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25:

「うわっ、なんか猿河氏がどの写真も必ずセンターにいるんだけど。なにコレ偶然?超怖いんですけど…」


朝早めに学校に来て、他の生徒が来てないうちに親衛隊の皆と猿河氏の写ってる写真を手分けして注文する。机や椅子を取り払った大教室の一面にパネルがいくつも並べられており、そこに写真が隙間無く貼られていた。ものすごい量だ。その中でも、クラスの縁日や二日目のイベントMCに実行委員と学祭期間中大活躍だった猿河氏の写真は流石に多い。それは分かるが、写ってる写真がことごとく中心に猿河氏がいる。もう50枚近くチェックを入れている私が確認している中で全てだ。もう人智を超えた力が働いているとしか思えない。


「修司の美しさはやはり無条件にレンズを抱えている人を惹きつけてしまうのね。流石だわ…」


杉田さんがうっとりと目を瞑って頷いている。流石だわ…で片付けられるなんて器の大きな人だ。ほんと尊敬します、会長。

ちなみに注文した大量の写真は親衛隊の皆でお金を出し合って購入し、共有のコレクションとするらしい。


「しかし、こんなにも修司の写真が他の生徒にも渡るなんて勿体無い気もするわね…」


ふと、岩清水さんがぽつりと呟いた。それに同調するように親衛隊のマナカナこと高橋さんと鈴木さんも立ち上がって振り返る。


「そうね。出来れば買い占めたいけど…さすがに無理よねぇ」


「でも私たちには鬼丸が撮ってくれた画像もあるじゃない」


鈴木さんの言葉になんか褒められたような気持ちになって、デヘヘと頬が緩む。

磔刑ね、と一日目に杉田さんに処刑宣言されていた私だが、例の猿河氏のジャスティスコス画像を提出したら溜飲を下げてくれたどころか大いに感激された。グッジョブ私!


「それに…あの木更津さんっていう写真部の人の写真もそろそろ現像終わっている頃なんじゃないかしら」


杉田さん、木更津じゃなくて如月ですから。聞けば学祭の一日目はなし崩し的に親衛隊のカメラ係になっていたらしい、そこまで尽くしてさすがに名前ちゃんと覚えてないとなると哀れな気がする。でもちょっと面白い気もするので放置する事にした。


「お、おはようございます……杉田さん」


丁度そこにタイミングよく、件の如月さんが入ってきた。さりげなく杉田さんの名前だけ呼ぶというアピールをしてみるが、それも如月さんの背後にいた人物によって帳消しにされた。


「「「修司!」」」


猿河氏が如月さんのすぐ後ろに付いて教室に入ってきた。

すぐに杉田さん一同に囲まれた猿河氏を一瞥して、如月さんの耳に平手を添えてこっそり聞く。


「なんで猿河氏がここに?」


「校門前でたまたま会ったんだよ。それで現像した写真を親衛隊に持ってく所って言ったら、なんかノリで付いてくることになって…ていうか本当に偶々なのか?なんだあいつ、スゲー怖いんだけど。ずっとニコニコへらへらしてるし」


如月さんの言葉を聞いて、私の感覚は別に異常じゃ無かったと安心する。

多分機嫌が良いのだろうがそれがどことなく何かを企んでそうで怖い。


「あれ、そんなに僕がここに来ちゃマズかった?」


「ひっ!!」


突然、私と如月さんの間に割り込むように背後から猿河氏が頭を出してきて、如月・鬼丸平成チキンコンビは2、3cmは飛び上がった。そして誤魔化すようにヘヘヘ…と小物めいた愛想笑いをしてみる。


「そ、そんな事ですって。ねぇ~、如月っち?」


「そう、そうだよなぁ。杉田さんが喜ぶなら俺も嬉しいし~、なぁバカ丸?」


おどりゃ、せっかくこっちがカワイイ系の呼び名にしたのに何で私が『バカ丸』なんだよ。しかも一々杉田さんにアピールしようと画策しやがって。姑息だし、しかも杉田さん自体は1ミリも如月さんの事なんか意識してないからな!諦めろや!


