episode10 桐谷雪路と笑い鬼
桐谷雪路:そうか(><)
それでは犬塚君に、体を大事にするよう伝えておいてほしい(><)
「…先輩のLINE、くっそかわいいなぁ」
つい最近、桐谷先輩とLINEするようになったのだが。
最初は『そうか』『了解』『なるほど』のみだけの返事しかなかったが、段々文字数が多くなり、今では顔文字まで駆使するようになっていた。
この成長っぷり。やはり桐谷先輩は只者じゃない…。
ポチポチと携帯電話をいじって返信していると、ふとジト目の犬塚君と目が遭った。
「あ、起きてたの?犬塚君?」
別に疚しい事なんて何もしてないのに、なぜか落ち着かない。
布団から顔を半分出して、犬塚君が妙に何か言いたげな視線を送ってくる。
でも、無言。時々わざとらしく咳き込みはする。
「あっ、桐谷先輩が体大事にしてって言ってたよ!良かったね、犬塚君!」
珍しく初対面の桐谷先輩には敵意を抱いておらず、自分から会話してたりしてたから先輩のことは嫌いではないのだろうと思って、携帯の画面を見せてもツーン。見事なまでのノーリアクション。
「え、なに。どうしたの、私なにかした?」
私がした事といえば、寝込んだ犬塚君を見守っている間暇だから携帯いじってただけだけど。
心底わかりませ~んという顔をしていたのを見たからか、とうとう犬塚君は口を開いた。ものすごいボソボソ声と早口で。
「章が変わったからっていって今までのアレコレの高速リセットほんと良くないと思う」
「犬塚君、お願い!メタ発言だけはやめて!!」
―――――――――その頃、桐谷家。
「雪路さん、ほら見てください。ほうじ茶に茶柱立ってますよ」
「おお…これは、鬼丸君に見せなければ。…えーと、カメラはどう使うんだっけ」
にゃあ、と桐谷家の短足おちびちゃんが足元にまとわりつき、気を取られた先輩が見事にブレッブレの写真を撮ってしまうのが3秒後。
振動で茶柱が消えてしまうのがその0.1秒後。
泣く泣くその画像を私に送信するのがその30秒後。
私から『なんですか、これ。おしっこ?』と最低な返信が帰ってくるのがその10秒後。




