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[extra4 鬼が出るか、蛇がでるか。運命の糸は絡まり腐る]

僕、猿河修司は生まれた時から僕は人の注目を浴びて生きていた。

それは、僕がコーカソイドとのハーフで物珍しかったのもあるのだろう。


幼稚園にも小学校にも僕と同じような髪と眼の人間はいなかったし、明らかに体格も違っていた。

誰よりも明らかに浮いていて、目に見えて扱いに困る存在だった。

これがいじめにならずに、むしろ人気者に成りあがったのはひとえに僕の努力の成果だと思う。

ほんとうに頑張った。よく子供のうちから、そこまで考えられたなぁと思うくらいにうまく立ち回った。

誰からも幻滅されないように愛されるために日々研究に研究を重ね、その時の反省点と改善点を書いていた日記は全10冊にも及ぶ。そのせいあってか僕は常にクラスの中心的な位置にいるようになり、ムードメーカーとして場を盛り上げるようになった。小学校では常に演劇は主役をしていたり児童会長を務めたり、中学校ではサッカー部のレギュラーに3年間成り続け、フィールドの周りには僕目当ての女子が毎日山のようにいた。他校からわざわざ僕に会いに来る人もいるくらいで、中にはサインを要求する人もいた。


いつのまにか愛がインフレ状態になっていた。僕は色んな人に求められていた。友達もたくさんいる。色んな人に信頼されている。あらゆる状況において僕は幸運だ。と思っていた。

毎日がお祭り騒ぎのようで、やかましくぎらぎらしていて、そして何か物哀しかった。

どうしてか分からないけど虚しくてイライラしていた。とにかく疲れてしまって、子供の時のように貪欲に人から好かれたいとは思わなくなった。たまに放っておいてほしいとか思うようになってしまった。

なんでか。全然分からなかった。だけど、


『猿河君だって好きな人できたことあるでしょ?』


やっと原因が分かった。

僕は誰も好きじゃない。誰一人心から求めたことなんてなかった。

男も女も、僕には味方と認識できる人間すらいない。

それって結構痛いんじゃないか。と思った時にはすでにもう足場もなにもかも固められている。一体どうすれば解決するのかすら分からない。


あ、詰んだ。


そろそろもう限界かもしれない。猿河修司というキャラクターはどんどん独り歩きしていき、それから離されないように走って追いかける。イメージじゃないことも、イメージを壊す事もやってはいけない。実は嘘っぱちだと誰にも疑われないように注意を払う。

つらい。しんどい。なんで僕だけこんな目に。

分かれよ、分かってよ。でも教えるなんて出来ない。そこまでの勇気はないから。

応答せよ。誰か、僕と同じ星の人。誰か。





「あのー…猿河氏?」


後ろから声がするけど振り向かない。知らない人ではないけど返事をしない。

こいつにはひどく怒らせられたからだ。今も思い出すだけで腹が立つ。

こんな人通りのないとはいっても東階段は一年教室から一番近い場所にあるからいつ誰が来るか分からないし、変な事を言えないじゃないか。


「猿河氏、どう委員会忙しい?えーと、なにか手伝ってほしいこととかあります?」


無駄に粘るんじゃない。下手に出て返事なんてしてやらない。


「ねー、さーるーかーわーしぃいいい」


勝手に変な呼び名で呼ぶし。

コマンド逃げるで。しかしまわりこまれてしまった。

目の前には冴えない地味目な女子。これが鬼丸哀という僕の奴隷(ペット)

おりこうとは程遠いバカで、すぐに他の人間に尻尾を振って腹を見せてしまう躾のなっていない子。


「なに、なんか用」


会議室に忘れた携帯を勝手に見られてから、こいつは僕のペットになりすなわち所有物になった。


「用ってか、あのー、猿河氏、あの、あのぅ…」


「要件無いなら戻っていい?桐谷先輩に呼ばれているから」


「お、生徒会室に呼ばれてるの?ならお供してもいいっすか?私購買に行きたいから」


だから…。なんだこいつ。なにこの無駄なメンタルの強さ。

けろっとしたその顔を抓りたい。両方の頬をパン生地みたいに引っ張り回して泣かせてやりたい。


「猿河氏忙しいなぁ!意外と頑張ってるよね、実行委員も」


意外とってなんだよ。意外とって。

鬼丸哀は僕の秘密を知っている。だから僕もこいつに猫を被らない。

弱みを握られた時は絶望半分、もう言っちまえドロボー的なのがもう半分。

でも、これは言わなかった。何が目的か分からないけど、誰にも言わないという。

なにそれ気色悪い。ファンタジーだろ、そんなの。


「猿河君のクラスは縁日なにやるの?うちは漫才ライブやるんだよ。ちょっとステージが凝っていて、あれ、あれ知ってる?細かすぎて伝わらないモノマネって。あれをやるんだよ、しかも私も出るんだよ、森本レオをやるんだよ、ちょっと今見せてあげようか!?」


いや、そんなこと聞いてないし見たくもないし。

ていうか、さっきのしおらしい態度はどうした。何、もしかして全然気にしてないのか?

それともバカすぎてもう忘れたのか。え、マジで?


