏にハニトラを仕掛ければいいんですか」


手を挙げて質問すると、如月さんはクイッと世にも鬱陶しい仕草で眼鏡を押し上げた。


「セクロス」


「は?ちょっと耳の調子悪くてよく聞こえなかったんですけど」


「だーかーらー、猿河とセクロスしろっていってんるんだよ」


最低だ。ゲスの極み、童貞だ。


「ははっ、ワロスワロス。で、本当はどうすればいいんですか?」


「スルーすんな!これはマジで本命中の本命の作戦なんだよ、さすがの猿河でも抱いた女には油断するだろ。だから、その隙を狙ってだな…」


「無理だっていってんだろ!こちとら経験も女子力もないカースト最底辺女子だぞ!」


「それは事実だが、猿河は何故か鬼丸に興味持って、好き好んでその巨ケツ追いかけてるようだから大丈夫だろ。今更、お前だって処女膜なんて惜しくないだろう」


「私の尻についてイジるんじゃない。というか大事だわ、処女膜。そこまで私もヤケクソに生きてないわ」


「そうやって後生大事にして、年取ってから後悔するパターンだぞ。それならここで破っといて、せめて人様の役に立っとけよ。もういいからぐずぐずせず、ヤッチマイナーーーーー!!!」


「なんでキル・ビル風!?」






まぁ、セクロス云々は冗談として何か手段を打っとかなきゃなぁ。

このままペット扱いは正直苦痛だし。念の為にも猿河氏を抑えるための何かは必要だと思う。

かといって、私が猿河氏を翻弄できるほどセックスアピールに長けている訳でもないし…。


「困った…どうしよう…」


教室で自分の席で頭を抱えていると、ぺこ、とデコピンされた。


「犬塚君」


「どうした、なにか悩み事か」


前の席に座っている犬塚君。それ全然違う人の席だけど。

眉根を寄せて、私の顔を覗き込んでくる。


「いやぁ、別に…。て、こともないけど」


正直にいうと、「どうしたどうした」と顔を寄せてくる。

犬塚家を巣立った後もその世話焼きたがりは治らない。昼夜忘れて私のスパルタ家庭教師になったことでそれは証明されている。


「犬塚君はさぁ、どういった時に女の子に気を許したくなっちゃう?」


「…は?」


犬塚君はきゅるるんと「チワワ、よく分かんない」みたいな顔をした。


「うん。だからさ、こうキュンとして、やばいオスの顔になっちゃう。ふぇえ…みたいな事にどうやったらなるんだろ」


犬塚君は、3秒ほどポカーンとしてたが、4秒後にボフン!!と顔面を爆発させた。


「おま、おまえ、そ、それを本人に直接聞くか。普通…」


「いやいや、直接聞けたら苦労しないよ」


「これ以上ないほどにド直球だろ!」


何故かダメージを受けている犬塚君は、あんまこっち見んな…と教科書で顔を隠した。

どうした犬塚君。今日は男の子の日か。


「あと、それに関しては言及しない。出来るかっての」


「えーー!なんで、困るよ!じゃあ、例えば…」


犬塚君の手をかっさらって、ぎゅっと握り込む。


「どう?キュン死にした?」


「…しない」


教科書の裏から低い声で犬塚君が答える。


「じゃあ、これ」


がばっとハグしてみる。


「するわけない…」


反応は薄い。

やっぱり行動系は無理があるようだ。


「じゃああ、キス…」


「ばぁあああああああか」


教科書で顔面を叩かれた。そんで、逃げられた。

犬塚君が廊下にものすごい勢いで走っていった。あと休み時間1分くらいなのに。





全然参考にならなかったし。

どうしたらいいものか。


愛でる会は、いつものように猿河氏の周りを囲っているし下手に近づけないしなぁ。

今となっては、近づく理由も持てないので策を練ることは出来ない。


会に復活…は、多分無理だ。

廊下でたまに会にすれ違うけれど、寄越される視線にひしひしと敵意を感じた。

もう無理なんだろうな、あの会で色々わちゃわちゃくっついているの結構楽しかったけど仕方ない。

やってない、という証拠は無いし。ただでさえ、個人的に猿河氏に水着貰ったことも許せなかったのかもしれない。


「男を落とす方法?そりゃ、手料理…あっ、ごめん」


沙耶ちゃんは、家庭科実習でゲロ甘味噌汁を作った私を思い出してか何故か謝ってきた。


「なになに!?恋バナ?え、鬼丸の?相手は…あっ、言わなくても分かる分かる!そうね、…取り敢えず押し倒しちゃえば?」


ハギっちは何か察して、過激発言をしてきた。発想がまさかと如月さんと丸かぶり。

それに、相手は犬塚君じゃないからね!!