「…そういえば、仲いいよね?二人共。先輩後輩なのにどこで知り合ったのか気になるなぁ」


にこにこ爽やかな笑顔を浮かべたまま、猿河氏がふとそんな事を聞く。

うっとりするような美貌なのに、何故だか背中から汗がじっとり噴出してきて本能的に後ずさりしてしまう。


「あ、それ私も気になってたわ。鬼丸の交友関係ってなんか謎なのよね」


猿河氏だけならなんとか話を誤魔化せてたかもしれないのに、杉田さんまで話に乗ってきてしまった。

さっきから動悸はすごいし、横目で如月さんをアイコンタクトを取ろうとしても私以上に動揺しててままならない。

なんか猿河氏が確信を持ってそうな気がしてならない。私と如月さんが共謀して猿河氏を嵌めようとしている事を。


「えーと、あの、鬼丸とはですね…なんか、共通の目的があったというか。ま、それだけで特に親しくもなんとも無いです。ええ」


「ちょっ、如月さん!?」


うわ…、あっさり保身に走りやがった。完全に意識が『猿河氏にバレる<杉田さんに誤解される』に向かっている。おい、首謀者。


「共通?やっぱり写真かしら。私も実は少し興味あるのよね、中学の時にここの学祭に来て見学したこともあるわ。そういえば貴方どこかで見たような」


首を傾げた杉田さんに、如月さんがヘッドバンギングみたいにぶんぶんと大きく首を縦に振った。


「そうです、そうです!その時にアンケート用紙を配ってたのが俺…僕です!如月圭吾です!」


…まさか如月さんと杉田さんに以前から繋がりがあったとは。如月さんの事だから絶対遠目から一目惚れしてそれ以来ストーカー的に好意を寄せているだけかと思ったのに。

杉田さんは実は結構可愛らしい顔立ちをしている。太縁の眼鏡の奥の目は意外なほど円らで大きい。ボブっぽく丸まった短い髪が彼女によく似合っている。背は私より少し小さいほどなので150ちょっとくらいだろう。犬塚君とはまた違った感じの童顔で、合法ロリと称しても間違いでは無いだろう。

だから如月さんはそういうロリ系が好みなだけかな、と勝手に思っていたのだ。


あら、そうだったの。と杉田さんが簡単に答えてどうもそこから話を広げる気がなさそうで、如月さんといえば杉田さんが覚えてくれていた事が相当嬉しかったのかそれだけで引く程にヘブン状態になっていたので、聞いてる私ばかり過去に何があったのか気になって仕方がない。


「へぇ、写真ね。なら夏休み中に皆でどっか景色のいい所とか行かない?きっといい画が撮れると思うんだけど」


それまで二人の会話に突っ込まず大人しく黙っていた猿河氏が声をあげた。


「ほら、C組って3位入賞したじゃん。それで実は副賞もらってたんだよね、学校の研修施設の宿泊が1週間以内なら料金無料で同伴者にも適用されるらしいんだ。確か海辺だったから、泳いだりも出来るんじゃないかな」


「ほぇー、そうなんだ…海か。どうしよう、あれ…?」


ふと周りを見るとどうしよう何か全員の目が光り輝いてるんですけど。

ナニコレ、皆行く感じ?如月さんガッツポーズしてるけど、君って親衛隊じゃないからな。これでむざむざ参加したらもう親衛隊専属カメラマンの地位が確固不動になっちゃうから。…えっ、本当にいいの?


