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12:

「鬼丸君…これは」


まさに茫然という感じに桐谷先輩が立ち尽くしている。


「ゲームセンターとカラオケが一緒になっているんですよ。ゲームセンターも初体験ですか」


こっくりと先輩は頷いた。

駅前のカラオケ店の一階にはゲームセンターがある。

結構広くて新旧幅広くゲーム機が揃っていて私も予約時間までの暇つぶしをここでしている。


「カラオケはこの階段登ってすぐですよ」


「鬼丸君」


袖を引かれて振り返る。そこに憮然と立ち止まったままの桐谷先輩がいた。じっと私に視線を、しかし無言。


「まさか…行ってみたいんですか」


先輩は再びこっくりとあくまで真面目な顔で頷いた。






かこーん、と気持ちいい軽い音と共にテーデーンと機械音。

電光掲示板には「You win」という表面が流れる。


「鬼丸君、もう一回!もう一回勝負だ!」


卓球台みたいな長テーブルの向こうで先輩が叫んだ。


「えへへ、どーしましょうかねぇ。このまま勝ち逃げした方が気分いいですしねぇ。まぁ、先輩がどうしてもって言うならいいですけどー」


「どうしてもだ」


先輩は腕まくりをして、私の返事を待たずに百円玉を機械に投入した。

案外負けず嫌いなんだろうか。


エアホッケーとは久々だ。

久しぶりにやると結構楽しいものだ。結構先輩と接戦で燃えるし。

一心不乱にを打ち返していき、さらにパックが次々と機械から吐き出され数が増えていく。


「あっ…!」


一勝して鼻を高くしていたのが一転焦る。

さっきからえげつない角度からパックが飛んできてしかもコンボになって此方にくる、防戦一方になってしまう。

まずい、先輩がエアホッケーのコツを掴んできているかもしれない。

こっちも狙って打とうとして、他のパックを取りこぼしてどんどん自分のゴールに入っていく。

う、うわぁ…。これは、これは…。


「よし…!」


結局私は流れを変えることはできず、数分後ガッツポーズする桐谷先輩とがっくり肩を落とす私がいた。

負けた。くそっ、なんだこの人やたら順応早いな。前ゲームはあんなに無駄な動きがあったのに。


「これは、なかなか面白いな」


「ちょ、ちょっと調子に乗らないで下さいね。まだ一勝一敗なんですからね!」


「では、もう一度やるか?」


すかさずスマッシャーを握ってやや屈み臨戦態勢になるノリノリな先輩。


「いえ…次行きましょう!次!」


先輩が覚醒した今となっては、とりあえずエアホッケーは勝てる気がしない。他の新しいかつ私の得意なゲームで勝負を挑もう、そうしよう。半ば先輩を引っ張るようにしてエアホッケーから離れた。



「あ、ニャンポウだ。なつかし〜」


UFOキャッチャーコーナーで小さい頃好きだったキャラクターのぬいぐるみがあってつい足が止まる。

また再ブームが到来しているのかもしれない。それならちょっと嬉しい。

先にプレイしている人がいて、男の人だけどニャンポウファン仲間がいてなんか嬉しい。


「あれが欲しいのか」


「え、あ?は、はい」


おもむろに桐谷先輩が前に出てきて、ニャンポウぬいぐるみが入っているケース内を指差した。


「何色のだ」


「あのピンクの…って、先輩!もしかして取ってくれようとしてます⁈無理ですって!先輩初めて見るしやるんですよね」


「やる前から無理と言ってはいけない。それに、挙動データは取れた。クレーンは秒速約1センチほどの速さで1のスイッチで右に、スイッチ2で前方向に動き、1秒静止したのち下降、目標物に到達。二本のアームを使って掴む挙動をした後目標物を最短距離でスタート地点まで持ち帰る。対象物は頭部が大きく胴が短いので重心は中心より上、首を目標点Qとする。またスタートを原点としてクレーンの通過する変位点をAとBと設定して…」


