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episode8 ユーレイが喚ぶから

がたん、がたんと時々思い出したように揺れている。

窓の外の風景が次々と変わっていく。そして、私の手にはトランプのカード3枚。


「ハッハッハー、オレのターン!エクストリーム・エイト・バーストッ!」


なんだその厨二名…。ただの8切りじゃないか。

向かいの席の如月さんが得意げに備え付けのテーブルにトランプを叩きつけた。

こんなんでも勝者には間違いないのだ。


「ぐぬぬ…」


完全にペース配分を間違えた。残りの手持ちカードは11、9、7。なんか微妙…。


「え?高橋さん上がっちゃいます?ちょ、やめません?今日くらいこの鬼丸に優しくしてくれてもいいじゃないんですか」


「何言ってんの、私も高橋もいつもあんたに優しいじゃないの」


私の説得も虚しく、鈴木さんがサラッと上がった。

なんてこった。一枚も出せずに負けたぁああ……。

大貧民の烙印を押されたショックで「おおお…」自然と打ち震えてしまう。


「ドンマイ、鬼丸さん。今回は引きが悪かったね」


ポンと邪気なさげに私の肩に手を置いた猿河氏の顔を見れば、瞳がうずうずと馬鹿にしたさそうに輝いていた。そんな奴は大富豪。この両者の僅かな距離に、今まさに経済格差が出来ている。

ていうかさっきから狭いんですけど。何の因果か猿河氏の隣の席に座ってしまい、誰も気付いてないようだが窓側に押しつぶされている。地味に圧迫感がすごい。一応三人掛けの席なんだし、まだ反対側の方が余裕ありそうなのに。


「猿河君、もうちょっとそっち行って…」


「あ、待って。カーテンかけさせてね」


言いかけたのを遮るように腰をやや浮かせた猿河氏が窓枠に手をかけた。それに伴い、ぎゅむううう…と私がダイレクトにガラスに顔が押し付けられた。貴様、確信犯か…!いや、知ってたけど。



夏休みも始まったばかり。

ここは電車で、現在親衛隊メンバー(如月さん込み)+猿河氏で研修施設へ移動中。平日の午前中、中心市街地から程遠い観光地行きの電車内はガラ空きで、トランプに興じてワイワイできるのは良かったと思う。ちなみに真面目な杉田さんと岩清水さんは指定席を取っていて別両に乗っている。


「おい、邪魔だ。足を退けろ、この薄汚い大貧民が」


向かいに座っている如月さんが、超ふんぞり返ってテーブルの下の脚を必要以上に伸ばして押しやってくる。しかもなんだその顔、イライラするなぁ。


「如月さんだって、ただの平民じゃないですか。仮にそんな偉そうな態度取っても許されるのは富豪の高橋さんまでですよ。大体たかがカードゲームでなに調子に乗ってるんですか」


「フン、馬鹿が。騙し騙される、繁盛に衰退、大富豪とは人生の縮図なり」


だからその理屈だと、如月さんは平民どまりじゃないですか。そもそも彼は打倒・猿河氏のはずなのに、猿河氏には負けたままでそれでいいのか。なぜ下位の私を攻撃して鬱憤を晴らすというゲス行動しか出来ないのか。

「小物…」と心の声がついうっかり漏れると、「なにぃ?」と如月さんがわざとらしいほど大袈裟に険しい表情をとった。


「よろしい、ならば戦争だ」


如月さんがすっくと立ち上がって、タイミング悪く電車が揺れてよろけた。へっぽこな醜態を晒し、更には隣の高橋さんに介助され少し頬を赤らめた如月さんは大人しく席に戻った。…なにがしたかったか理解に苦しむんですけど。


「次の勝負は、勝敗をはっきりさせる為にも大貧民は大富豪から罰ゲームを受けるルールを加える!おっと、拒否はできないぜ。これは決して引き返す事のできない闇のゲームだ」


何言ってんだ、この人。しかもなんだその王様ゲームみたいなノリは。

それに勝負に他3人を巻き込む必要がどこにあるんだよ。


「ああ、大富豪が大貧民に何でもお願いできるって事?いいんじゃない、やろうよ」


うわっ…なんか隣のダークマターが乗り気になっちゃったし。ほんとなにしてくれてんだ。

猿河氏が同意してしまったので、親衛隊二人が断る訳もない。


「言っておくが、トレードありだからな」


如月さんが釘をさした言葉に「えっ…」と思ったが、もう時すでに遅し。異様な手際の良さで猿河氏が全部カードを配り終えた段階に入っていた。


「…如月さん、やっぱり勝負は私達の間でやりません?こっちの方が勝敗がはっきりするんじゃないでしょうか」


手札で口元を隠し上目遣いで如月さんにルール変更を申し出る。如月さんも次大富豪になれる確証がなかったせいか「うーん…」と迷う素振りをみせたので期待に無い胸を膨らませた。


だが悪魔の一声がそれを阻んだ。


「えー、最近二人だけで別ルールとか仲間外れしてるようで寂しいなぁ。皆でゲームしてるんだしさ。高橋ちゃんと鈴木ちゃんもそう思うよね?」


…ほんともう全部、如月さんのせいだ。

私は折角奇跡的に手札に来てくれたジョーカー様2枚を、泣く泣く猿河氏に手渡した時点でもう大体の結末は予測出来てしまった。


丁度私が爆死する頃、次の停車駅まであと40分というアナウンスが流れた。

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