「じゃあ、二泊三日くらいで皆の都合の良い日に予約するね」


あ、もう決定事項ですか。





「……海かー…」


テーブルの上に突っ伏していると、頬っぺたに冷たいグラスが当たった。


「も~、小娘がこんな店に入り浸ってないで恋愛で火傷の一つや二つ負ってきなさいよ。もう夏よ、夏。アタシの16歳の頃ったらそりゃあもうすごかったんだから」


野太い声の主、フジコちゃんからグラスを貰って私は声をかける。

ここは商店街の一角にある、スナック富士子。見たまんま夜のお店だが今日のように放課後にふらふらやって来ても、開店前までこうやって話し相手になってくれるどころかドリンクまでサービスしてくれる。ほんとに良い人、フジコちゃんには頭が上がらない。


「ふーん、この子そんなに最近よく来てんの?フジコちゃん」


「そーよォ、ここんとこずっと。どんだけ暇なのか知らないけど」


カウンター席の隣に座っているのは、学校にいる時とは別人のように粗雑に頬杖を付いている猿河修司。

フジコちゃんの店に入り浸ってるのを咎められたようで、バツが悪くなって視線を逸らした。


「じゃあフジコちゃんの手伝いとかするよ。皿洗いとか、それなら迷惑じゃないし役に立つよね」


「やめた方がいいよ、皿が全滅する」


猿河氏が即座に断言する。フジコちゃんも「やっぱそうよねー」と苦笑いした。


「皿洗いがダメなら全然掃除とかするよ?なんでもコキ使ってくれていいから」


それで此処に置いてもらえるなら結構なんでもやったって惜しくない。とにかく家にはなるべく帰りたくない。思わず立ち上がってお願いしたら、違う違うとフジコちゃんが手を軽く左右に振った。


「そうじゃなくて、修ちゃんは店に来る暇あったらもっと自分に構えって言ってるのよ」


「はぁ!?誰がなんだって?そんな事一言も言ってないじゃん」


声を荒上げて、目線の合ったのを思いっきり感じの悪いチンピラ風に口元を歪ませた。素晴らしく傑作なゲス顔です、ありがとうございます。


「勘違いしないでよ。フジコちゃんは、もっと同年代の友達とかと絡まなくていいのかって言ってるの。部活動も何もしてないし、それじゃあ淋しいし勿体無いじゃないのって話」


「さ、淋しい……」


もしかして、私って淋しいやつだって思われてるんだろうか。

可哀想なやつだと思われてるんだろうか。フジコちゃんや猿河氏に。いや、もしかしたら言わないだけで私の周りの皆に。

だとしたら全力で否定しなければと思った。そうじゃなきゃまた繰り返してしまう。


「別に、私さみしい人なんかじゃないし」


言葉を吐いた途端、ああ止めとけば良かったと強く後悔した。

微妙な空気が流れる。私はそんな変な事を言ってしまったのか。口の中が苦い。後ろ頭から、痺れるような痛みが這い出してくる。

なにか弁解しなければと思うのに、とっさに言葉が出てこない。自分の頭の回転の遅さが憎い。ただ、大きな口を開けて何回も空気を飲み込むだけになる。


「ま、この話はいいや。そういえば、さっき海の事言ってたけど何か気になる事でもあったの?なんか気乗りしない風だったけど」


意外にも助け舟を出したのは猿河氏だった。

何にも無かったように、話題を変えた。そして、本人すら忘れてた呟きまでちゃんと聞いて覚えてる猿河氏は油断ならない。あんまり彼の前で下手な事をしてはならないと改めて思った。


「いやー、私泳げないからさぁ」


「浅瀬で遊んでれば?プールじゃないんだから足のある所でも十分楽しめると思うんだけど」


「でも、水着とか無いし」


「ショートパンツとかでいいんじゃない。それが嫌なら、僕も新調したいし何なら明日とか一緒に水着買いに行く?」


「…なんか、猿河君いつになく乗り気だね。どうしたの?」


いつもの猿河氏なら面倒だからってうまく理由付けて絶対参加しないようなイメージがあった。ていうか、そもそも言いだしっぺが猿河氏だし。とてもじゃないけど信じられない。何か企んでいるのだろうか。


「え?だって海行きたいじゃん、海。せっかくの夏休みなんだし」


「またそんな健全な高校生みたいな台詞を…」


「ねぇ、前から気になってたけど哀ちゃんって一体僕をなんだと思ってるの。僕だって普通に健全な高校生なんですけど」


「高校生の皮を被った怪人・人でなし21面相」


有無を言わせず米神を両拳で超グリグリされた。

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