「せ、先輩⁉︎」


べらべらと一気に言葉を吐き出したと思うと 、ポケットからメジャーを取り出してUFOキャッチャーを測り出した。


「え、ちょ…それいつも持っているんですか⁉︎」


「ああ」


「なんで⁉︎」


「だって測定したいだろう。あれば便利だぞ」


日常でメジャー持ち歩いている高校生って初めてみたかもしれない。

衝撃を受けている私を尻目にケースの長さを何通りか測り終えて、改めてゲーム機の正面に立つ。


「…よし、Aが223、Bが851、Qが-204だな」


「は、はぁ…」


数字とか符号とか出てきてよく分からん。先輩はためらいなく硬貨を投入し、プレイを始める。なんだかこっちまで緊張してしまう。


たかがゲーセンのUFOキャッチャーに信じられないほど堅い面持ちでボタンを押しその間何度かまた長さを測り直している。


「む、直角に移動できないのか…」


え、直角に見えるけどそうじゃないのか?大丈夫ですか?とはらはらしながら、しかし背後から先輩を見守るしか私にはできない。

アームが見事ぬいぐるみを掴む。心もとなく半掴み状態でゆらゆら揺れるからドキマギしてしまう。気付いたら両手の拳を合わせて祈ってる私がいた。


ガコン、と無事に取り出し口に落ちてきたときは「ぃやったー!!」と叫んでしまった。恥ずかしい。


「ほら、無理ではなかったろう?」


先輩がニャンポウぬいぐるみを差し出して言う。

ぱちぱちと周りから柏手を打つ音が聞こえて何事かと振り返ると、周りの人たちが此方を向いて(なにか生暖かい目で)いる。いつの間にこんなに人が…そして何故拍手…。そんなに私たち目立っていたのか…そうだよなぁ…。


「あー先輩!ほら、あっちに行きましょ!あそこなんか新しいのありますよ」


いよいよ恥ずかしくなって先輩を連れ出してその場を去った。



自販機の前の休憩所まできて先輩と二人で座って一休みする。私の膝にはニャンポウぬいぐるみが収まっている。うう、かわいい。この半月型の目と右端だけ口を上げているどや顔。かわいい…けど。


「…先輩、本当にこれ貰っちゃっていいんですか。せめてお金を…」


「君にと思って取ったものだ。それにプレゼントをしたものに金銭を貰うのは本末転倒だと思う。それとも無理矢理渡して迷惑だったろうか」


「いえっ、めちゃくちゃ嬉しいっすよ!なんか感動しましたし!ただ私だけ申し訳ないなぁと思って…あ、そうだ」


「なんだ?」


「プリクラ撮りましょう!ニャンポウ捕獲記念&初サボり記念に!」


「プリ、クラ?」


「プリクラはえーと、何の略だっけ…とにかく行きましょう!あっちにあります」


後でこっそりググってみたら、プリント倶楽部の略だそうだ。そうだったのか…!



『撮影モードをえらんでね』


「ほぅ…よく分からないがこのオススメというのを選べばいいのか、選ぶぞ」


『じゃあ、まずはピースサインでキメ顔しよう。それじゃあいくよ〜3、2、1』


「待て待て、カメラは何処だ。目線が合わないぞ。あ、そこか。…待て、あっ」


『次はウサちゃんみたいに甘えた目をして〜』


「なんだ、それは。僕はウサギが甘えた目をしている所をみたことがないぞ。そして、先ほどから君は写真を撮るのが早い!此方は初めてでまだ勝手が分からない」


「先輩、自動音声と会話しても無駄だと思います…」


そうか、と桐谷先輩が振り返った何処でピロリンと撮影完了の音が鳴る。


「あ…」


先輩が多分顔を背けてしまったショックで固まっている。


プリクラ機IN桐谷先輩。改めて不思議な光景だなぁ。コラージュ画像のようだが現実だ。


『次はちょっとセクシーなポーズで小悪魔になっちゃおう』


「ほら、先輩!気を取り直してセクシーポーズですって!ほらほら先輩も投げキッスして」


「わかった」


あぁ、あっさり了承しちゃった。天下の生徒会長様が。そして何の抵抗もなく桐谷先輩ばっちり投げキッスしちゃった。そして撮れちゃった。証拠写真が。うわああああ永久保存だな、これは!