友達の沙耶ちゃんとハギっちにも相談したが、何とも…。

大体、猿河氏も大分こじらせてるから下手な嘘言ってもやっても速攻でバレるだろうしなぁ。



ちぅ〜、とドロリッチ飲みつつ、考え込む。

静かに考えたかったので第二理科室にて行儀悪く机の上に座っている。ちょっとここが気に入ってしまった今日この頃の昼休み。

ああ、いいお天気。ねむねむしてたらガラッと扉が開く音がしてびっくりした。


「なんだ、ここにいたの」


猿河氏が当たり前のように入ってきて、真横に座った。そして、私のドロリッチを当たり前のように飲み干した。

杉田さん達をまた撒いてきたのか。止めてくれよ、巻き込まれたらひとたまりもないじゃないか。


「ああ"…あぁ…」


私のドロリッチ…。購買で売ってないからコンビニでわざわざ買ったのに。


「なに、その顔。ブスすぎ」


しかもこの暴言…!

猿河氏は残念ながら、今日も完璧美形フェイス。言い返せない。


「何。間接キスだとか気にしてんの」


にやーと氏がわろてる。

さすがカースト最底辺女子。男との触れ合いに過敏だね〜。と、その翠の目が言っている。


「それは気にしてないですけど」


「ふーん?なんで?経験済み?」


そこで、猿河氏の事を別に意識してないから、という発想にならないのが猿河氏の猿河氏たる所だよなぁ。


「まぁ…そうですよ…」


「誰」


「それは言えないよ…」


「そう、あの駄犬とね」


なぜばれたし。

一言も犬塚君だなんて匂わせてないのに。


「何。あんたら付き合ってんの」


「まさか、なんでそうなんの」


「順当にそうでしょ。ていうかそれも、色々と狂ってるよね」


「色々と理由あったんだよ」


事故チューだし。


「何、理由あったら自由に誰とでもするんだ。哀ちゃんは」


しないよ〜、と言いかけたほんの一瞬だった。

顎をくぃっ持ち上げられて、そのまま口どうしを嵌め合わせた。

さすディオ!しびあこ級に唐突にキスされた。


「…んむぅ…」


しかも、口の中に舌入れられた。私も喋ろうとした直前にやられた訳だから口開きっぱなしだったし。


ていうか、何これ。

呼吸上手く出来ないし、唇熱いしふにゃふにゃしてるし、舌同士で絡まるのって異物感すごいけどなんか癖になる。ってか、エロすぎる…。


「なにこれ、えろ…」


うわ、猿河氏と同じ事を思っていた。

さすがにやり過ぎだと体を離すと、意外にも簡単に離れた。

真正面に回り込んだ猿河氏が、私の両肩を掴む。

宝石みたいな深い翠が、揺れている。その中に、醜いと感じる程にとろとろな顔になっている私が映っている。


「…さっき、飲んだので口の中、甘ったるいから」


まさかそれが理由になるとでも?

さっき猿河氏自身が「付き合ってないのにキスする方が、おかしいよ」とか言ってなかった!?

…と、ツッコめれば良かったのに。


離れた熱があまりに恋しくて、あろうことか自分の口を突き出してしまった。唇の形を3にして。

もっとしたい。

そう思ってしまった。欲に弱いにも程がある。


そんなに時間が空かず、猿河氏が無言でまた唇を押し付けてきて、待ち構えていた私が受け止めた。

頭の中でも警報(アラーム)がずっと鳴っているのに、私は猿河氏を引きずり込んで机の上に倒れ込んだ。


一瞬、「それ見た事か!!」と高笑いする如月さんが思い浮かんだけど、すぐ掻き消えた。



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