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20:

「決めた!!」


放課後の執行部室のなかコーヒー飲み干して、叫ぶと犬塚は迷惑そうにしていて、桐谷先輩は身構えていた。


哀ちゃんは夏休み明けても登校しなかった。桐谷先輩の言う通り高校を退学してしまったらしい。

もう全く繋がりゼロ。電話もLINEも反応なし、もしかしたらスマホも変えてしまったかもしれない。以前彼女が住んでいたマンションはもう引き払ってしまっていた。哀ちゃんの友達に行方を聞いてもわからないとしか答えが返ってこなかった。しかも何故かあまり彼女の事が印象にないとまで言っていた。それは一体どういうこと?

生きてるか、無事でいるか、変な事件に巻き込まれてないか心配で心配で、夜もあんまり眠れなくて、イライラして頭働かなくて、それで決めた。


「哀ちゃんを探しに行く!そしてなんとしても連れ戻す」


このまま桐谷先輩や犬塚とあーでもないこーでもないと言っていても埓があかない。


「いやまだ鬼丸の居場所なんて確定してねーだろ。闇雲に探したってどうにもならんだろうが」


犬塚の言葉はムカつくけど、正しい。だけどこのまま何もせずになんていられない。自分の性に合わない。


「うるさいな。犬塚はそのままじっと待てばいいじゃん。大体お母さんの容態がまだ良くないんでしょ。足手まといだから、ついて来ないでよ」


犬塚の短く太い眉毛が吊り上がって何かを言い返そうとしたけど、その先を桐谷先輩が遮った。一応、軽く挙手をしていた。そういう所がマジ桐谷先輩。


「…証拠はないが、鬼丸君はエデンの苑を頼って生きているのかもしれない。何せ他にあてがない。かって父親が興していた宗教団体なら鬼丸君を助けてくれるかもしれない。ましてや教祖だった姉とは顔が瓜二つだ。そしてそこであれば僕らが容易に介入できない」


「なるほど。実は僕もそう思っていたんですよ」


「嘘つけ、脳筋ゴリラが」


犬塚と足の踏み合いをしてると、桐谷先輩がため息をつきながら仲裁した。


「ただ、鬼丸君の行方を探す以前に、彼女の目的を探る事が必要だ。鬼丸君には以前の記憶がある。やるべき事があると言ったそれが何か僕らは分かってなければならない。人智を超えた力を、今は使えなくとも彼女は非常に不安定な状態だと聞いた。猿河君が成すことを止めはしないが、くれぐれも軽はずみな行動は控えるように。君の安全の為でもある」


その手がかりが無い今どうしようもないじゃないか。自分の安全なんか二の次だ。

ただ、どうやってエデンの苑に潜入するか…。

以前正面突破しようとしたけど、上手くいかなかった。もう少し準備が必要だ。


「僕の方は、零君を探してみる。実は異界から来た彼らが住処にしていたらしい場所を見つけた。今はそこに誰もいないが、そのままに残されているから何か手がかりがあるかもしれない」


「…桐谷先輩も気をつけて。先輩に何かあったら親御さんも、この学校も大変なんですから」


顔には出ないが桐谷先輩もかなり熱くなっている。怖い顔がますます厳しく固まっている。もしかしたら今回のことに、責任を感じているのかもしれない。


「俺も行く。猿河ひとりだと心配すぎる」


この期に及んで纏わりついてくる小型犬みたいな犬塚を鼻で笑って一蹴する。


「まだ分かってないの?足手まといだって言ったよね?お母さんの病状まだ安定していないうえに、歳離れた弟たちのお世話とかしなきゃならないんでしょ。それにもうこんな状態になった哀ちゃんがそれでも戻ってくるとしたら、マジ悔しいけど犬塚の家なんだから、てめーはおうちで大人しくステイしとけ!そして、万が一哀ちゃんが戻ってきたら即呼び出すこと!分かった!?」


言い捨てて、そのまま執行部を後にした。

ぽかんと呆けている犬塚と、桐谷先輩を残して。




そのまま廊下を歩き、立ち止まる。何か人の気配がする。

学校だもの、人の気配はするだろうが誰かに見られているような気がした。


「そこかッ」


掃除ロッカーを開けると、そこには一人男子生徒がいた。


「え、ええ…あ、はは」


「如月先輩〜。僕のこと撮るならもっと堂々としてくださいよォ。別に怒りはしませんよ?それとも何かやましい事でもありますか?」


この眼鏡の先輩は、如月先輩。

前の世界線では鬼丸哀と一緒に僕にハニートラップを仕掛けようとしていた先輩だ。首から下げたカメラがトレードマークだ。


「なっ、なんでオレの名前、ひぃいい!暴力反対!暴力反対!すいませんでしたぁ〜、もう隠し撮りはしませんから命だけは!」


興味本位で如月先輩の肩を掴んでみたら、上半身をくねらせて命乞いしたから面白かった。

この人はまぁそんなに嫌いじゃない。

哀ちゃんと無駄に距離近かったのは腹立つけど、この先輩のおかげでいい目も結構見た。親衛隊の杉田さんに好意を持っていて、親衛隊の解体を目指していた。


「やだなぁ、何にもしませんよ。とりあえずそこから出ません?ほこり被っちゃいますよ」


如月先輩が逃げないように、カメラを頭から抜き取って人質にした。そうすると如月先輩は顔面蒼白になって小さく震えていた。


「あの、猿河君…怒ってる?すみません、もう跡つけて隠し撮りなんてしないので、それ返してくれませんか?」


土下座までしそうな勢いなので、それは止めた。仮にも先輩だし。


「全然怒ってないですよ、それより如月先輩。そんなコソコソ僕の弱みなんか探らなくても、親衛隊は解散してあげますよ」


なんでそれを、と如月先輩は絶句した。

この時点で僕がそこまで知っているのはあり得ないけれど、まどろっこしいのは嫌いだ。いちいち順序立てて説明なんかしてやらない。


「そしたら杉田さんは自由の身です。なんなら如月先輩を紹介してもいい」


如月先輩は、僕を嵌めようとしたクズだけど、本当に人間の性根が腐ったクズではないと思う。だから杉田さんにまた合わせてみるのもやぶさかではない。哀ちゃんと出会わない事だけでこの二人の縁がなくなってしまうのもかわいそうな気もする。


「その代わり、先輩にはすこーし僕に協力してほしいんですよねぇ」


両手を合わせてウインクしてお願いしたのに、如月先輩は顔面蒼白のまま少し後退りした。


「全然大した仕事じゃないんですけど、カメラ使える人がいたら良いなってことがあって、そういう時に助けて欲しいな〜って」


「…き、拒否権は」


「無いですよ?断ったら親衛隊の皆に如月先輩の報告しますし、カメラも返しません。理解したら携帯番号とLINE教えてください」


如月先輩はへなへなと床に座り込みうなだれた。

その姿を完全に掌握したとみなして、カメラを返してあげた。


あとの準備の事を頭の中で考えた。

上手くいく確証なんてひとつも無い。けれど、やらなければ。なんとしても哀ちゃんを取り戻さなければならない。


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