なんていうか、先輩は何事にも全力投球だなぁ。


そんなこんなで画像を撮り終え、裏で落書き開始する。


「これは、どうすれば…」


「とりあえず思ったままに書く感じで!フィーリングで!」


なるほど、と桐谷先輩は頷いてペンで画像に一言「バスで来た。」と書いていた。


「あ、先輩。名前入れたいんですが先輩の下の名前ってなんでしたっけ」


そういえば、私先輩の名前を覚えていなかった。入学式で言っていたと思うが失礼だが全く記憶に残ってなかった。


「ユキジ」


「ゆきじ?」


「雪の(みち)で雪路。僕が生まれた日に道路が見えなくなるほど雪が積もっていたからだそうだ」


「へぇー。じゃあ、先輩冬生まれですか。なんからしいですね。肌白いし、寒色似合いそうだし」


「そうだろうか」


落書きデコレーションもやり終えて、印刷したものを手にする。

おお、と出来上がったプリクラを見つめて心なしか目を丸くしていた。

うっ、やっぱり先輩と私の顔の色が全然違う…。先輩が本当に真っ白になってしまってるし。


「じゃあハサミで切り分けますね」


すぐ側のハサミ台に行って、切り分ける。真っ直ぐに切ろうとゆっくり慎重に刃を進めているのを観察されている気配がする。そんなに面白い光景でもないだろうに。


「君達。その制服、高校生かい」


え、と振り向くと腕章を付けた中年の男の人二人がすぐ後ろにいた。や、やばい。補導員さんだ。

考えてみれば当たり前だ。制服のままだし目立つ事をしていたし、それは補導されるよ。


「そうですが何か」


「何かって…学校はどうしたの?ここでなにやってるの?」


少しも動揺なんてした様子を見せずに補導員さんの前に先輩が立ちはだかる。


「社会勉強です」


やっぱり桐谷先輩は只者じゃない。堂々とこの状況でそう言い放つのはなかなか出来る芸当じゃないと個人的に思うのだ。


「な、なに言っているの?学校の勉強があるでしょ」


「僕は学校で教科書をなぞるのをノートに写して記録したり問題集を解いて解説を聞くのだけが勉強だとは思いません。現に僕は学校ではとても勉強できないことを学べ非常に有意義な時間を過ごしました」


「だから、こんな所で遊んでないで真面目に学校で勉強するのが…」


「なぜ貴方はそんなに学校で勉強するのにこだわるのですか。僕たちはもう義務教育は終えているし、勉強なら自宅でも出来ます。これは今日のこのスケジュールしか時間が取れなかったのです。なので此方を優先させました。これの何が問題あるのですか」


先輩、しゅ…しゅごい…。

完璧に意見を譲らないまま全て言い返している。補導員さんもたじろぎ気味になって言いくるめかねない勢いだ。


「…もういい。そこのアナタ!」


「え、私⁉︎」


補導員さんがふいにこっちを見てびっくりする。先輩を相手にするのは


「学校と名前を言いなさい。それと自宅の電話番号も」


「待って下さい。何故彼女が貴方にそれを教える必要が?」


「せ、先輩…行きましょう!」


また補導員さん相手に議論をする気満々な先輩の腕を掻き摑み全力で駆ける。


「待ちなさい!」


こうなったら待てない。無我夢中でゲーセンを出て一目散に逃げて逃げて、路上に駐車していたタクシーに乗り込む。


「も、桃園高校まで…!」


シートに駆け込むと同時にそう言っていた所詮私は先輩と違ってチキンなのだ。車が走り出して、後部座席の窓から追いかけてくる人影が見えないことに安堵して息を深く吐いた。


