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14:


「零、どうしたの。なにか嫌なことあった?」


哀に声をかけられて慌てて顔を上げた。

あれから私は何もなかった様に暮らしていた。あれのことを考えなければ、日常そのものだった。

哀に悟られてはいけない。お母さんにだって。


「零」


大丈夫、と哀に答える。

あれから1週間経った。どうすればいいのか分からなかった。哀も同じ目に遭うかもしれない、そう思うと眠れない。


「お願い、哀。私のいない所に行かないで」


お父さんが怖い。あれから目が合わせられない。

なんであんなことを。言えるわけがなかった。心配しているお母さんの顔も見れない。あれが何だったのか未だに分からない。けれど何かとてもおぞましかった。


私はどうすればいい?

誰か大人に相談すれば良い?でも、そしたらお父さんはどうなる?家族はこのままでいれなくなる?

頭がどうにかなりそうだった。私は恐怖なのか不安なのか分からない感情で不安定になっていた。


「わかったよ、ずっと一緒だよ」


哀はそう言って手を握ってくれた。理由も聞かないまま、哀は本当に出来る限り一緒にいてくれた。学校でも家でも。本当は他の友達とも遊びたいだろうに。哀は優しい子だ。今も昔も私の一番大切な人だ。


だけど、私達はまだ子どもで大人な支配下にいるしかない。

私は恐ろしかった。自分はおろか哀にもお父さんは同じことをするのではないか、と思った。

だって私と哀は見た目はほとんど同じだ。学校の先生だってご近所さんだって私達を見分けられない。性格は多少違うけれど、きっと別にそこにはこだわってないのだろうと思う。だって今まで特別自分だけが可愛がられたり贔屓されたりしたこともなかった。そして、それは哀も同じだ。


「零って生理きたんでしょ?やっぱり痛い?すごく辛そうにしてるよね…」


何気なく言われた一言にハッとした。

もしかして初潮が来たから?それを知ってこの凶行にでたのだろうか。根拠は無いが、なんとなくその線が濃厚な気がする。

しかし何故?そんな事に何の意味があるのだろうか。保健体育の授業で習った。生理が来たのは排卵するようになったということ。それは妊娠できるようになったということ。吐き気が込み上げてきた。


「ごめん、あんまり面白い話じゃないね。お母さんがね、あんまり辛いなら病院で薬もらおうって言ってたよ」


だとしたら哀は、哀も同じように初潮を迎えたら同じ目に?

だめだ、そんな事。だけど逃げるわけにもいかなかった。首を振ると哀は私の横で膝を抱えて小さくなっていた。


毎日毎日、心臓が痛かった。

お父さんに無邪気にじゃれる哀が心配で仕方がなかった。気をつけて、と言っても哀には上手く伝わらない。お父さんに近寄るのを辞めさせれもしない。


そして、まごまごしているうちにその日(・・・)が来てしまった。


初めはただの事故だった。

哀がポットのお湯を誤って出してしまい火傷をした。哀は痛さに泣いて、私はどうしたら分からなくて思わず患部に触った。お母さんは出かけていて当時は携帯電話を使ってなかった。

少しでも痛みが和らぐように念じていたら、少しして哀が泣き止んだ。

最初は哀が我慢しているのかと思った。


「あれ…痛くない…」


哀の顔を見て、傷口を確認した。すると赤く腫れ上がっていた火傷が無い。

夢だったのだろうか。私と哀は顔を見合わせた。



「零、お前は成功だ」



お父さんにその場面を見られていなければ、どんなに良かったか。きっと私の人生は全く別物になった。

おとぎ話の双子の話の続きみたいに、そこから私と哀の人生は決別することになる。私が哀とは違うから、人じゃなくなったから。





「鬼丸の血は特別だ。虫ケラのような他の人間など、お前には敵わない」


お父さんは私を小部屋に閉じ込めて話続けた。

平日だが私は学校に行けなかったし、お父さんだって会社に行く時間を恐らく過ぎている。碌に寝させてもらえない。食事もまともには貰えずうまく頭が回らなかった。

哀とお母さんは今何をしているのだろう。


「選ばれた人間なんだ。だからその力を使ってこの世界を動かさなければならない」


お父さんの目は今まで見たことないような輝きに満ちていた。

私は怖くて逃げるに逃げれない。なんでこんな事になってしまったのか。


頭が痛い。吐き気もする。最悪な気分だった。

お父さんが話すことは半分以上がわけの分からないことだった。一族の歴史や本当かも分からない力を使えた親族の話。

この世界とは別の並行世界から祖先がやってきた、なんて話は馬鹿馬鹿しい。

それととても意味があるとは思えない妙なことをさせられた。その時だけ哀も呼ばれて同じことをさせられていた。


「これは女にしか使えない力だ。哀はどうなるか分からないが、これまで双子両方が力を使えた事はないから絶望的だが」


お父さんは何となく哀と私を分かりにくく区別していた。ほとんど同じ見た目なのに何故かは分からないが、なるべく近付かないようにしている節があった。今となってはそれで良かったと思った。


「今はまだ火傷くらいしか治せないだろうが、その力は使えば使うほど強大になる。お父さんのためにたくさん使いなさい」


お父さんは傷ついた動物や虫を私の前に寄越して、直すように指示した。このお父さんがわざわざ怪我をしている動物を拾ってくるわけがない。そう思うと治してあげなければと思わざるえなかった。

本当に力を使うたび、その精度は上がった。最初は折れた四肢も痛みが和らぐ程だったのに、少しずつ完治するようになった。

自分のことなのに不思議だった。まるで手足を動かすみたいに力が使える。そしてこれは治癒している訳ではないのも分かった。生き物の時間を戻しているのだ。だから古傷や元々生まれつきの奇形は治せない。


「あなた、もう止めて。零を休ませて、外に出させて」


お母さんが何回か私を連れて行こうとしたが、お父さんに殴られた。


「うるさい、邪魔をするな。グズはまとめて出て行け」


私は両親のそんな姿に泣いてしまった。哀も泣いていた。


「お父さん!零の代わりに私がやるから、お願い、お母さん叩かないで!お父さんっ…」


激昂したお父さんはお母さんが動かなくなると、哀の首を締め上げた。もがいても小学生の力じゃ大人の男には勝てない。

私が泣いてお父さんを揺すろうが哀を引き離そうとしようがびくともしなくて、哀は呻き声をあげながら泡をふいていた。


やがて哀は動かなくなり床に崩れ落ちた。顔色がおかしくてまだ息があるが非常に危険だ。お母さんだってさっきから声ひとつあげないで横たわっている。


「救急車っ」


私はとっさに電話の方へ身を乗り出したが、お父さんに腕を掴まれた。動けず私はお父さんを見上げた。


「お前が直せ」


昏い目で哀を指差してお父さんはそう告げた。

瀕死の人間を直すのは初めてだ。しかし、失敗したら哀は死ぬ。お母さんだって。

結果的に哀もお母さんも元通りに直すことができた。お母さんは私の力を初めて目にして、明らかに態度が変わった。

哀は私を抱きしめて、また泣いていた。ごめんねごめん、と哀は何も悪くないのに謝っていた。


「…使えるな」


お父さんが後ろで低く呟いたのを聞いて、背筋が凍った。

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