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[extra9 鬼畜娘!おにまるちゃん!]

『じゃあ、言うけどさ。私、このままだと犬塚君の事を好きになっちゃうよ』


衝撃の告白(?)をした次の日、犬塚君が高熱を出した。


「疲れ溜まってたのかなぁ…。大丈夫、たま~に思い大したようにものすごい寝込む時があるんだよね、だから鬼ちゃんが気にする事ないよ?」


と言われても、どう考えても私のせいにしか思えない…。

あまりに衝撃的すぎてパンクしてしまったんだろう。お盆は過ぎたけれど、罪悪感でとても帰れなかった。

裕美ちゃんの家事の補佐と双子の送迎係として、犬塚家にもう少し残る事にした。


人には多大に世話を焼くくせに、病院嫌いな犬塚君をタクシーに乗り込ませて病院に連れてった。

「いや、一人で行けるしっ」と犬塚君は言い張ったが意識朦朧自ヨロヨロフラフラしてた為、肩を貸して移動した。診断結果は普通の風邪だった。取り敢えず、インフルでなくてよかった。


なかなか本調子にならない犬塚君は、家の事を気にかけすぎて隙あらば布団から抜け出して、フラフラと台所の掃除をしてたりするので、私が犬塚君監視係になる事になった。


最初は恨めしそうに布団から半分顔を出して睨んでいた犬塚君だったが、無視して私がここぞとばかりにやけ顔で寝室に居座り続けたら、やがて観念して大人しく寝るようになった。


「犬塚君、ごはんごはんっ!おかゆっおかゆっ」


裕美ちゃんから譲り受けた小鍋を落とさないよう持ってくると、ジト目の犬塚君の顔に『うわー、テンション高けー、めんどくせー』と書いてあった。


「大丈夫?一人で食べれる?」


「だ、だいじょうぶだから…」


「OKOK!まぁ、全部食べるまで監視するからね!」


「うわぁ…」


この量は無理だろ…と言いつつももそもそと起きだしてちゃんと座って食べる犬塚君。

まだ、ほっぺが赤くて眼がとろんとしてる。熱も微熱が続いている。

ほんと大丈夫か…。割と繊細なんだよな、犬塚君。すぐお腹壊すし、ストレスですぐ湿疹出来るし。こうして見ると儚げに見えなくもないし。佳人薄命っていうからなー…縁起でもないけど。


「そんなに見んなよ」


ぼーっと観察してると犬塚君がスプーンを止めて、抗議してきた。


「いやー、犬塚君があんまりにも男前だから見ちゃった。ゴメンネ」


「あほか…」


そんなに気になるかねぇ、視線なんて。

猿河氏みたいなものすごい目力ある人間ならまだしも。


「べつにわざわざ見守んなくても大丈夫だぞ。ちゃんと寝るし」


懲りたし、と犬塚君。

脱走事件時に「だめですよ~、犬塚さぁん。あんまり素行が悪いといった~いお注射打っちゃいますよぉ」とナースのお仕事ごっこをしたのが効いたらしい。よかったよかった。


「ま、調子悪い時は誰かいたほうが心強いでしょ。私も暇だし」


「おま…人にはそういう事言えるんだな」


「え?ちょっと何言ってるかよく分かんない」


犬塚君の寝込んだのが、私の問題発言のせいだとして、こうノコノコと犬塚家に入り浸ってるのは、割と結構鬼畜行為なのかもしれない…。と、ちょっとは思っている自分がいる。

例えるなら、大殺戮を起こしたテロリストが現場で慈善活動をしてるみたいな。

悪女?あれ、私悪女なのか?


「ぃよーーし!全部食べれたね!じゃーお薬飲もっか!」


「ちょっと待て、腹がキツくて今何も入らないから!あぁ、水が!溢れてるから!コップ下ろせ、後で飲むから!」


ずいずいとコップを犬塚君に押し当ててそれが避けられて、盛大に布団にシミができた。病人なのに、全力でシャウトする犬塚君。その後、息切れして「疲れた…」と布団に潜り込んだ。

びちゃびちゃになった敷布団に急いでタオルを充てる。顔ふき用に持ってきたタオルだけど。


「あ、ごめん…」


だめだ。私、人の介護とか全然した事がないから力の加減が分からない。

裕美ちゃんに頼まれた手前、今更断れないし。


「この鬼畜女が…」


布団の中で犬塚君が恨み言を呟く。


「くそかわいいな、もう」


「…OH…?」


なんか聞こえた?今?


「お前はそーやって大騒ぎして能天気にニコニコしてるのが一番かわいいよ」


また聞こえた。

なにか、不可思議な魔力によって今この空間に、誰かが干渉し、私の脳内に謎の音声メッセージを残した。

怖いよ!なにこれ、超怖い!私、幽霊とかホラー系ほんと無理なんだって!


「い、犬塚君の方がカワイイと思いまぁーす」


無言になるのが怖くて裏声で言い返す。


「誰だよ、お前」


冷静なツッコミ。無視しないでいてくれる所に優しさを感じる。


「え~、お茶の間に絶賛不評中!サンドバック系マスコットキャラクター・オニっちだよ~!も~ひどいな~犬塚君~。そうやっていたいけな乙女心を弄ぶなんてさ~。女の敵だよね!」


裏声で喋り続けると、何かがツボにはまった布団の山から「ぶはっ」と吹き出した声がした。

何気に貴重なことで、「おお…」と少し感動した。


「弄んでんのは鬼丸だろが。少しは思い知れ…ぐっぬはっ…」


犬塚君は笑いを引きずるタイプらしく、思い出し笑いでまた会話にならなくなる。


「お、お前がwwwwwあんwwwなことwwww、いっ、言うからwwwwwwwもの、すごっwwwやりっ…にくいwwwwwww」


「わかった!犬塚君わかったからちょっと鎮まろう?草生えすぎて何言ってるか分かんない」


荒ぶる犬塚君をどうどうと宥めて、いい頃合にそっと布団を捲ると見事に汗だくになっている犬塚君がいた。


「…着替え持ってこようか?」


「それより風呂に入りたい」


「オッケー♪沸かしてくるよー」


少し元気が出てくれたようで安心した。あまりにも熱が下がらないからやっぱりなにかの病気じゃないかと心配してたんだ。

決して逃げたわけじゃないから。自分の発言も後悔してる訳じゃないから。


「そんなに、深く気にしないでね。あれは」


ただの脅しだし。

このまま、今以上に過干渉してこなければ何も変わる事はない。変えさせない。


「は、どういう…」


聞こえないふりしてパタンと寝室の襖を閉じた。

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