「カラオケ…行けなかったな…」


走って息も絶え絶えに隣の先輩が呟いた。そうだった。これじゃあ結局何のために行ったのか分からない。


「まぁ、ゲーセンも面白かったですよ…あぁっ‼︎」


「どうした?」


「せ…先輩……ニャンポウを、ゲーセンに置いてきてしまいました……あああぁ私、ばかぁあ…」


そうなのだ。プリクラを切り分けている時に台にニャンポウぬいぐるみを置いたまま出て行ってしまったのだ。


「よし、今から戻るか」


「でも絶対補導員さんまだいますよ?今度こそ逃げられないですって」


「そうか…」


「せ、せっかく先輩があんなに頑張って取ってくれたのに…本当、すみません」


私ってなんでこう迂闊なんだろう。

自分の至らなさに情けなくなって喉が熱くなる。泣いたら先輩を困らせるのは分かっているから堪えるけど。


「謝らないで欲しい。また一緒に休日にでも行ってそこでもっと大きなものを取ろう。それに、記念写真は撮っておいたじゃないか。この中に写っているだけで今回は良しとしないか?」


「せんぱいぃ…あ、そっか…プリクラが…先輩、はいこれ。先輩の分です」


「ああ、ありがとう。む…?」


何かおかしい事があったのかプリクラをじっと見ている桐谷先輩。

私も覗き込んでみるが、自分の持っているものと変わらず別段妙なものには見えない。


先輩は何故かおもむろに再びメジャーを取り出して、プリクラの長さを測り出した。え、なに?なんで?ちゃんと半分こになってますよ?


「一致した」


「え?」


「鬼丸君、世の中には説明がつかないような不思議な事があるものだなぁ…」


「??」


君には今度教えよう、と先輩は妙に満足げな声で私に告げた。

不思議な事って何?プリクラに関する事?一体なんだろう…。


「先輩、もやもやするんで事の詳細を是非っ」


「まぁ、待て。生憎現物がないから信憑性に欠ける。今度持ってきた時に話すと約束しよう。僕も聞いてほしい」


「じゃあ…約束ですよ?」


「ああ、約束する」





その日、先輩は学校に戻り放課後に特に用がない私は家に帰り、私たちは別れた。

そしてその翌日。


「じゃあ、前回のプリントの回答するぞ」


古典の担当教員の稲見ちゃんの言葉にハッとして手を上げる。



「なんや、鬼丸」


稲見ちゃんは関西出身らしく赴任二年目でも訛りが抜けない。そのせいでまだうら若き二十台男性なのにどことなくおっさんぽい。


「プリント忘れました、&解いて来るのも忘れました!」


「あほー。しゃーないから犬塚に見せてもらえ」


絶対プリント刷りにいくのが面倒なだけだろ稲見ちゃん。稲見ちゃんはちょっと大丈夫かと思うくらい緩い。


「…てなわけで、ヨロシコ。犬塚君」


ずずっと自分の机を犬塚君のに寄せる。チッ、と犬塚君に舌打ちで返答されても私が100%悪いので文句が言えない。でも、ちゃんとプリントを机の真ん中に置いてくれるあたりに優しさを感じる。


「ほな問1から下線部の行為の対象は?はい、村田」


授業再開してしょっぱな当たった廊下側最前列の村田君が答えを言って、稲見ちゃんが解説をいれたり板書する。

今日の古文はプリントの答え合わせだけか。稲見ちゃんが当てている列と私の位置や進行度からいって、多分今回は此方まで当たらないだろう。ナイス稲見ちゃん!


「次、鬼丸」


「⁉︎」


と思ったら、稲見ちゃんが次に呼んだのは私の名前だった。


「あかんで、忘れ物した分際で油断してたやろ。先生、重松先生から鬼丸をしっかり見てやってって言われてんねんて。てなわけでさっきの下線部のすぐ下にある『まじかり』の文法的意味と活用形は?これ問題にないやつやけど」


ぐぬぬ…重じいいいい!!

稲見ちゃんにまでそんなことを…!やっぱり絶対私に個人的な恨みあるだろ!前々から疑ってはいたけど今日、確信に変わったわ!


