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15:

哀は私が力を使いこなす為に何度も暴行を受けた。

ある時はカッターで切り傷を無数につけられ、ある時は手足を折られた。髪をむしられたり、爪を剥がされたりした。何度も何度も何度も何度も。傷つけられては直されの繰り返し。


力を使わされるのに抵抗していた私が、哀なら何がなんでも助けざるをえないのに、お父さんは気付いたのだ。



「哀、痛いよね、私のせいでごめん」


謝る事しか出来なかった。哀は激しく苦しがったり痛がったりしたが、この生活が数ヶ月以上続いた頃には痛みを訴えなくなった。


「これが家族みんなの為だから良いんだよ」


哀のこの答えに、私は彼女が壊れはじめているのに気付いた。

気付いていながら何も出来なかった。


「そんなわけ無い。お願い、哀だけでも逃げて…」


しかし、ここまで来たらお父さんは、哀も逃しはしない。

私と別室で哀も閉じ込められるようになり、自由に会えなくなった。哀の安否が気になってたが、命令に従わないと会わせてもらえなかった。そして会う時は哀がボロボロにされた時だ。


私は学校に通う事をやがて許されたが、代わりに私はお父さんが立ち上げた新興宗教団体の教祖にされた。子どもとはいえ最低限の学がなければ、と言うがこんなものは最初から馬鹿げている。小学生が教祖なんて誰が信じるんだ。

だというのにお父さんが作った宗教団体・エデンの苑は、信者が続々と増えていった。


こいつら頭がおかしいんじゃないか、と本気で思っていた。


私はお父さんの指示通り話すだけで明らかにハリボテなのは分かりきっていた。怪我や病気を直す、といっても癌や臓器不全を直すまではまだこの時には出来なかった。

それでも信者は、お父さんが演出したパフォーマンスに感動し、私を「天使様」と呼び、法外なお布施をすすんで渡した。


気持ち悪かった。天使、なんてとんでもない。

私の存在のせいで哀が滅茶苦茶になっているのに。他人なんてどうでもいい。彼らの凄惨な不幸話を聞いても少しも心が動かない。こんな教祖をまつりあげて、愚かすぎる。


「天使様、休まれていた分の授業ノートをどうぞ」


おそらく親が信者であろう同級生がまとわりついてきた。

以前は私に見向きもしなかったくせに。親に言われているんだろう、私を天使なんて呼んでくるから虫唾が走る。

頭が痛いことに一部の教室すら私を天使と呼び、あからさまに依怙贔屓し出した。

彼らの期待が鬱陶しい。私を本当に天使みたいな大層なものだと思い込んで、仰々しく扱ってくるのが気色悪い。こんな扱いをされても私が少しも喜んでないことが分からない事から、実際には私自身のことなんか見ていないのだろう。


「どうかお力を貸してください」


嫌だ。私はあんた達を助けたくないし、関わりたくない!


私の意志とはお父さんは私を使い続けた。

私は哀以外の人の怪我も何十何百も直し続けて、そのうち身体に異変が出てきた。確かに力は向上して臓器や脳まで弄れるようになったが、ひどい眠気が時々襲ってきて1日中眠るようになってきた。それは時と場所を選ばない。少しずつ少しずつその感覚は短くなっていく。一度倒れて病院に行ったら「10歳とは思えないくらい脈が遅い」と言われた。

それでも両親は私に休めと言わなかった。


「零は、お父さんの為に生きるのよ」


お母さんは意識を混濁した私を揺り動かした。お母さんも頭がおかしくなってしまった。お父さんに洗脳されて、すすんで哀を虐待したり変な薬や液体を信者に配ったりしていた。


「天使様の母親になれて嬉しい」


確実に家庭は崩壊していた。もう哀や私を守ってくれる優しいお母さんはいない。

もう慣れた。今更悲しくなったりしない。この人がもっと強い人だったら良かったとは思うけれど。


哀は私を脅す為に生かされていた。ほとんど満身創痍で、暗い部屋にひとりぼっちで閉じ込められていた。私と顔がそっくりだから信者達に誤解されないように隠されていた。

哀はそんな生活でも、私に会うと嬉しそうに笑っていた。


「あは、零はすごい、あはは、ありがとう直してくれて」


お父さんにもお母さんにも暴行を受けて、それでも哀は笑顔だったし恨み言も言わなかった。逃げようともしなかった。


「哀…」


せめて哀が私みたいな目に遭わないように、その子宮の時間を戻していた。生理は平均よりきっと遅くくるだろう。万一のことがあっても逃げられるような歳に。

そして、私はもう一つの能力を手に入れていた。脳を操作する力。といっても今までの力を応用したもので、脳が司っている一部の機能を停めたり、記憶を消したりできる。なんとかお父さんに使った。お父さんはあの忌々しい行為が、この力を引き出す鍵になっている事を今は忘れているはずだ。


「寂しい、寂しいよ、お父さんもお母さんも三日も来なかった。零だって」


父母は団体の運営に忙しく、手足を潰されて哀は放置される事がこの頃多かった。哀は自分を痛めつける両親がいない事に寂しさを訴える。その目は既に濁っていた。


「私が役立たずだからだよね。零みたいに力が使えないから、外に出してもらえないし側にいてくれないんだ」


「違うよ、哀」


この狂った状況が異常だともう哀は分からなくなってしまっていた。

全て私のせいだとも思う。私がいなければ良かった。私がいなければ哀がこんな目に遭うことはなかった。

誰か助けて。国でも世界でも、悪魔でもなんでもいい。私達を救ってほしい。ここから、あの父親から逃してくれるのなら何でもするから。


「零は私を見捨てないでね、私が何にもできない愚図でも」


いや、私なんてもうどうなったっていい。お父さんの言っていた通り、どのみち長くは生きれないだろうし。

哀さえ無事ならなんでもいい。この状況から哀を救い出してくれるのなら、私はどうでもいい。


そんな私の願いが呼び出したんだろうか。


そいつは雨に紛れてやってきた。梅雨で雨ばかり降る時期に私の周りに立っている人影があった。

最初は幽霊みたいな見てはいけないものかと思って、気付かないようにしていた。何より半透明だったから。

そのうちそれは家の中に入ってきた。他の誰にも気付かれずに、気付くとすぐ背後まで忍び寄っていた。


「見つけた」


女の人の声がした。

振り向けば黒く薄い人間のようなものがそこにいた。


「…おばけ…?」


たまたま一緒にいた哀にも、それは見えているようだった。

顔は分からない。黒いマスクみたいなものを付けていて、全く皮膚が露出していなかった。

部屋の外には両親や信者達がいる。一体どうやって侵入しにきたのか。


「あなたはここにいてはいけない存在なの。だから一緒に来なければいけない」


無機質な声だが、不思議と恐れはなかった。

怯える哀を背にして、女に向き直った。


「あなたは何者?」


私は、と女は躊躇いもせずに告げた。そして私の腕を掴んだ。不思議な感覚だった。強く握られたのに痛みや圧迫感が無い。

そしてもっと驚くべきことに彼女の体型が徐々に変わっていった。大人の女の体型だったが、徐々に変わっていく。そして私達と同じくらいの背丈にまで縮んだ。髪もみるみる伸びていく。


「鬼丸 零。あなたと同じ、人間の能力以上の力を持って生まれた化け物。そしてあなたを別の世界に送る任務を担っている」


徐に彼女はマスクを外してみせた。背筋が凍るほどに彼女は私達姉妹と同じ顔をしていた。

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