「あのさぁ、こんな風に男と二人でいたら彼氏に誤解されるんじゃないの」


だから敢えて言い放つ。今まで別に話題にするのを避けていたわけじゃないけど。

でも癪だったのだ。奴隷の分際で彼氏いるとか。

しかも僕と約束しておきながら、何故かロッカーに立て籠もっていちゃついてたし。


「は…?」


哀ちゃんは目を見開いていた。たれ目がまん丸になって、口も半開き。なにかの動物に似ている気がするけど、とっさに思いつかない。


「だから、彼氏。いたでしょ、あんたにお似合いのぱっとしないニキビ面の眼鏡」


「…キサラギさん?」


いや、僕名前しらないし。

眉を顰めて何かバカなりに考え込んで、そしてまた顔を上げた。


「キサラギさんは彼氏じゃないですよ」


「じゃあ、何」


「……とも、だち?なんなんでしょうね、あれは」


「知らないよ。なに、あんたは友達にあんなハグしたりロッカーの中に入ったりするの?」


「あ、あれには事情がありまして…」


「信じられない。あんた、事情があったら友達にキスしたり、手をつないだり、エッチなことできるわけ?うっわ、さすがビッチ」


「しないわ!なにがビッチだ、こちとら清純派が売りなんじゃ、ボケカスがぁあ!」


「え、清純派?なに今清純派っていった?イロモノの間違いじゃなくて?」


「どっからどうみてもちょっとウブな清純派女子高生(16)だわ!」


こんな会話全然、ぜんぜんたのしくない。

低レベルな言葉の応酬でばかばかしい。他の誰ともこんなことを喋ったりしない。できないし、したくもない。鬼丸哀といることなんて全然嬉しくない。全然特別なんかじゃない。


「大体、僕にそれを言ってどうする気なの。僕別にあんたに彼氏がいようがいないがどうでもいいんだけど。ああ、えぐいもの見せられたお詫びがしたいっていうなら考えてもいいけど」


「いやぁ、勘違いしているようだから間違いは正さないとと思って」


面白くない返事だ。つまらない子、もっとうろたえて動揺すればいいのに。

ほんとに全く面白くない。何を考えているのか分からない、史上まれにみる腹の立つ子。

ちらりと横を見る。うわぁ、かわいくない顔。一重たれ目の口が大きいチビ助。

でも、なんだか食べてしまいたいような気持ちにさせられる。かわいくなさ過ぎて逆にかわいい顔。


「あんたさぁ、ただの友達ならそのキサラギって奴ともうつるまなくても良くない?なんか冴えない奴っぽかったじゃん。あんなのと付き合ってたら時間無駄じゃないの」


「そんなことないですよ、ていうかキサラギさん一応先輩なんでそういう口きくの良くないですよ」


「いい子ぶるのやめて。つまんないよ」


別に良い子ぶってなんか、と鬼丸哀はむっとした顔をした。

友達はそんなに大事にする価値のあるものか。あんたにとって。


「誰も彼も一緒だとか言わないでね。僕をそいつと同じカテゴリには入れないで、虫唾が走るから。あと僕の見ている前で絡んだりしたら僕の知ってる格闘技を一通りかけるから。泣いても続行するから」


鬼丸哀なんかどうでもいいけど、鬼丸哀にとっての僕が誰かと一緒なんて許せない。

おともだちと書かれた段ボール箱にそのまま投げ捨てられるなんて嫌だから。どうせ中身は雑多でとくにランク付けなんてされてないんだから。


「えぇー…ちょっと意味わかんないんですけど」


「あー、あんたバカだもんね。だから、僕はあんたのお友達じゃないってこと。あんたと仲良しごっこなんかごめんだし、味方になんてならない」


「さ、さよか…」


ひきつったその口角に、妙な充足感を感じる。細く曲がった眉毛にも。

自分でもよく分からないけど胸の奥がきゅうと軋んだ。


「どちらかというと若干嫌いだから、あんたのことは。言うこと聞かないし、文句や減らず口はたたくし、かわいくないし、バカだし、鈍いし、なんか腹立つし、バカだし」


「なぜバカを二回言ったし…」


本当にこんな奴に会ってしまったんだろう。それだけが悔やまれる。

こんなことになってしまうなんて知らなかったんだ。知っていたら全力で回避するのに。


よく分からない奴、いつか分かりたいなんて思わないけど。

それに、分かってほしいとか思わない。味方になれとか言わない。

信用なんてしない。心なんて許さない。


「だから調子に乗らないでね。勘違いして鬱陶しいこともしないで。命令も無視しないでよ、言うことちゃんと聞いて。一応飼い主としてあんたが他人に迷惑かけないか見なきゃいけないから、会いに来てもいいけど生意気な事言わないでね。あんたバカだし理性が弱そうだから、男とじゃれてたらすぐ子供作ってきそうだから極力男には絡まないこと」


「作らんわ!猿河氏といい、キサラギさんといい、そんな発想ばっかりすんだよ!あほか!!」


「…だから一緒の扱いにしないでって今言ってたよね。なに、忘れたの?ほんと物覚え悪いよねぇ。じゃあ、僕の前で男の名前出したらアウト追加で。ペナルティはしっぺ返しってことでいいよね、はいまず一発」


「ちょ、ちょっと待って、今から!?しかも全部猿河氏こそ、無茶なこと言ってひどくないっすか」


「はい、反抗したね。二発決定」


だってあんたとは対等なんかじゃないんだから。

少しでも優位に立っておかないと、自分でもこの先どうなるか分からない。片膝ついて鬼丸哀に許しを乞うなんて、無様な真似は絶対に晒したくない。

優しくなんてしない。きっといつか戻ってこれなくなるから。油断していたら騙されて、骨まで抜かれてしまう。嫌われるくらいが丁度いい。けど、本当に嫌悪されたらそれはそれで癪だけど。

バランスを崩さないよう、細心の注意を払わなければ。そうでないと僕が壊れる。これまで築いてきたもの全部壊される。

自分がこんなバカらしいことに悩んでいるのに腹が立って、鬼丸哀の靴の踵を蹴った。

鬼丸哀は「へへ…」と馬鹿丸出しな顔でへらへら笑っていた。

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