「はい。えーっと…まじかり…まじかり…マジカル?あ、マダガスカル!!ここっ!」


「おにまるー、おれは問題に答えろと言ったがボケろ言ってへんぞぉ」


教室がどっと笑いに包まれ、えへ…と後ろ頭を探りながら答えを考える。ノートを見直してみるが、それらしいものが、なかなか見つからない。


コンコン、と小さく机を叩くごく小さい音がしてその方向につい目がいく。私の視線の先でシャーペンがさらさらと綺麗な文字を書いた。そして、早く言えと言うようにもう一度プリントの上で跳ねた。


「あ、えと…打消推量で連用形です」


「よし、正解。当たらなくてもぼおっとすんなよー」


当たった…。私もシャーペンを握ってプリントの上に『ありがとう』と文字を書く。


『中間来週からだぞ 勉強しろバカ』と犬塚君が返事を書き足した。


『えへへ はい…』

『赤点三科目以上で補習決定だぞ』

『まじか!』

『赤点60点以下だからな』

『うわー補習確実だわ』

『諦めるなよ…』


何回か筆談の往復があった後少し間が空いて、再び犬塚君のシャーペンがカリカリと走り出した。


『そういえば昨日はどうした?』


なんだ一応気にしてくれてるのか、犬塚君。


『また猿河絡みか?』

『いや』


そこまで書いて昨日の事を思い出してぷっと小さく吹き出してしまった。


『社会勉強してた』


思いがけずスリリングで妙ちきりんで面白い社会勉強だった。

当然犬塚君には訳が分からないもので『なんだそれ』という返事が返ってきた。

本当なんだそれって感じだよね、うん。私もそう思うよ。




古文の授業の後の体育でジャージに着替えた後、髪を整え直そうと体育館横の女子トイレに行こうとするとばったりと桐谷先輩に遭遇した。


「あ」


またいつかの時のようになったらまずいと先輩を誘導して目立たないようにする。

人がいない職員室横の階段下まで連れて行き改めてまず挨拶する。


「おはようございます、昨日は大丈夫でした?先生とか家族の人は怒られませんでした?」


「別段何も言われなかったな。君は?」


「担任の先生に休む時にはちゃんと連絡しろって言われたくらいですかね」


「そうか」


と小さく頷いて「そういえば」と先輩が続ける。

ん?と先輩の方を見てあることに気付く。


「例の約束のものを…どうした?」


「先輩、お腹と太腿がすごいことに…」


「なに…?あ、毛が…」


先輩の制服に白くて細かな毛がもっさりと張り付いていた。

動物の毛らしきそれは。


「もしかして今日ポン太膝に乗せてました?」


「ああ…朝、少し授業まで時間があったからつい」


「毛が抜ける時期ですもんねぇ」


私もポン太乗せる時は気をつけよう。まぁ、私の場合は膝になんて乗ってくれないけど…。

うーん、それにしても先輩の制服を払ってみても繊維の質の関係で中々取れない。


「だめです、やっぱりガムテープか何かで取らないと。…先輩?」


見上げると先輩がじっと此方を見ている。

感情の薄いその目はやっぱり何を考えているのかよく分からない。

でも、感情のないロボットのような人じゃない。何事にも全力投球だけど、ただちょっと…いや大分、人よりマイペースなだけなのだ。


「やっぱり君には」


「え?」


先輩の手が私の肩に触れる。乗る。

それからほっぺに、首に。1つ1つの部位の存在を確かめるように。


「え、ちょ先輩?」


少し冷やっとしたけど初めて先輩の手に触れた時ほど冷たくは感じない。

でも唐突なよく分からない行動にびっくりする。


「無いのだな」


「え、何が!?乳が!?乳が無いって?」


「違う」


身体的特徴のことじゃない、と桐谷先輩がちょっと声を大きくして答える。先輩、実は下ネタが苦手……?


「そうじゃなくて、その…僕の意思はちゃんと君に届いているということだ」


「へ?」


「パントマイムではなかった」


「パントマイム?」


うん、とだけ答えて桐谷先輩が私の頭をひと撫でした。


「だから僕は嬉しいのだと思う」


よく、分からないけど先輩が嬉しいというならそれでいいかと思った。

移動時間にちまちま書いてくと意外と書く時間が取れると気がついた今日この頃です。

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